父はツラいよ
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お父さんの暴走が止まらない
「そもそも先ぱ──宰相、貴方はこちらのお歴々をお諌めして留めねばならぬ立場でしょう。そのような貴方が何故このような場に一緒になって大挙してきているのですか? しかも局長と徒党を組んで。
そしてクルイウィル君。君はアリサに付き従う番犬ではないのだ。今回のように自分の手に負えないという案件には我等なり他の味方なりに一報を飛ばすくらいの機転は利かせなさい」
「あー、ワシに対する苦情は敢えて聞き流すとして、このように年若い青年に、少し理不尽ではないかな? まあ、言っていることは分かるけどな。それと、アリサ嬢への注意はしないでも良いのか?」
アリサを抱え上げて文机の椅子に座らせた後のアリシア伯爵の怒涛の愚痴。アリサを座らせ易いように椅子を引いて待っていたジオラスはしょんぼり落ち込んでいるが、年季の入った宰相はこれくらいでは動揺しない。ついでに先程アリシア伯爵が名を上げていた王妃を売りに出すまねもしない。
宰相の言葉を受けてアリシア伯爵は自身を落ち着けるように一つ大きく息を吐き出した。
「人間の勝手な希望で晴れたり曇ったり風が吹いたり、渡り鳥が飛んで来たり花が咲いたり実りがもたらされる訳ではないでしょう。この馬鹿娘は半分はそのような存在です。因ってこちらに忖度を働かせる事もしないのが基本姿勢です。──さて、話を大元に戻しますが、アリサの心臓が止まっていると聞こえましたが、聞き違いでしたかな? 更に、何故に守護精霊様がこちらに顕現なさっておられるのでしょうか? 私の娘は守護竜様に何か失礼でも働きましたかな?」
少し早口の問題提起に多くの者が「ああ、アリサの父親だなぁ」と内心しみじみ感想を抱いていたりいなかったり。
それはそれとして、宰相がほんの少し前のあらましを説明する。静かに聞いていたアリシア伯爵の眉間にクッキリしたシワが寄った。
「…………………………」
父親としては切っ掛けになった王妃に何か言いたいだろうに、それをスッパリ諦めたようだ。今回のアリサの心臓停止に関しては誰にも予測の付かない出来事である。責任追及は難しいだろう。故にアリシア伯爵は王妃の追及は無駄な時間として切り捨てたのだろう想像は容易にできた。
「娘よ。アリサ、お前勝手に神々相手に盟約なんぞ結んだのか?」
「まあ……否定はできませんわね」
「お前は残念仕様のポンコツのくせにちょいちょい深刻案件ぶち込んで来るのは何なんだ!? 盟約とは何だ!?」
「生まれる前のお約束ですわぁ。因ってろくに憶えておりません」
「生まれる前だと!?」
「前か、前の前の時に絡むお約束かと?」
「……それ、今現在意味あるのか?」
「たぶんですけれど、有害なだけ?」
「ふざけるな!」
「あらあら父様、人前ですわよぉ。お静まりになって。それによくよく考えれば、最後の守りにはなるはずですの。わたくしが自由を守る為には最強の結末でしてよ」
「心臓が止まる結末がか?」
「生まれて来たからには、いずれ誰しも命を世界にお返しするのです。問題はどう生きるか。それがまず一つの命題」
「話を逸らすな馬鹿娘。問題は盟約の内容だ」
「ですから、忘れました。ですので何が盟約に引っ掛かるか分かりません」
「脇から割り込んで悪いが、ユナスよ落ち着け。少なくとも今回アリサ嬢は貰い事故だ。娘児にも防げまいよ」
「はっ! そうだ。自爆ならともかく城案件は基本貰い事故ばかりだ」
「しまったな。こちらが藪蛇をつついたようだ」
「なあなあ宰相さんよ。やっぱ嬢ちゃんは《希人》で確定なんだな」
「………思い切り墓穴を掘った。すまん、ユナス、アリサ嬢」
「う………まあ、半分くらいは、昨日出てきた案件ですからな」
「確定は避けましたけれど」
「今回墓穴を掘ったのはこちらだ娘よ。もうよい。問題はそこじゃない。それよりお前、ちょいとばかり人生の付加価値を盛り過ぎじゃないか? 我々が把握していただけでも結構いっぱいいっぱいだったというに、この上神々との盟約とか……本当にどうすれば良いのか……」
「どうもしませんわ。人生成るようにしか成らないのです。いざという時は、わたくし個人があの世に召されて終わりです」
「この口か? 今、理不尽を申したのはこの口か?」
壊れかけたアリシア伯爵がアリサの両の口角辺りの頬を摘まんで横に引っ張る。
「ぼうりょきはんりゃい」訳:暴力反対
「お前は! 家族が泣かないとでも思っているのか!」
「大泣きしますでしょうね。けれど泣くのが人生だと仰ったオジサンがいらっしゃいましたわ」
「何処のどいつだその理不尽馬鹿は」
「確か地球の日本ですわ。前世か前々世ですわね」
「……そいつは哲学者か僧侶か何かだったのか?」
「確かそこら辺に当たり前に居る市井のオジサンでしたわ。泣くのが人生、笑うのは修行……駄目ですわ。続きがありましたのに思い出せません」
「市井のジジイがそんな哲学宣うとか、どんな世の中だ」
「とても平和な法治国家でしたわね。一応、建前上は。ただフリングホーニに比べて教育の水準は遥かに高こうございましたわね。一般人が入手できる、というか遣り取りできる情報ですら比べるのも烏滸がましい程膨大な、比べ物にならない世界でしたわ」
「………一般人に情報を預けているのか」
「勿論、物によりけりですわ。政治に関わるような案件は峻別され操作されていたと思いましてよ」
「お前は一般人だったのか」
「おそらく。ただ自分の事は思い出せませんの。名前も、年齢も、性別も」
「アリシア嬢の価値観が斜め上なのは、それらの記憶の影響か?」
「あら、王子様が喋りましたわ」
「不敬だぞアリサ。──申し訳ありませんバルド殿下」
「先程のお答えですけれど」
「おいこら娘よ」
「大いに影響はありますでしょう。尤も、二つの過去の内の一つは今回のスタンピードで思い出した少し前のハリシアなので、どれだけ影響があるのかは分かりませんけれど」
「ん? 少し前のハリシアとは……過去世がハリシアという意味か?」
「然用にございますわ、第二王子殿下」
「お前、元ハリシア人か! でもってハリシアに生まれ直したのか?」
父親アリシア伯爵の驚愕にアリサは「ふふふ」と意味深に笑った後にこう言った。
「あの可愛い可愛い天使がこんなむさいオッサンになるだなんて、時の無情を突き付けられましたわ」
アリシア伯爵が探るような目でアリサを見詰めた。
「……………お前……誰だ?」
再びアリサが「ふふふ」と笑う。朗らかに、楽しそうに。
「貴方のお姉ちゃんよ」
「あ?」
「私、レイナ」
何秒か時間を置いてから「はあ!?」とアリシア伯爵の本気の驚愕が木霊した。
この親にしてこの子あり。
父と娘、やっぱり親子だったんですねェ。
このどうしようもない親子と作者に栄養をくださる方は
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