卒業生がやって来ました
作者の首を絞めかねない新キャラ登場です。
「クルイウィル様と仲が宜しいと伺いましたの」
お名前もわからないいまお一人、良識はともかく常識の枠からはみ出ていらっしゃらない先輩が(おそらく)本題を切り出されました。
……我ながら先輩の表現がまどろっこしいですわね。「今のところ常識人先輩」でもう宜しいですわ。
「はぁ。そのような事だと思いましたわ」
あらいけない。思わず溜め息と本音が漏れ出しましたわ。
本音ついでです。言える事柄は告げてしまいましょう。言えない事が九割ですけれど。
「まず、ラ・ジオラス・クルイウィル様とわたくしは疚しい仲ではごさいませんわ」
「でも抱き合ってたって!」
やっぱり情報源はあんたか阿婆擦れ……! 男女間の事、女の足を引っ張るような情報は耳が早い。
「先生方にお訊ねいただいて結構ですわ。総ての先生方が情報を共有しているかどうかまでは存じ上げませんけれど」
これで学園側も承知している公の情報、そしてわたくしの口から詳しく言えない何かしらの事情があると察した筈です。
「勿体振ってないで詳しく教えなさいよ!」
「……………」
ええ、察するという言葉を持たない女が居ましたわね。
「お止めなさいな、アティア・カンビオン・ガーストン子爵令嬢。先生方、延いては学園側が承知していてお二人に何も処罰が無いという事は、本当に問題のある状況ではないという事ですわ」
〈今のところ常識内先輩〉がアティアを窘めます。
ある意味、大問題(事件一歩手前)でしたけれどね。それは〈お花君〉と別の男子生徒間の話ですわ。事件に片足突っ込んでましたけど。
通常であればもう少し大きな噂になっていても不思議ではありません。ですが居合わせたのが騎士訓練部の皆様であったことと、事情が事情ですから、おそらく各自で口を噤んでくだされたのでしょう。ありがたいことです。目の前に居る軽薄女とは大違いですわ。
尤も、日を跨いで時間が経てば結局噂が広がる確率も低くありませんけれど。この下世話な従妹が言い触らして回る確率が高いので。
「おや、見ない顔の御令嬢達だね。派閥を問わず他の嬢さん達とも仲良くやっているようで何より」
新たなお声がわたくしの背後からかけられました。若い殿方の心地好いお声。思わず振り向きますとそこには!
礼儀知らずな従妹以外が慌てて立ち上がり、空かさず跪きます。その際少し横目に確認しましたけれど、周囲の見える範囲の人々は立ち上がって頭を垂れています。つまり、そういうお相手。
高位も高位、王族。
確か三~四年前に御卒業なされた、この国の第二王子であらせられます。どうしてそのような大物がいらっしゃいますの?
「ブーチン嬢、ゴルデーエヴ嬢、息災のようで何より」
先輩達の家名ですわね。何やら前世の北の大国を思い出すような、似通った音のお名前ですこと。アティアに「クヌアジット」と呼ばれていた御令嬢がブーチン様ですわね。うっかり「プ」の音でお呼びしないよう気を付けませんと。「ブーチン」「ブーちゃん」ぽちゃっと「ぶーちゃん」。
「そろそろ立ってくれ。他も皆、顔を上げてくれ」
お許しが出たので立ち上がります。
………想像通りというか何というか、常識とか礼儀という言葉がゴッソリ欠落している従妹殿はやらかしちゃったようです。最後までポカンと座りっぱなしであったもよう。もうキッパリ赤の他人として振る舞いましょう。
「キャー❗ 本物の王子様だあー‼️」
赤の他人。わたくしは目の前の猿とは関係の無い赤の他人。
「ガーストンさん、お静かにっ! ええと、アリサさんも注意してくださいな。御親戚なのでしょう?」
チッ! やっぱりアティアがすり寄る女という事ですわね。ぶーちゃんは、わざわざこちらに話の向きを変えてきました。所謂自分の責任ではございません作戦ですわよ。
「そのように申されましても、元より付き合いも血の繋がりもございませんから」
「えっ!?」
「ああ、嫁と嫁で血筋が離れてますのね」
驚くぶーちゃんを尻目に、〈常識内先輩〉ことゴルデーエヴ先輩が少ない情報から理解を示されました。あれで通じるなんて、ゴルデーエヴ先輩、むっちゃ頭良いですわぁ。
目障り女はわたくしの母筋の親戚に嫁いで来た嫁の更なる親戚ですの。我が家門から見たら親戚と言うのも憚られるほど関係の遠い間柄です。ですのに、この馬鹿女が親戚、親族と煩いので、わたくしも何時の間にか否定するのを止めてしまったのですわ。うっかり馬鹿女の手に乗ってしまっている形で業腹です。
ん? あれ?
それだけ血が遠い──というか血の繋がりなど無いのに、どうして従妹だなんて思っていたのかしら? わたくし、明らかに変ではありませんこと?
んん? んー!?
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