おやきと風呂敷
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おやきが食べたい(゜ρ゜)
アリサは研究室へ入ると、窓辺に設置された大きな縦長の箱形棚の扉を開いた。取り出したるは水差しと大量のグラス。
期待が高まる。
期待が高まる中、宰相達は各々手を洗ったり洗浄魔法で全身の汚れを落としたり。これはアリサの要望による。
宰相はアリサの研究室その物に興味があったのでルンルン気分で手洗い場の水道を借りた。それは局長も同じ。ただ彼は宰相や他数名が手を洗っている間の順番待ち中、手洗いなど面倒だとごねる者達に全身浄化の魔法を掛けていたが。
水道は水の魔石を利用した装置で、どうやら室内で完結しているらしいとのこと。こういう見立て等には局長が居てくれて助かる。
前回同様椅子は無い。手を洗った後は風魔法で手を乾かし、アリサが用意してくれたテーブルの上のグラスを掴む。冷たい。
「市場に出せない程少量しかない希少種の、黄色い茶葉緑茶の氷出し茶ですわ。通常の緑茶より効能が強いので、この後に睡眠を取りたい方はお控えくださいまし。あ、今夜の眠りは阻害しないはずですわ」
アリサは説明しながらも何かを網で焼き始める。
「ケイト、手伝ってぇ」
「はい、天使様──わぁ♡ おやきだ、懐かしい♡ 中身は何ですか?」
「定番の高菜と茄子の味噌煮とキノコの胡桃和え、それと豚肉の角煮」
よく分からない会話ながら、だんだん空腹を刺激する良い香りが漂ってきた。
「ケイト、お昼を御一緒しませんこと?」
「あ……いや、はい、その……」
「久々のお休みですものね。何か予定が? それともどなたか先約がございましたかしら? 彼氏?」
「違います! スピカです!」
「そう。ならスピカに持って行ってあげなさいな。そうそう、他にもお土産を用意致しますわ」
「いや、お気遣い無く」
「名残の桃のコンポートを更に蜂蜜漬けにした物ですわよ? 二人で楽しんで」
「桃!」
「用意するので、少し時間をくださいな」
「おやきを焼いて待ってます!」
女性騎士ケイトは先触れも無くやって来た宰相達より前にアリサと共に居た。もしかしたらアリサは彼女との昼食まで考えていたのかもしれない。お茶もおやきという食べ物も、予め用意されていたようだったから。
また別の棚をガタガタガチャガチャ遣っているなと思ったら、アリサがケイトに皿を差し出した。
「魔法棟まで少し距離がございますわ。少しですけれど、お腹に入れて行きなさい」
女性騎士ケイトが皿を覗き込む。
「これ、トマトと瓜ですか?」
「そう。瓜は漬物よ」
女性騎士ケイトが共に出されたフォークで瓜を口に運んだ。
「………冷たくて美味しい………瓜なのに甘い………この塩気が何とも………トマトの水気も最高」
見ているだけで咽が鳴る。
笑顔で舌鼓を打つ彼女の前に“ドンッ”と置かれた結構な大きさの瓶。アリサだと両手で抱える大きさだ。とても重そう。
「重いけど、筋肉のトレーニングと思って運んで。ああ、でも直射日光は避けたいわね。コンポートにしてあるとは言っても桃が傷みそう。……………はい風呂敷に包むから瓶を持ち上げて」
「はいッ」
「おやきをひっくり返して」
「はいッ」
透明な瓶が紫色の大きな布地に包まれた。最後の結び目は持ち手にもなるそうな。
「おやきの方は比較的冷めている物を一つ一つ紙にくるむわね。全種類用意できてると思うけど、同じ物ばかりだったら堪忍してね。ああ、中身が分からない時は──」
「半分に割って確かめてから食べます」
「そうして。……………さて、おやきの方も風呂敷に包んでしまうわね」
瓶のように固定された塊ではなく、あまり大きさの無い複数のおやきは包み難いだろうに、綺麗に包まれた。高々布一枚が便利だ。
「あの…天使様──」
「さあ、楽しんでいらっしゃい。スピカにも宜しく」
「ッ…はい!」
こうしてアリサが女性騎士ケイトを送り出した。
「なあなあ嬢ちゃん、僕達の分は?」
局長の図々しい催促に、何故かアリサが睨み返したのは宰相の顔であった。