145.堕天使降臨……した後だった
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副題は最後にかかってきますm(_ _)m
夏の長期休暇最終日。
本日のアリサは王城の中。当然のようにジオラスがくっついている。ただ彼は今回荷物持ちのお役目を賜ったようである。背中を覆う程大きな金属(?)の樽を背負っていた。当のアリサも取っ手の付いた四角いバスケットで手が塞がっている。引率者はレイモンド翁。こちらは杖を片手に荷物は無い。その従者兼護衛が二人。護衛と言いつつ荷物持ち。一人は風呂敷包みの大きな重箱。一人はアリサと同じようなバスケットだが、こちらは重そうだ。二人のお付きは片手を空けている。これはいざという時への用心で両手が塞がる事態を避けての結果であろう。一見そうは見えないが。
本日の目的地は第二騎士団。ハリシア出身者ケイトに用があっての訪問。ついでにお昼の差し入れである。
アリサの料理はこの夏の王城での密かな話題で、なのに第二騎士団だけはやらかしの影響でアリサとは縁遠い。そして入城の為の検査は第二騎士団の管轄であったので、丸々接収されかけたのだが、レイモンド翁の「騎士個人への差し入れは禁止されていないはずじゃが?」との声に答えられず、通過の許可を得ている。実際に差し入れが目的らしき他の御令嬢達はほぼ素通りなのだ。これでアリサ達だけ荷物をどうこうされるのはおかしいだろう。
他の御令嬢達に付いていく形で進むと、もれなく鍛練場に出た。
屋外の鍛練場で、人が行き来する一辺の一画が外来者の待機場所に自然となってしまっているらしい。だが現在は訓練はとっくに終わっていたようで、見習い達だろう若い兵士達がグラウンドを均していた。その所々に群がる御令嬢の群落。見るに中心に居るのは騎士だ。お目当ての騎士に群がっている図なのであろう。
「生意気にも、うちのガロンドも囲まれてますな」
レイモンド翁の従者ジムが目敏く一画を指す。そちらの群れは小さいが、確かにガロンドが令嬢数人に囲まれていた。が、良くも悪くも本人は困惑していて浮かれる余裕も無いもよう。
「女性に囲まれて浮かれるような馬鹿でなかった事には安心したが……はて、一方のケイトは何処に居るのか?」
「あちらで見習い達に混じってグラウンドを均していますね」
ジムの呟きに、もう一人のお付きが目敏くケイトを見付けた。
因みに本日の二人目従者はいつものセネキオではない。経験を積ませてやろうと新人君を連れて来ている。
「トト様……ガロンドはあちらで御令嬢に囲まれ、ケイトは新人に混じって土均し。そのケイトを眺めながらニマニマ厭らしい笑みを浮かべる先輩らしき騎士達が数人。これって、そういう事ですわよね?」
「まあ、そうなるだろうの」
アリサの発言に頷いているのは老人二人。残る若者二人──ジオラスともう一人の護衛兼お付きはいま一つ分かっていない顔。その二人に解説し始めるのはアリサ。
「どういう訳かアリシア家が警戒対象であるのと対極的にハリシア領民は蔑まれがちですの。その流れでケイト達も苛められていた気配がございます」
「彼女の“ハリシアの剣”が折られたっていう」
「はい。それも一つでございましょうね」
アリシア家の名でアリサが送った刀が折られた一件。ジオラスが記憶を探る言葉を肯定してアリサが続ける。
「これは推論の一つですけれど、ガロンドを囲む御令嬢の中に有力貴族か第二騎士団に影響力のあるお家の御令嬢でも居るのでしょう。ガロンドは今のところそのお嬢さんのお気に入り。故に苛めの対象からは外された。対するケイトは逆に、そのお嬢さん方に睨まれでもしているのかもしれませんわね。もしくは、あそこで厭らしい笑みを浮かべて眺めている馬鹿っぽい先輩方に色々な意味で目を付けられた。あちらの馬鹿っぽい方々、ケイトが泣くのを待っているのか、それとも単に苦しむ姿が見たいのか、どのみち特殊性癖の持ち主と勝手に判定させていただきます」
ブフッという失笑が漏れた。だが失笑の主はジオラス達ではない。少し距離がある。そちらに全員が目を遣ると、お髭のオジサンこと宰相その人が(見習い)近衛を護衛騎士に立っていた。
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ケイトをアリシア家の名で呼び寄せ弁当を広げる。
その際、当然のようにケイトを酷使したい一部の騎士が嫌がらせに入ろうとした。しかしアリサが間に入り被害者をよそおって反撃した。男の急所に一撃。これが綺麗に入り、本格的に不穏な空気になったところでレイモンド翁の護衛騎士ジムが表に立つ。騎士の名誉を忘れた数人が怯んでジム達の後ろにレイモンド翁が、更なる後ろに何故か宰相と(見習い)近衛が控えているのに気付いたようだ。彼等はまるで破落戸のようにもんどりうって去って行った。
一連の様子に気付いたガロンドも御令嬢方を振り切ってこちらに合流。宰相が良い虫除けになり、余計な人間は近寄って来ない。道具を片付けて来たケイトが戻って、今度こそお昼と相成った。
そして当たり前に昼食会に混じろうとする宰相。食器が足りないと追い返そうとするアリサ。
「最低限の食器は持参して来た!」
「遠征なんかで使われてる食器のようですな」
「アリサ、宰相のお陰で静かであるのだ。お礼にお裾分けくらい良いのではないか?」
ジムのボソリとした注釈に苦虫を噛み潰したような顔になったアリサだったが、レイモンド翁の取り成しで宰相(オマケで見習い近衛)も昼食会の仲間と相成った。
鍛練場はコロッセオ形式とは違い、ただ平らな土地が広がっているだけだ。だがどういう意図か、騎士達は使わないであろうベンチがそれなりの数置いてあるのだ。そのベンチをほぼ独占で弁当を広げた。
「お髭のオジ様と護衛の騎士様は、粘りのある冷製スープはお口になさいます? 因みに代わりはございません」
アリサがジオラスが背負って来た樽から食器や鍋を取り出しつつ訊ねてくる。しかしアリサの料理に馴染みの無い人間は答えに窮する。そうと察したレイモンド翁が助け船を出してくれる。
「アリサや、今日の冷や汁の具材は何じゃ?」
「夏野菜ですわ。トマトを紫、赤、黄色の三色。パプリカも赤、オレンジ、黄色の三色。若い胡瓜に肥えたお茄子。粘りのお野菜オクラと山芋。香味野菜は茗荷と青ジソ。お出汁は鶏と牛と豚から引きましてございます」
「うおー! こっちも豪華だぞ、ケイト!」
「ガロンド、落ち着け……!」
「そちらの重箱は肉の串焼き。焼き鳥は胡椒とレモン汁漬け、砂肝やら提灯等の内臓寄せを塩。合わせて三種。豚はマスタードと梅肉の二種を大量に御用意致しました。梅肉の方は青ジソで巻いたものを、ただの梅肉風味と交互に串に刺しております。こう暑い日が続きますもの。豚肉をたくさんお食べなさいませ」
「あれ? 天使様のお弁当なのに、お野菜がありません……」
「野菜は細かく刻んだパプリカ三色とグリーンピースとヒヨコ豆をパンに詰め込んできましたわ 風味はニンニク。。ハードパンのバゲットと、主にトト様用に食パンのスライスの袋詰め二種。お髭のオジ様はトト様用の食パンの袋詰めをどうぞ。ケイトとガロンドは──はい、こちらのバゲットよ……二人とも、清浄魔法は使いましたか?」
「あ……」×二
野宿等で多用される生活魔法の清浄魔法は、文字通り身体等の汚れを落とす。心得ていますと言うように、いま一人のお付きの者がケイトとガロンドの二人に清浄魔法を無言でかけた。
今回の弁当はなかなか好評。特にアリサの料理に馴染みの無い見習い近衛ががっつき、ジオラス、ガロンドと大食い競争よろしく食べまくった。
「俺──私は野菜が苦手だったのですが、これは美味いです♪♡」
どうやらしっかり胃袋を捕まれたようである。
追記になるが、ハリシア御一行様と宰相達が振り撒く凶悪な迄に馥郁たる香りに、第二騎士団ばかりか御令嬢方まで食欲を刺激されていた事など、当然ながら本人達は預かり知らぬのである。
「ああそうですわ、ケイト」
「はい、天使様」
「もう貴女が周囲に遠慮する必要はありませんわ」
「……えと?」
「貴女達に嫌がらせをしていた方々は、近々処罰の対象になることでしょう」
「随分物騒な発言だが、アリサ嬢、貴女に城勤めの人間を処罰できる権限はないであろう」
「ええ、然用にございますわ、お髭のオジ様。ええ、わたくしにはございませんわね」
「何をした、アリサ?」
「ふふ♡ 警務の偉い方はトト様の大ファンなのだそうですわよ」
「警務か!!」×大人達
「ハリシア勢を侮り嫌がらせの数々をしていた愚か者共は、嘗てアシュラムに付きまといハリシアの収益を掠め取り、そしてトト様の救援要請を握り潰してきた一族の末達。代が替わってますので見逃そうかとも思いましたけれど、此度のハリシア勢に対する嫌がらせの数々。余罪もありそうなので警務の偉いオジサンに御相談させていただきましたの」
「警務はアリサ個人にやらかしがあるからの。さぞ断り難かろう」
「けれどもトト様、警務の偉いオジサンは結果的には喜んでましたわよ。近々お髭のオジ様にも報告が上がるのではないかしら?」
「………とんだ天使様よな、前アリシア辺境伯」
「うむ。天使は天使でも堕天使じゃ。たまに降臨するのじゃよ」
大人達は揃って閉口した。
今回は土曜日投稿落としたΣ(ノд<)
日曜日に投稿できて良かったよぉー(*´-`)