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【本編完結】とある(残念)イケメン観察…しない残念令嬢  作者: 泉ヶ森 密筑


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肉祭り~不発

拙作をお選びくださり、ありがとう(^人^)ございます


警務の部署には、少し残念な賑やかしが居るもよう。



「では、お毒味させていただきます」


 近衛のお一人のお言葉に、わたくしは隣に座す父の袖──肘の辺りをツンツン引っ張ります。ですが父は無反応です。


 近衛の方がフォークを右手に固まりました。わたくし、見ていられず給仕の為に席を立ちます。


「こちらでは庶民と同じ流儀で、一枚の大皿に一種類の惣菜を盛り付けてございます。各人毎の皿はスープのみであるとお考えください」


 近衛のお兄さんがフォークからスプーンに持ち替えました。


「スープは適当にスープカップによそり並べた物を、別の人間が適当に各席に運んだものです。わたくしも運んだ者も、意図的に一つの皿を目的の席に運ぶのは困難であった事は申し上げておきます。それでもお毒味の役目柄、必要であるならば、こちらの豆皿をお役目の際に御利用ください。あ、こちらが予備のスプーンです」


 わたくしはガチャリと豆皿タワーをスプーンを手にする近衛の方の目の前に置きました。スプーンを持つお兄さんが複雑そうなお顔をなさいます。

 わたくしは構わず、見本になるように小皿に塩唐揚げとレモンの櫛切り、別の小皿に魚醤の唐揚げとレモンの櫛切りを取り分けます。中皿にはキャベツの千切り、トマトとレモンの櫛切り、そして豚カツ。別の小皿に牛肉のカルパッチョ。更に別の豆皿には、各種ピクルスと漬物。どんどん盛り付け、近衛のお兄さんの目の前に並べました。ついでに辛子にマスタードに山椒に珍皮、マヨネーズやソース擬き、胡麻ダレ、フレッシュトマトを刻んだドレッシング、三種のタルタルソースも並べます。


「このように大皿から各自お好きな物を御自分で取り分けてください。取り分けの際には必ず、各皿に用意されている取り分け用トングを御使用ください。口飽きましたらソースで味を変えてお楽しみください」

「……どれから食べれば良いのだろうか?」

「お好きな物からどうぞ」


 お毒味のお兄さんの間抜けな問い掛けをバッサリ切って捨てたらば、途方に暮れられてしまいました。


「……父様、兄様」

「僭越ながら、我々アリシア親子がお手本を披露いたします」

「伯爵、頼む」


 王太子殿下のお言葉に対し、父が大仰に頷きます。


 ……何それ。テーブル毎のビュッフェでここまで大事になるとか、何それ? 殿下方も近衛のお兄さん達も、どうせコース料理しか食べた事ないのでしょうね。反対の意味で、場違い感が半端じございませんわぁ。はぁ。




〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉




 いつもとは違い、ただただ粛々黙々と食事が進みます。


 …………………あああああアアアアア!!


 せっかくのお肉祭りだというのに、味が、味があ! 美味しいのに味気ないですわぁ! この雰囲気、どうにかなりませんの!?


 ゴホンッ


 どなたかが咳をなさいました。やけに響きましてよ。


「アリシア嬢、貴女の手にある二本の棒は何かね?」


 どうやら先程のわざとらしい咳払いは第二王子のものであったようです。会話に入る前の「あー」とか「えー」に相当する枕詞の代わりですわね。


「お箸と呼ばれる食器ですわ」

「よくそんな棒で食事できるものだな」

「一言で言えば、慣れでございます。他の方には難しいかもしれませんわ」


 実際、お箸は便利だ。挟む、切る、別ける、刺す。お箸一膳でスプーンの働き以外、色々お役立ちですの。そこまで口にはしませんけれど。


「今使用している皿の数々も、随分と艶やかだな。これはハリシア領で輸入した物か?」


 今度は王太子殿下からの問い掛け。まさかわたくしに話しかけておられるわけではございませんわよね?


「それらはここ数年、領地で試験的に制作させた試作品です。まだ安定した産業としては扱えておりません」


 兄様が答えてくださいました。兄様にしてはらしくなく、どこか事務的な物言いです。仕事が絡むとこうなるのでしょうか。王太子殿下はおそらく会話を弾ませたくて話を振られたのでしょうが、兄は終わらせてしまいました。


「そうなのか。ハリシアはここのところの領地再編で成果を上げていたな」


 終わりにした筈の会話を王太子が拾い上げました。さすがはロイヤルスキルの持ち主!


「お陰様で、何とか踏みとどまる事が叶いました。これからは、歩みは遅くとも着実に盛り返して行きたいと思っております」


 今度は父様がお答えいたします。実際、一度窮地に陥った領地はジワジワ回復しつつあり、お祖父様などは大変に悦んでおります。


「伯爵のその願いは叶うであろう。ここに並べられた陶器の数々も色鮮やか、見事なり」

「誠に兄上の仰る通りですな。神秘的な青、高貴な紫、美しき赤と黄色、瑞々しき緑。何と多彩な色数であることか」

「うむ。何よりもこの白だ。これまでの物よりも、圧倒的に透き通る白! 素晴らしい……!」


 あら? 殿下方は本当にお褒めくだされているのでしょうか? これらの試作品はわたくしが欲しくて実験してきただけの物なのですけれど。勿論この事実にもお口を噤みましてよ。


「!? 殿下! これを食べてはいけません! 痺れ薬です!!」


 見ると別のテーブル席で食事をしている警務のお兄さんでした。今度は何なのですの?

 真偽はどうであれ、全員がカトラリーを手放します。


「さて、アリサ・テッド・アリシア嬢。君は毒を盛ったのかな?」

「いいえ。わたくし、食べ物を粗末にするの、嫌いですの。何より殿下方がこちらにお出でになる予定など知らなかったのですもの、毒を盛る理由がございませんわ。仮に知っていたとしても盛りませんわ、第二王子様」

「……私に対する返答なのに、端的ではない。怒ったのか?」

「いいえ。形式的な質問である事は理解してございます。今の態度に問題がありましたら、どうぞ御容赦くださいませ。ただ呆れているだけでございますから」

「話を遮るようで申し訳ない。──警務官殿、痺れ薬との事ですが、どれが原因であるかは分かりますかな?」


 父が矢面に立とうとしてくださいます。

 父の確認に先程お声を挙げたお兄さんは「これだ!」と白い陶器製のミルを掲げられました。あれは──


「ああ、やっぱり」

「やっぱり?」

「あれは山椒です(わ)(な)」


 わたくし達アリシア家の声が語尾以外、綺麗に揃いました。


「アリサが毎年血塗れになりながら採取していたって言う、あの?」


 思わずでしょう〈お花君〉がポソリと呟きをこぼされました。第二王子や他の数人も「ああ」「あの」等という反応で一気に納得感が広まります。


「警務官殿、気になさらなくて大丈夫です。山椒を使わず何か他の物を口に入れてみてください。そうすればもう気にならない筈です」

「食べ物には向き不向き、好き嫌いがございますからな。苦手と感じられたら使わんでくだされ」

「わたくしが山椒を用意したのは油っぽい食べ物との相性が良いからですわ」

「ただ単にお前の好物だからだろう、妹よ」

「否定はいたしません。けど兄様、山椒はマヨネーズとの相性も良くてよ」

「何と!」


 兄はさっそく試されます。……けど、それ──


「兄様、それはタルタルソースですわ」

「タルタルソースもマヨネーズからできてるんだろう? 同じだ……ん!?」

「確かにマヨネーズを更に加工した物ですけれど、そちらはヨーグルトも使用した一品。あまり合わないと思いましてよ」

「ん……なんか違う気がする」

「山椒はわたくしの感覚ですと柑橘系列の香りですので乳製品との相性は悪くありませんわ。けれどそちらのタルタルソースの場合、具材との相性を考えますと山椒は微妙でしてよ。むしろ山葵を合わせたいですわね」

「ワサビ……領地ならあったのにな……」


「あの! ワサビというのは何なのでしょうか?」


 クラウス様からお声がかりがございました。そう言えば、以前に珍皮や山椒に関する問い合わせもクラウス様であったような気がいたしますわ。

 では、お答えしましょう。


「草ですわ」

「いや、ハーブです」

「いや、香味菜ですな」

「父上は香味野菜とか香辛料とかが好きですよね」

「お前は何でもハーブだな」

「アリサ!」


 と、兄が吼えれば、父がわたくしに命じます。


「お前が詳しく説明しなさい」

「……図鑑等では未だ確認した記憶のない、もしかしたらハリシア領地の山々にしか自生しない植物。渓谷や渓流に自生していて、栽培は困難。採取し過ぎると絶滅する恐れあり。根茎から葉の先まで食べられ、食中毒防止にある程度の効果が期待される。季節としては夏の山草。ピリリとした辛みが特徴ですけれど、わたくし個人の感想としては辛みよりも香りに特徴あり。大変に風雅な食用植物の一つ」


「娘よ、もう少し食材としての説明が欲しい」

「兄は辛みが苦手だと戯言を仰いますが、辛みその物はそれほど強くありません。ただ少し特徴のある辛みで、鼻に抜ける辛みです。兄はこの鼻に抜けるのが苦手なのでしょう。これも個人の体感になりますけれど、唐辛子の辛みが身体を温めるのに対して、山葵は爽やかさをもたらしてくれますわ。肉や魚との相性は抜群。ソースのアクセントにするのも嬉しい一品。兄様、マヨネーズとの相性も抜群でしてよ。マヨネーズに混ぜれば、兄様の苦手な鼻に抜ける感がかなり緩和いたしますわ。勿論、先程指摘した通り、そちらのタルタルソースに混ぜても合うと思いましてよ。因みに、お酒のお供にもお役立ちです」

「!」


「伯爵。一度王家に献上してはくれぬか? もしかしたら定期購入の話に繋がるかもしれぬ」

「残念ながら、山葵は繊細な植物の代表。輸送が困難である食材の一つ」

「うん。アリシア嬢、説明をありがとう……」

「娘よ、どうにかならぬか?」

「……先に乱獲防止の法令を敷くお約束をくださりませ」

「案はあるのだな?」

「成功するかどうかは別でしてよ」

「分かっている」

「加工後の物で良ければ可能かと。けれどその場合、毒の混入し易い状態になりますが、それでも献上致しますか?」

「究極の選択を突き付けるんじゃない……」

「現実問題ですわ」


 わたくしは痺れ薬問題が解決したものと判断して、再びお箸を手に取ります。


「儀式のような手順だね」


 これは〈お花君〉の感想です。わたくしが日本のお作法に則ってお箸を手にしたので、まどろっこしく写ったのでしょう。


「料理の時とは違い、お食事中のお作法ですわ。──ああ、ラ・ジオラス・クルイウィル様、そちらの練り辛子を取ってくださいませんこと?」

「はい。辛子をどうするの?」

「豚カツを食べるのに使うのですわ。──父様もいかが?」

「もらおう」

「私も真似してみようかな」


 父が〈お花君〉の呟きを聞き、自分の分とわたくしのお皿にベッタリと辛子を添えてから彼に辛子の器を手渡しました。その間わたくしが何をしていたかと申しますと、二切れ目以降の豚カツにレモンを搾ってございましたの。お箸を刺すように添えて搾ると、果汁の飛び散りが抑えられますの。


「え、お兄さんは使わないのですか?」

「君にお兄さんと呼ばれる筋合いは無い。私はマスタード派だ」

「えっと……?」

「説明を求む!」


 第二王子が声高く命じられました。


 そのお求めの相手も氏名してください。









アリサの説明が長い……。

一度切ります。

蛇足になりますが、現在山葵は外国でも栽培されているそうです。

 ハリシア産の山葵は、地球の物よりも繊細です。


次回は豚カツの食べ方の流派になる予定m(_ _)m


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