140.慣れて油断してるから大魔人が降臨するのです
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(^人^)
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今回の冒頭は本来なら前回の話に詰め込まないといけなかった内容かも。
何故前回頑張れなかった私!
アリサが鍋にかけていたのは大量のジャガイモ。それも茹でていたのではなく蒸かしていた。それを今ジオラスと二人で皮を剥き、潰している。付いて来たただ一人の近衛には珈琲ミルで珈琲豆を挽いてもらっている。ハンドルをグルグル回すタイプの可愛らしいアンティーク調のあれだ。
ネチャネチャ音をさせながら一足先に荒く潰し終えたアリサが同じ鍋で蒸かした人参を銀杏切りにしていく。こちらも粗熱が取れた感じだが、実際はまだまだ熱いだろう。少し遅れて潰し終えたジオラスには、これまた同じ鍋で蒸かした玉子の殻剥きを頼む。かなりしっかり固茹でならぬ蒸かし状態の玉子を冷やしていた水から上げて、引き続き黙々と作業を続ける。その間にもアリサが、ジオラスとアリサ双方の担当するボールに切った人参と、予め塩で揉んでおいた胡瓜と玉葱のスライスを投入する。
「アリサ。この茹でてない茹で玉子はどうするの?」
「どちらか一方にだけ加えますわ。そちらとこちら、味付けの違う物に致しますので」
「俺の方に入れたいッ」
「ではそちらが甘口ですわ」
「砂糖でも入れるの?」
「いいえ。これを入れます」
アリサが鍋から新たに出したのは玉蜀黍であった。
生温い感情に浸されそうになりながらも無心を心掛ける近衛が居る事実を、ジオラス一人は忘れていた。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ………エンドレス
珈琲ミルの音がやけにはっきり辺りに響いていた。
〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉
「この料理は初めて見るの。はて、何という料理かのう?」
「………ただのポテトサラダですわ、眼鏡とお髭の偉いオジ様」
「随分大量だな。魔法のオジサン達の為に作ってくれたのか?」
「ジオラス様の部活が休みであるのを失念していただけですわ。もしかしたら部活のお仲間とこちらに来るのかもと思いましたもので」
「そちらの入れ物とこちらの入れ物では少し中身が違うようだね。そっくりの料理だけど、種類の違う料理なのかい?」
「……味付けを変えた同じ料理ですわ、第二王子殿下。そちらの玉子と玉蜀黍入りは甘口。こちらはマスタード入りですわ」
「アリシア嬢、何やら香しいコーヒーのような香りが致しますわ」
「王妃様、これがまごうことなきハリシアの珈琲ですわ」
「おお、仕事を早めに切り上げて、妃共々押し掛けて来た甲斐があったな。なあモレア」
「はい、殿下。コーヒーとはこんなにも良い香りがする物でしたのね」
王を除いた昨日の茶会のお偉方に更に偉い地位にあるであろう好好爺(実は宰相)と王太子妃を加えた団体様が押し掛けて来たのは、ポテトサラダ(二種)が出来上がるかどうかの頃合い。まるで狙い済ましたかのような登場に、当初はアリサもジオラスも完全に虚を衝かれて言葉が無かった(アリサは閉口した)。
だが何も言葉が告げられぬ内にズカズカ上がり込まれ、手元を覗かれながら質問を次々繰り出され(それに答え)ている内にアリサ、ジオラス共に気付く。いつの間にか姿を消していた近衛二人が大量の護衛騎士に混じっている事に。つまるところ、上記の近衛二人が報告に走り、結果向こうから押し掛けて来たというところだろう。何故そうなる。
慣れとは恐ろしい。
「ジオラス様。これ、珈琲を御馳走しないといけない流れですかしら?」
「もう少し声を低めようかアリサ。俺はもう小皿を選んでいるよ」
「あらそれは豆皿でしてよ。小皿はこちら」
ガチャガチャ。
「小皿の下に更に小さいのが豆皿か。なるほど。あ、これ凄く繊細な模様だ」
「それは七宝つなぎですわね。通年で使用できる縁起の良い模様ですの。ところで、ポテサラも振る舞わねばなりませんのかしら?」
「もしかしてここにある皿やカップもアリサの手作り?」
「然用にございますわ。ところで話を戻しますけれど、椅子の数が全く足りませんの」
「え!?」
「だってここはわたくし個人の研究室という名目ですもの。お客様をおもてなしできるようにはなっておりませんことよ」
「………そうだね。どうしようか?」
「お構い無く」
「わたくし達は立ち続ける事には慣れておりますの」
王太子と王妃の返答に局長がしみじみ呟いた。
「こっちも随分慣らされたよなあ」
「順応させる方も大概恐ろしいがの」
それを言ったらお仕舞いなのである。
何はともあれ、どちらから見ても、慣れとは恐ろしい。
〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉
さて、なんやかんやで全員に珈琲カップと小皿が回った。どちらも礼儀に反してお盆で一纏めにして提示されている。これは毒に対するアリサなりの気遣いだ。好きなカップと皿を客の側が選ぶ形なら持て成す側で相手を選べない。
因みにこれは蛇足になるが、足りない分の珈琲豆はジオラスが嬉々として挽いた。初めの豆は近衛が三人分、残りはジオラスが二回に分けて挽いたもの。但し時間をかけてゆっくり淹れたのはアリサ。紙を使用して濾過するドリップ珈琲だ。
ついでのついでになるが、アリサ本人はポットの蒸気圧で抽出するタイプのエスプレッソ珈琲を加工したカフェラテである。ポットに残っている蒸気を利用してミルクを泡立てる本格的な気合いの入れよう。それらの抽出時や蒸気噴射で周囲を飛び上がらせるのは、もはや御愛敬。
「アリシア嬢よ、我等と同じくコーヒー豆を使用していたようだが、我等とは入れ方が違うのだな」
「少々お待ちを」
宰相に話し掛けられるもアリサはスチームミルクでラテアートを制作中で手元に集中している。それを所構わずカップ片手にアリサの手元を覗きに行った局長が感嘆の吐息を漏らした。
「こいつはスゲー。僕達のコーヒーも随分丁寧に入れてくれたが、こっちは面白れー。……うん。今まで飲んでたのは何だったんだってくらい、美味い」
こうなると尻馬に乗って無法を働くのが宰相だ。局長の隣に来てアリサの手元や珈琲ポットを観察し始める。
「これも前世の記憶によるものなのかの?」
「あ? やっぱ嬢ちゃん希人なのか?」
「何じゃい、昨日の茶会で判明したのはその事とは違うのか?」
「悪りー。俺様の魔法と上位神官の制約魔法で縛ってるから言えねーんだわ」
「どうりで口が固いわけよ」
「よし♪」
「僕にそれくれ」
「え?」「おいこら馬鹿者!」
アリサ納得の出来のラテアートが局長に拐われた。宰相の抗議の声も虚しく局長は自身が飲んでいたドリップ珈琲片手にアリサ用のカフェラテに口を付けてしまう。アリサがちょっと涙目である。
「わたくしの、渾身の、カフェラテがぁ!」
「アリサ、アリサ、俺ので悪いけど、こっちのコーヒー飲んで」
ジオラスが馳せ参じて自分の分のカップを差し出すが、アリサは自分の好きに妥協は認めなかった。
「嫌ですわぁ。わたくしドリップ珈琲よりカフェラテが好きですのぉ」
「このカフェラテってヤツ、こっちのコーヒーより甘いな」
「ミルクの甘味ですわぁ。魔法のオジサンなんて嫌い! 魔法棟に入舎なんてしないんだからぁ!」
「え! それ困る。魔法のオジサンが悪かった。この通り!」
局長は潔く頭を下げているが、アリサからの呼称が「オジ様」から「オジサン」に格下げされている事実には気づいてなさそうだ。
「おお!? これ飲んでも模様崩れねーのな♡」
「やっぱり謝罪は口先だけでしたのね」
「いや、違う、よ。凄いなって感心してたんだヨ」
アリサの声色が急激に黒くなったので局長は本格的に焦り出したもよう。
因みにこの騒ぎは当然周囲の人間達も見守っていた。だが何気にアリサは立場が強い。アリサの手に成る物は、おいそれと代用品を用意できないのだ。かといって権力という力ずくでアリサを黙らせるのも大人気ない。今回押し掛けて来て迷惑行為をゴリ押しするとは何事か、と言われてしまうだろう。それもあって王家の面々は声を掛けられない。迂闊に声をかけて謝罪に繋がろうものなら、アリサは“許す”しか選択肢が無くなってしまう。残るは……話題を変えてしまえ作戦だ。
「アリシア嬢は魔法棟からのお誘いがあるの?」
王妃の意図を汲んでいるのかいないのか、アリサが無表情を客人達へ向けた。無表情であるが怒り顔。王家や護衛騎士達がビビる無表情、怖い。
「……そのようなお話もあったとか、無かったとか」
さすがに相手が相手であるだけに無視はされなかったもよう。まだ理性は振り切れていないようだ。
「オバちゃん、もっと頻繁にアリシア嬢とお茶会したいな」
アリサの眉間にうっすらシワが刻まれる。
「魔法棟に入れば、きっと楽しいわよ」
「わたくしの一存では御返答致しかねます故、お話の件は一度持ち帰らせていただきます」
アリサが人並みに常識的且つ賢明な返答で返して来た。
「アリサ嬢よ、余計なお世話かもしれんが取り敢えず色好い返事をしておきなさい。確約しなければ良いのだ」
「そうよ。宰相の助言は聞いておいた方が賢明よ。でないと王様辺りから、出仕命令が出ちゃうわよ♡」
「……………」
「オバちゃん命令しちゃおうかな? 出仕しなさいって」
『愚か者!!』
突然アリサの頭上に守護竜(小型版)が顕れた。
『神々との盟約に触れる! 現王家は我等が愛し子を殺すつもりか!? 嗚呼、既に心臓が止まっているではないか!!』
「!?」×全員
「アリサ? アリサ! どんどん冷たくなっていく!!」
ジオラスの叫びが木霊する中、アリサが静かにゆっくり座り込む。
『今すぐ前言を取り消すのだ王妃!』
「はい! アリシア嬢? 先程のは冗談よ。だから命令じゃないわ」
「アリサ。頷くだけでも辛いはずだよ。無理して動いちゃ駄目だ」
アリサを抱え込むように膝を付いて片手は前から肩を抱き、残る手で背中を必死に擦るジオラスにアリサが一言。
「もう、大丈夫なはずですわ」
アリサの申告通り、ジオラスの手に触れる体温が徐々に熱を取り戻していくのであった。
「さて、この騒ぎについて、色々聞かせてもらわねばならぬようですな、王妃。そして馬鹿アリサ」
いつの間にか大魔人こと当代アリシア伯爵が入室していた。
あれ? おかしいな……(; ̄Д ̄)?
書く直前まで頭の中にあった筋書きとは別の道を辿り出して行く不思議
ヾ(゜0゜*)ノ?
作者、日々の暑さと夏バテで頭が殺られたもよう。
ポチっと押して甘やかしてくださいm(_ _)m