160.一雨毎に寒くなる②
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ママン視点
「まず初めに訂正させていただきます。いえ、訂正しかございませんわね」
冷んやり低音にてディアナは口を開いた。
「我等が娘アリサが貴方ごときと結婚する未来はございません」
「私ごときとは、随分な言い種だね。フリングホーニは本当に女性の躾がなっていないようだね」
「夫もわたくしもその他の家族も貴方の存在を快く思っておりませんし──」
「私の家族は大喜びだよ。つまり、シメサツシ王の許しを得ているという話さ」
「こちらフリングホーニ国王、及びフリングホーニ貴族院も承知してはおりません。更に、娘には国にも貴族院にも我等家族にも正式に認められた婚約者が存在します」
「今すぐ別れさせてね。アリサ嬢は私の所有物なのだから」
「貴方の要望はフリングホーニへの越権行為であると共に、大袈裟に言えば宣戦布告に等しい侮辱でもありますので、その旨報告させていただきます」
「本当に大袈裟だな。私はシメサツシの時期王位に着く男だよ。貴方達にとっても名誉だろうに」
「不名誉の間違いです。何より貴方は王太子ではなき事実を加えさせていただきます」
「今の王太子は名目上の飾りだよ。それに現時点でも私は王子だ。それを、どうしてそんなに臍を曲げてしまっているのだろうね。え、そうか! やっぱり正妃に拘っているんだね。でもフレシア嬢の方が身分が高いのだから、そこは諦めてもらうしかないんだよ」
「そのフレシアなる娘は公爵家の籍から外され、現在は平民でございます」
「……フレシア嬢は公爵家の血を引く娘だぞ」
「少なくともドラゴジラ家の血は引いておらぬようです。故に彼女は元々養子の扱いになってございます」
「彼女はドラゴジラの嫡子だろう」
「いいえ。元々嫡子として扱われてはおりません」
「少なくともシメサツシの公爵家の血筋に間違いはない。ドラゴジラを継ぐのに何の不備も無いだろう」
「それを乗っ取りと言うのです。ああ、彼女は現在この城の地下牢に収容され、発狂の兆しが観察されたそうです」
「……何と酷い」
「酷いのは貴方です。我が娘への対応も然り。そればかりか貴方は自国を滅亡の危機へと追い込んでいるのですから」
「今度はシメサツシの滅亡だと? フリングホーニは戦争でも仕掛けるつもりかな? 高々貴族の娘一人が死にかけたくらいで、いったい何を考えているつもりだ?」
「フリングホーニの抗議の声を普通に届けられぬ程、精霊達が怒り狂っております。我等がアリシア家の空の便を出しましたが、シメサツシはほぼ全土において水没しているそうです。そこまでの事態に陥っても国民に対し救いの手を一切差し伸べる事ができなかったばかりか、それらの事態を招く一端を担ったシメサツシ国王は責任を負い退任なさるそうです」
シメサツシ第二王子が勢い良くソファーから立ち上がった。
「それでも精霊は治まらぬでしょう。その場合、現シメサツシ国王は毒杯を呷る結果になるでしょう」
「フリングホーニが、一国の王に手をかけるか!!」
「シメサツシには正当なる王太子が国を守ってございます」
「あの男……簒奪するつもりか!」
「それ以前の話として、多くの国民の命が既に失われているそうです。因って既に国としての体面すら保てなくなっているとか」
「そんな……何故そんな事に……?」
「この期に及んで答えが出ないような人間であるから、事ここに及んでしまったのでしょうね」
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ディアナが王都郊外の屋敷に戻ると、アリサの婚約者であるラ・ジオラス・クルイウィルがアリサを愛でながらお茶を飲んでいた。
当然アリサの自室ではない。侍女も控えている。その辺り娘の婚約者殿はきちんとアリサを気遣ってくれているようだ。本日会って来た何処ぞの第二王子とは違う。
「あ、師匠、お帰りなさいませ」
ジオラスがスッと立ちながらの挨拶。これもやはり何処ぞの第二王子とは違う。
「はい、ただいま戻りました。本日も良くお出でくださいました。ありがとう」
座るアリサの足元の床に直接座っていたジオラスが立ち上がりながらのディアナをお出迎え。この青年が未来の義息子か。可愛い。
この青年、見た目が派手であるのとは真逆で、中身は地味で堅実。何気に好き嫌いの激しいアリサが受け入れているだけはある。ディアナとしては、本当に可愛らしい。
「どうですか? 医療用浄化魔法の進捗は?」
「はい、そこそこ成功するようにはなりました。けど、まだ怖くてトイレで以外は試せないし、ましてや他の人には無理です」
現在ディアナはジオラス相手に医療用浄化魔法を教えている。というのも、ディアナがこの魔法の開発者であるからだ。
アリサが大真面目にベッドに拘束状態の重体であった時(幼少期)、女の子に対して色々憐れんだ母ディアナが魔女の時(前世)の知識を元に開発した魔法である。
実はこの医療用浄化魔法はどちらかというと腸内の掃除に近い。事実、掃除魔術もある。しかし掃除魔術は汚れその物は手元に残るのだ。例えば、掃いて寄せ集めた塵、窓等を拭いた雑巾の汚れ等を思い浮かべれば分かるだろう。しかし医療用浄化魔法は手元に腸内のあれこれは残らない。消滅ではないので、近くの森ないしトイレの倉内にそれらしい中身を移しているだけ、らしい。そしてこの医療用浄化魔法は当然医療現場で喜ばれた。しかし医療の現場以上に喜んだのが、実は兵隊や騎士等の軍関係者である。遠征等でトイレに煩わせられないばかりか、男性の性欲抑制に多大な効果が発揮されたのだ。つまり、体内で生成された欲望の元もスルッと浄化されてしまっているらしい。思わぬ副作用である。
何はともあれそんな理由で剣を携える人間には必須の項目と相成っている。この手の魔術や魔法は騎士や兵として採用され、見習いとして訓練所に放り込まれてから習うらしい。これはハリシア出身の騎士達からの情報だ。しかし追加の情報で、既に習得している人間は免除されるそうな。本当に習得しているかどうかの判断はなかなか難しいのだが、虚偽の申告であった場合、結果的に大恥をかくのは本人である為、あまり追及されないそうだ。
……………なるほど。
とにかくジオラスは前倒しで医療用浄化魔法を学んでいる最中である。彼は失敗したら怖いと言っていたが、失敗しても何も起こらない。成功してスッキリするか、失敗して何も起こらないか、二つに一つしかない。一応はこれらも言って聞かせたのだが……既にアリサに似て来たのか、元々の性格なのか、微笑ましい慎重派のようだ。
「ふふふ、まあ気張り過ぎずに頑張りなさいな。ただ安定して発動できるようになれば、騎士見習いの訓練所での必須課題が一つ免除になるそうですよ」
「学園卒業までに必ず身に付けます!」
「そんなに難しい魔法ではありませんから、のんびりで宜しいでしょう」
「はい!」
良いお返事である。
事実この魔法はイメージが大切なのであって(実際、平民女性の方が習得が早い)、難しくはない。ただ完全に術者の持つ魔力(消費魔力も大きくない)頼みになるので、他者に対して乱発できるか否かは魔力量次第である。が、習得してしまえば自分の身くらい自分でみられるようにはなる。ハリシアの領民で既に実証されている。
いずれ、そう遠くない未来では娘アリサの面倒をお願いできるようになっている事を願う也。
アリサママは……後はゲスト出演くらい、かな?
未確定ですm(_ _)m