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誘拐は犯罪です


本当の事件が発生します



 夏休みが本当に間近であったことが功を奏したのでしょう。

 わたくしと〈お花君〉に関する噂は広まりませんでした。

 まあ大半が(ある意味)直接的に御令嬢対わたくしの問答を聞いてもいるのです。あれだけ堂々と学園を巻き込んだ発言をすれば、まず疑う方がおかしいとなるでしょうね。


 但し上記の理由は半分。もう半分は、男女問わず学園に広く生息している〈お花君〉のファンの集いが噂を丁寧に潰してくれていたのが大きいようです。代りに、〈お花君〉()噂を嬉々として広めようとしているアティアの悪評が恐ろしい程速やか且つ広範囲に浸透したそうな。

 残念ながら現在のわたくしは預かり知らぬ事実ですの。随分後の大人になってから「そう言えばあの時」と知らされる情報なのですわ。




〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉




 そうしてその後は何事も無く、無事に夏の長期休暇に入りました。

 勿論わたくしは領地には帰りません。再三家族からは領地に戻るよう言われたり、手紙を貰ったりしています。もう鬱陶しいので無視してやろうかと誘惑に駆られますが、無視はいたしません。我が家の人間は心根の柔らかな温かい家族なのです。誘惑には駆られても冷たい態度はついつい控えてしまう、そんな最強天然さん一家がわたくしの家族ですの。今日も今日とてお断りのお手紙を認めます。ふう。郵便代も馬鹿にならなくなるのではないかしら?


 何はともあれ、わたくしは朝に夕なに観測を続けております。



 それは長期休暇に入ってから十日程経った頃合いだったでしょうか?

 その日わたくしは夕方の観測を終えて、長期休暇中でも学園にいらっしゃる先生と用務員さんに挟まれるようにして裏門まで歩いていましたの。すると門の向こう側が何やら騒がしいのですわ。正確には、門番さんと何方(どなた)かが言い争っているようです。

 このまま進んで良いものかどうか……。

 わたくし達は三人共に自然と足が止まりました。


「……先生、表門から出られますかしら?」

「そうですね……用務員さんも居りますし、その方が良いやもしれ──」

「アリシア嬢? もしやアリサ・テッド・アリシア嬢ではございませんか!?」


 先生のお言葉をぶった切るように、門の向こう側の殿方からお声がかかりました。

 見ればアイスブルーの影を潜めた銀髪。何より特徴的なブルーオパールの瞳。けれどサイラス様ではございません。サイラス様と同年代か、少し若い感じです。


「突然失礼! 私はクルイウィル家次男のクラウスと申します」

「クルイウィル殿、呑気に挨拶をしている場合ではありません。──失礼、お嬢さん。私は第三騎士団の者です。御協力願いたい」


 第三騎士団の配置は街の警備、地球風に言うと警察官のような立ち位置です。こちらにおいでになっている方はお役目柄か、とても声の通りの良い殿方ですわ。体形は共にいらっしゃるクラウス様とそう変わらない、騎士にしては細身のアッシュブロンドの二十代半ばのお若い殿方。紺色の制服が良くお似合いですわ。

 けれど、わたくしは突き付けられた要望に内心ただただ首を傾げます。


「ただ一言、弟を捜していただきたい!」

「家出ですの!?」

「違います!」




〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉




 わたくしは今、クラウス様と共に居られた第三騎士団の方に抱えられる形で馬に乗せられています。ええ、馬車ではありません。何でも急ぎであるとか。そしてクラウス様より馬の扱いに長けているとの理由で、わたくしこちらに同乗させられたのですけれど、スピードが、速くて怖いですの。もっと速い乗り物も知ってますのに、怖いですの。今にも振り落とされそうで不安ですの!


「アリシア嬢、弟の印は?」


 並走なされているクラウス様からのお声がけに意識を引き締めます。


「着けたままですわ。ですが魔力を補給しておりませんので、残っているかどうかは確かではございませんの」


 毎日観測している学園の草木なら、結果的に観測の度に魔力を補給しているようなものなので問題はございませんの。けれど当然のことながら〈お花君〉とは長期休暇に入ってからお会いしておりません。元々人目につかぬよう魔力を抑えてもいましたし、残滓でもあれば上出来ではないかしら?


「それで、結局何なのですの?」

「誘拐です」

「!?」


 答えてくだされたのはわたくしを抱える騎士様でした。明瞭簡潔。間違えようの無いお答え。

 続くクラウス様の説明によると、〈お花君〉はお茶会に呼ばれて出席していたそうですの。


「殆どの場合は断るのですが、どうしても断れない筋という物もありまして……」


 歯切れが悪いです。どうせ付き合いのある上位貴族に半ば脅すような形でゴリ押しされたのでしょう。

 ですがお茶会の終盤、そろそろお開きにしようという段になって〈お花君〉が居なくなったそうです。普通なら主催者側が大騒ぎするところ、主催()は何も無かったように流そうとしていたそうな。それを他のお客様が騒いで、結果的に騎士団に通報されたと……。

 時を同じくして、クルイウィル家の方でも迎えの馬車をやったところ、騒ぎに出くわし、本宅が知る事態になったそうな。で、クルイウィル家はわたくしの《(マーキング)》の件を把握しています。結果、藁にもすがる思いでわたくしを迎えに来たとなるのが今です。


「ところで、何処へ向かってますの? この道、街へ向かってますわよね?」


 てっきりお茶会の現場となった〈家〉に向かうのかと思っていましたのに、道筋は街へ向いています。

 クルイウィル家が断れない相手となれば、相当な高位貴族でしょう。貴族のタウンハウスは、高位の家、有力な家程城のそば近くにあるのが定石です。尤もこの季節は領地に戻っている貴族も少なくありませんが、わたくしを迎えに来た時点で王都内の出来事であると判断して良いでしょう。

 馬はどんどん街へ走って行きます。城からもどんどん離れて行きます。


 街の中に入りましたが爆走は続きます。本来なら馬を降りなければならないのに、馬車道──車道をそのまま利用しているのでスピードも落ちません。第三騎士団の騎士様が居るので咎められないのでしょうね。

 もれなく大きな馬車と、馬車を取り囲む人混みが目に入りました。馬車を囲んでいる殆どは第三騎士団の騎士様達です。ですが野次馬も相当数集まっております。もう大騒ぎですわよ。

 漸く速度が落ちて、馬が足を止めました。ふうっ。


「班長、連れて来ました」


 〈班長〉とおぼしき三十路くらいの、お髭の良く似合うおじ様がこちらを振り向いたのでした。












漸く現場その1に到着。一度切ります。

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