もぐもぐタイム始まりました
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(^人^)
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「まず初めに、茶碗蒸しでお願い」
「あ、私にも頼む」「僕も!」
「図々しくも、私にもお願いします」
「では四人前ですわね。けれどわたくしの物だけ蒲鉾抜きでお願いいたしますわ」
「はい。復唱させていただきます。茶碗蒸しが四人前。天使様だけ蒲鉾抜き、ですね? 失礼ながらメモを取らせていただきます」
「君はまだ見習いなのだから気にすることはない。だが、そろそろ見習いも一年経つだろう。一人前になったら、基本は記憶頼みだぞ」
「まあまあ兄様。今は間違えない工夫が大事でしてよ。だってこの後も注文が続くのですから」
「……そうだな」
「ミア、姉ねはたくさん食べるから、気負っていたら持たないよ」
「え、はい」
ミアはいま一つ分かっていない様であったが、素直に厨房へ戻って行った。
「あ、しまったですわ。茶碗蒸しだと鰹出汁。“おとも”の飲み物が困った事になりましたわ。うっかりうっかり」
「普通にお茶とか珈琲は駄目なの、姉ね? お祖父様が烏龍茶の茶葉持って来てくれたの残ってるよ」
「病み上がりですもの。カフェイン系列は初めは避けたいですわ」
「クヮフェンが何かは知らんが、いきなりワインを頼んだ奴の台詞じゃないだろう」
「“カフェイン”ですわ兄様。因みにこれは持論ですけれど、ワインは魚介類の香りと相性が悪いと思いますの。ですから本当は日本酒が欲しいのですの。昆布で熱燗、寒さが吹き飛ぶ旨味!」
「……………」
「夏に姉ねがお城から貰ったお酒は、父上や兄上や母上やお祖父様や家臣達が呑み干しちゃったからね」
「余計な事は言わんで宜しい、弟よ」
「でも姉ねが開発した焼酎ならある筈だよ」
「いいかげん酒類から離れろ」
「酷いですわ兄様……!」
「料理人が棄てようとしていた乾燥した木片みたいなの止めてやったんだ。それでチャラにしてくれ」
「鰹節の件かな? それ止めたの父上と母上だって聞いたよ」
「本気でそろそろ黙れ弟」
「えっと、話を戻して柚子の果実水とかはどうかな?」
「柚子……柚子なら……。これも持論なのですけれど、果実も魚介類とは喧嘩しがちですの。けれど柑橘類、橙やレモン、スダチにカボス等は酸味と香りが素晴らしいのですわ。……柚子なら、もしや……」
「義弟候補君、なかなかやるな」
「姉ね、飲み物すぐに頼む?」
「いえ、茶碗蒸しをいただいた後の鍋物共々にいたしますわ。まだワインも残っていますし。ただ……やはり茶碗蒸しの前に何か挟みましょう」
「あの! 天使様!」
厨房の奥から元気な声があがった。ミアだ。
「天使様の残されたレシピを元に、色々遣らせてもらってたんです。それで、今日は、その、えっと」
「“豚の角煮”ってのがあります天使様。注意書きを守って煮たんで、柔らかくは煮えました。時間もかけたので味も染みてると思います」
結局は料理長の助け船が出た。
「では“お通し”は──いえ、この場合は“突き出し”ですわね。それでお願いしますわ。ビールを添えて」
「こら!」
「悩みどころは“赤”にするか、“黒”にするか」
「料理長! ビールは無しで頼む!」
「寒い季節ですし、“黒”ですかしら、ね」
「聞け、妹よ」
「わたくしまだ魔力が全然足りませんの。これくらいでは酔いませんわ」
「いや…しかし、だな……」
「兄に、もうビールも“突き出し”も来たよ」
「……………」
「いただきます♡ あら、お箸で割けますわ♡」
「どうぞ」と出された肉を同時に用意された箸で割き、嬉々として口へ運ぶアリサ。幸せそうな顔でモグモグ咀嚼。感想は──
「少し甘味が足りない気がいたしますわ。けれど砂糖は具材を絞めて硬くする危険性が高いので悩みどころですわね。他の甘味料、水飴あたりを最後の仕上げに少量加えれば甘くなりますし、艶も出ますわよ。それと個人の好みとしては、もう少し生姜が効いていた方が嬉しいですわ」
「相変わらず謎のレシピで献立を増やしていく奴だな、妹よ」
「兄様もどうぞ。他の二人も。──ミア、追加で三人前お願い」
「はい、ただ今お持ちします!」
「あ、練り芥子も付けてくださいましな」
元気な返事の後に用意された角煮と練り芥子。練り芥子は四人分、豆皿にて出て来た。