泉の竜神様②
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「そもそもシメサツシの方の、聖女と黄金がどうのとか言う話は神話ではありませんの?」
『神話という程古くない。せいぜい百二、三十年前の祟りだ』
「祝福の間違いでは?」
「王太子殿下。今、御身に起きている事が祝福だと?」
『あちらは当時、相当数の人間が完全に黄金化され、それも金塊に加工されてたな』
「うんわ、悪趣味」
ここまでのアリサと守護精霊もとい竜神様のやり取りで周囲は完全に黙り込んだ。
『周りに誰も寄り付かなくなり、食物どころか水も飲めずに一週間もたずに死んでたな』
「水も飲めなかったとの事ですが、こちらと違って砂金になっていたのですか?」
『良く分かったな』
「ああ……地球の神話ではそうなっていたので」
『その神話とやらを聞きたいの』
「昔々ある所の王様がたまたま神様の一柱に恩を売りました。神様は礼に何でも一つだけ願いを叶えると約束すると、王は深く考えもせずに自分が触れるモノを黄金に変える力が欲しいと願いました。神はそんなつまらぬ願いで良いのかと確認しましたが王の願いは変わらず、願いは叶えられました。初めは喜んでいた王でしたが、本当に何もかもが黄金に変わってしまいます。人も、食べ物も、水さえも」
『その水が砂金に変わったという話だな?』
「然用にございますわ」
アリサの語るざっくばらんな神話は端折りに端折られていたが、こちらの人間の知るところではないし、竜神様は気付いていても気にしない。因って淡々と会話は進む。
「で、こちらの王妃様はどうなりますの?」
『そのまま行けば、シメサツシの馬鹿者と同じ末路を辿るの』
「竜神様に解除は──」
『無理だ。我の成した事ではないしの』
「ですよね。この手の祝福兼呪いは、神々の領分。精霊の干渉は不文律にて不履行」
『神々にとっても不文律よ。が、滅多にされぬ嫌がらせを受けたものよ』
「間が悪かったのでしょうて。して、いずれの神様によるものか」
『知らん。興味も無いし、語るべき事柄でもなし』
「いずれの神様によるものかを特定できねば〈力〉にて破るは勿論不可能。まあどのみち楽な仕事にはなりえませんが」
『何ぞ、助けの手を差し伸べるか。酔狂なことよ』
「腐れているのは表層のみ故に。それも無理矢理の腐食。されど芯は綺麗なまま。さすがは王妃。さすがは国母」
竜神が高らかに笑う。
『お前に、この国に対する忠誠心なり愛国心なり持ち合わせがあったとは』
「ございませんわよ。ええ、欠片も」
『されど成す、か』
「竜神様こそ、わざわざお姿を顕現なされておられる」
『お前は久方ぶりの《愛し子》故な』
竜神の発言に周囲がザワリと揺らぐ。《精霊の愛し子》は国の寵児だ。とても大切にされるし保護の対象でもある。《精霊の愛し子》を意図して害すれば精霊の不興を買い、精霊にそっぽを向かれる。分かり易く国が傾く。それ故に国という単位で保護され、《愛し子》を排出した一族の誉にもなるので普通は隠さない。しかしアリシア家では隠していた。そして問題はそればかりではない。城は既にアリシア嬢を害している。
『我とて触れ合いを楽しみたい。ほれ、水でもお飲み』
「まあ! 翡翠のお猪口に竜神様のお水! ありがたいことですわぁ!」
アリサが竜神から下賜された水をスッと王妃へ向けて押し出した。
「どうぞ」
『本当にお人好しなことよ──一応言っておく。飲んでも呪いは解けん』
「けれども多少なりと痛みは緩和するはずです。お約束ほできませんけれど」
『ふんっ! 飲めるのであれば火傷くらいは癒えるであろうよ。飲めるのであれば、な』
「ああ、恐怖心に取り付かれているということですわね。これはわたくしの配慮が足りませんでしたわ。とんだ失礼を致しました」
アリサが押し出したお猪口を引き戻そうとする。しかしその前に王妃が勢いだけで猪口を鷲掴みにし喉へ水を流し込んだ。
王妃の震えが止まる。
「アリシア嬢、礼を申す」
ガラガラにひび割れた声で王妃が頭を下げた。
「もしかして、洗脳解けました?」
何処までも呑気なアリサの声がやけに大きく聞こえたのだった。