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(偽)ハリシア産コーヒー

数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(^人^)

☆評価、ブックマーク、いいね 等もありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ



 どういう訳か通されたのは王室関係者しか近寄る事を許されない東屋。この国の守護精霊と云われて崇められている竜の精霊に謁見できる泉の近く。

 蛇足になるが、ジオラス達従者の控え室も本来なら入れない王家の住まいとされる王()のそのまた端っこ、この泉の見える部屋だったりする。


 席順は、当然上座に王その人。両側を固めるように二人の王子。向かいの下座にアリシア親子。アリサを挟むように父アリシア伯爵と祖父レイモンド翁。王家が、というよりアリシア家の方が守りの布陣だ。


「お父様、トト様、この珈琲を口にしてはいけませんわ」


 出されたお茶──ではなく珈琲を口にしたアリサの第一声で場に緊張が生じる。


「わたくしの知らないお薬ですわぁ」


 場の剣呑な空気にそぐわない呑気な声での宣言であった。


 本来ならば余計な言いがかりを付けたアリサが不敬罪で罰せられる。しかしアリサは王城内で毒を強制的に飲まされながらも毒への耐性で助かったという記憶は新しい。且つ彼女は普段から良く毒物を口にしていると隠さず公言している。要は毒に詳しい。その彼女が断言したのだ。尚且つ新旧のアリシア伯爵が彼女の両隣で鋭い目を王に向けている。


「検証しよう。毒味役をここへ!」


 王の懐深い判断が英断であったと証明されるのは、すぐ。




〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉




「王家に招待されてるのに、そこで一服盛られたとか馬鹿じゃないのか? ……え? あれ?」


「どうやら自白剤の類いを盛られていたようじゃの」


 毒味役が口にしてほんの数分で効果が現れた。ほぼ即効性と見て良いだろう。だが致死毒ではなく自白剤。しかもここに居る王家三人は関与している確率が極めて低い。どのような意図によりそのような半端な薬が盛られたのかが不明。ある意味、不気味である。


 現在王家と新旧アリシア家以外にも、毒味役の為に配された医者が二名と僅かな近衛達、そしてアリシア家の侍従として控え室に居たジオラス達四人及び急遽呼び出された魔法棟の局長が一堂に会していた。

 結果が出たので、経過観察の為にも毒味役を医師が回収して行く。

 魔法局長の鑑識の結果、普通に物理的な薬であって、魔法や呪いの類いは関わっていないだろうとの見解が出た。


「わざわざ来てもらったというのに、迷惑をかけたな」


 本来なら続くであろう「すまない」や「申し訳ない」等の言葉が紡がれる事はない。人払いしてあるならともかく、逆に人が増えてしまっている現状で、王がおいそれと謝罪を口にはできない。不用意な言葉が未来に対してどのような影響を与えるのか分からないのだ。王の言葉はそれだけ重い。勿論それに準ずる二人の王子もだ。

 平民なら揉めそうな話だが、十代半ばのアリサでも上記の(ことわり)は理解している。寧ろアリサ大事の新旧アリシア伯爵の方が納得できていないような雰囲気である。さすがに苦情を口にはしなかったが。代わりというようにレイモンド翁が素朴な疑問を投げ掛けた。


「招待が当日、しかも招待状も無く、とは随分急な誘いであったが、何か理由があるのかな?」

「いや、大した理由は無いのだ。ただこちらの時間が折よく空いただけのこと。前アリシア伯が帰郷を考えていると聞いてな。ならば王都に居る内にと思って声を掛けさせてもろうたのだ。翁とはそうそうお会いできぬからの」


 やはりと言うか、どうやら理由は教えてくれぬようだ。レイモンド翁とお茶を楽しみたかったのならアリサまで呼ぶ必要はないのだから。


「せっかくハリシア産のコーヒー豆を手に入れたのでの、楽しんでもろうて意見の一つも聞けたならと思っていたのだが、残念な事になってしまった」

「ハリシアの珈琲ではございません」

「は?」


 それまで沈黙していたアリサの爆弾発言に王家の三人は揃って虚を衝かれた。周囲に集まって居る者達も。彼等への説明は当代アリシア伯爵。


「ハリシアの珈琲豆は産出量が充分ではなく、王都には卸しておりません。──父上も珈琲豆は土産として持参しておりませんよね?」

「珈琲も茶葉もアリサへの土産だけじゃ。王家へは各種の酒だけだの」

「ハリシアの飲食物は、長男が学園に通っている内に少数の契約者以外には流さなくなりました。長男曰く、ハリシア産と偽ってあまり品の宜しくない物に高値を付けているようだと報告がありましたので」


「そ、そうであったか。いや……しかし、転売の可能性はないのか?」


「転売できる程の量は卸しておりません。あるとしたら、海外からの逆輸入ですかな。ハリシアの顧客の多くは海外ですので。もしも逆輸入であったなら、それだけで品質は落ちているでしょう。珈琲豆も茶葉も酒も、管理には気を遣いますし、月日が経つだけどうしても劣化しますからな」


「……なるほど」


 一旦は納得したかに見えた王であったが、意外な粘りを少しだけ見せた。


「しかしな、アリシア伯爵よ」


「しかしもへったくれもありません。王都でハリシア産を謳うモノには風評被害で訴えを提出させていただきました」


「既に過去形!? いや、そうではなく、尤もな対応であるとは思う。しかしな、海外に輸出するくらいなら王都へ卸してくれても良くないか?」


「何を仰るのです。全く卸していないからハッキリ偽物だと断言して訴えを起こせるのですぞ。私は領主として領地の民草を守らなければなりません。偽物による風評被害は到底受け入れられません」


 実のところ、ハリシア産の産出品は高く売れる。因って偽物も多い。偽物に対する苦情や訴えは昔から繰り返されている。国はそれらに全くと言ってよい程、成果を出せていない。となればハリシアが自衛手段に出ても何も言えないのである。


「……アリシア伯爵よ」


「何ですかな、陛下?」


「少し、言い難いのだが……王家にも土産が欲しい」


「ホッホッ! ワシの土産では不満でしたかな?」


「いやっ! 誤解せんでくれ、レイモンド翁! ハリシア産の産出品はどれも品が良く珍しいので、アリシア嬢が羨ましくなってしまっただけなのだ!」


「子供のようなことを……」


「言うてくれるな、先輩!」


 とうとう言葉が崩れた王である。









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