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ドランツィツィと魔女

数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(^人^)

☆評価、ブックマーク、いいね 等もありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ


あの人、結局出てきちゃったよΣ(゜ロ゜;)



「魔女殿に〈家〉を畳む御相談を願いたく参上つかまつりました」


 緑がかった黒系列の髪色と、角度によって茜色にも赤にも見える不思議な瞳の色。ドラゴジラ家当主ロナルド・ツィツィーア・ドラゴジラ。中年になっても硬質な色気を纏う男。


 引き続きの宰相執務室にあって、聞いていた面々は一人を除いて絶句した。いきなり訪ねて来てお偉方への挨拶もそこそこに突然の爆弾発言。普通は驚く。


「あ…いや、待たれよ内閣諜報部長! 突然何を言い出すのだっ」


「宰相こそ待たれよ。私はまず魔女殿に相談したいのだ」




「察するに、内閣諜報官の管長は第二王子殿下、そして実務と殿下を繋ぐのがドラゴジラ卿、といったところでしょうか?」


 この場に居る唯一の女性たるアリサの発言にドラゴジラ卿が「フッ」と笑みを漏らした。


「さすがは魔女殿。要らぬ説明は省けそうですな」


「はじめまして。わたくしはアリサ・テッド・アリシアと申しますわ」


「………アリシア家の御令嬢であったか。──いや、挨拶が前後したな。丁寧な挨拶をありがとう。私はロナルド・ツィツィーア・ドラゴジラだ。君も座ってくれ」


 わざわざ立ってのアリサの挨拶に、ドラゴジラ卿がスッと目を眇めた。自身も挨拶を返した後、卿は空いている席に座す。


「お話を強制的に手折(たお)る無礼をお許しくださいましね。わたくしは魔女ではございませんわ」


「ふふふ。だが〈魔女〉の存在は認知しているようだ」


「遥か昔の存在。今となっては大仰に取り沙汰す者でもございますまい」


「〈魔女〉とはお伽噺の魔女とは一線を画す。そう知る者は今となっては居ないのだよ」


「わたくしがドラゴジラ卿の仰る意味で魔女とやらを捉えていると仰いますの?」


「ああ、君は当代の〈魔女〉だからね」


 頑固なドラゴジラ卿の決め付けに、アリサは黙したまま首を振った。


「はー……まあ、良いですわ。わたくしが魔女の存在を把握しているのは、わたくしがアリシア家の人間だからですわ。ああ、一応念のために一つ付け加えさせていただきます。たまたま縁のあった人間のみ知り得る存在が魔女。故にアリシア家の誰が魔女の存在を何処まで把握しているかは、わたくし全く知りませんの」


「ならばやはり君が〈魔女〉だ」


「……何故そこに拘るのか……? とにかくわたくしは魔女ではございません」


「君は〈魔女〉なんだ」


「魔女ではありませんが、ドラゴジラ家は閉めても良いと思います」


「宜しい訳があるか!」


「あーはいはい、閣下にも分かるように説明致します。ドラゴジラ家が未だに公爵家としてあることを容認されていたのは〈ドランツィツィ〉の存在故に、ですわよね?」


 ドラゴジラ卿はじめ宰相と王が頷く。


「そのドランツィツィは既にドラゴジラには存在しません」


「以前にもあった発言だな。何を以てそのように断言できるのか?」


 宰相の確認に、アリサがチラリとドラゴジラ卿の顔色を窺った。


「……ドランツィツィはドランツィツィとして生まれて来る訳ではございません。正確には受け継ぐ者ですの。ただ赤に近い瞳の色味を持つ人間の方が受け継ぎ易いというだけですわ」


「………は?」×三


「何故わたくしがドランツィツィの件まで把握しているのかと申しますと、ドランツィツィは魔女の息子で、魔女は千二百年程度の昔にハリシアに嫁して来た嫁だからですの」


「……説明を続けて」


「初対面のオジ様が怖いですわ。──まず魔女の説明に戻りますわ。旧王家の御世、今で言うドランツィツィのような役割を担っていたのが当時の魔女と呼ばれる女性ですわ。宰相と双璧を成す知略で国を守り支える役職。けれど宰相とは異なり、厳しく血脈で縛られた存在。それが魔女」


 今回はトップスリーが付いて来れればそれでよい。そして周囲で聞いているであろう人間が丸っと把握しようが全くできまいが、それはどうでも良い。

 アリサが一度言葉を切ると、確認したかった三人が同時に頷いた。


「その魔女の代替わりで、最後の魔女はかなり若かったそうですの。幼い、と揶揄される程に。それ故に誰も魔女の言葉をまともに取り合わず、成功の功績は他者の物に、失敗は魔女に負わせるという日々が何年も続いたそうです。けれどもある時の夜会で一斉に責め立てられ馬鹿にされ、とうとう魔女は城を飛び出し、そのまま各地を放浪したそうです。そしてハリシアに流れ着いた」


 聞いている者達は、文字通り「流れ着いた」とは思っていないだろう。


「まあそこでも多少の逸話があったり、国が取り返しに来て騒動が起きたりしたそうですが、精霊の助けを借りて再び脱走したそうですわ」


「脱走とは……穏やかではないな」


「穏やかではなかったようですわよ、陛下。自分達のして来た事を棚に上げて、居なくなって困って捕まえに来る。身勝手この上もございませんわね。ですから()王家と呼ばれるようになったのではございませんの?」


「そこは良い。再び脱走した魔女がハリシアに舞い戻って嫁いだという話か?」


「そうなりますわ 閣下。我が家の家名は、その魔女の個人名を残した、と言われておりますの」


「なぜ、魔女の名を……?」


「皆様御存じだとは思いますけれど、ハリシアは川を一本渡ると風土が変わるとまで言われる土地柄ですの。それ故か、その風土ごとに文化圏が別れ、文化の数だけ豪族が犇めいていたそうですわ。とはいうものの、ハリシアは始まりが判然としないくらいに古い土地。豪族同士の混血も進みきって、アリシア家の元になる家柄が幾つか生まれてございましたの。そこに投入された魔女が、とてつもなく優秀。そしてアリシア家の直系の御先祖と恋仲になって結ばれた。結ばれた直後はともかく、子供を生んで、そちらこちらに嫁がせたり貰ったりとしている内に本家と仰がれて、けれども古い家の名では豪族相手に角が立つ。で──」


「魔女の名前か。しかし魔女にとて家名はあったろうに、何故個人名を家名に推したのか?」


「理由としては魔女が旧王家時代、家ぐるみで国の重要人物だったからですわね」


「なるほど。再び国に取り込まれないように、か」


「しかし君はやけに詳しいではないか。やはり君が魔女なのだろう?」


「お言葉ですがドラゴジラ卿、我が家の家名が魔女の名になったのは、魔女亡き後ですのよ」


「え……しかし君はやけに〈魔女〉に詳しいではないか」


「わたくしは少々特殊な人間ですの。ですので教養もある意味変わり筋ですわ。ついでですのでドランツィツィに話を戻しますわね。ドランツィツィは魔女の息子であると申し上げましたが、彼は今のドラゴジラの祖となる公爵家に婿入り致しました」


「嫁でないのが面白いね。今のウチのように女の子しか居なかったのか、わざと女腹を残そうとしたのか」


「お家の乗っ取りを警戒した国の決定、とだけ」


「キナ臭いのは気のせいかな?」


「ふふ、どうなのでしょう? とにかくドラゴシラ家に婿入りした息子さんは大層な母親っ子であったそうですわ。これはわたくしの勝手な想像ですけれど、母親である魔女を助けたいが為に外に出たのではないかしら? 実際それだけの実力があったからこそ現在に続く礎を築けた」


 アリサのこの意見に、トップスリーは何も言わなかった。肯定か否定か、窺わせない無表情で。


「何はともあれ、実際のところはもう誰にも分かりません。ただ、ドランツィツィのツィツィは、古代語のテツィからとか。意味は息子。そしてドランはドランン、魔女の元の家名のもじりとだけ付け加えさせていただきますわ」


「待て。ドラゴジラにドランツィツィは居ない。この言葉の説明を詳しく」


 王の要請に、アリサは又もやドラゴジラ卿の顔を窺った。


「……先程も申し上げましたが、ツィツィは受け継ぐものですの。先代、と言うか最後のドランツィツィはわたくしの母の祖父。

わたくし、一度だけ直にまみえた事がございますの。曾祖父は諦めたと申しておりましたわ。曾祖父は、孫にツィツィを受け継がせるつもりであったと。けれどシメサツシから嫁を迎え、そして裏切られ、それでもその嫁を諦められない男にツィツィを受け継がせる訳にはいかない、と。ツィツィがシメサツシの為に使われる可能性は残せない。それはそれは悔しそうに………。

曾祖父の孫とは、貴方ですわよね、ドラゴジラ卿?」


 アリサの告白と問い掛けに、ドラゴジラ卿は目を剥いて硬直していた。


「曾祖父は、自分の死を以てツィツィの魂と知識を持っていく、そう仰ってましたわ」


 事実、最後のドランツィツィ以来、ドランツィツィは現れていない。ドラゴジラ家にとってもドランツィツィの輩出は悲願であるので隠すはずもない。


「もう、ツィツィの魂も知識もこの世には残されておりません。故に、ドラゴジラにドランツィツィは既に存在しておりません」


 想像より救いようの無い内容であった。









卿は人生何処で狂ってしまったのでしょうか?

悲しいρ(・・、)

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