従者、サイフォン
ずっと「もう一人の初見の殿方」的な言い方をしていた殿方の視点です。
やっと、お兄ちゃん共々名前が付きました。
「クルイウィル様、御機嫌良う」
「……やあ、アリシア嬢の御機嫌はあまり良くないようだね」
学園一階の会議室に入るなりのお二人の挨拶は、お世辞にも柔和とか穏やかと言えるものではなかった。
私もだが、主のサイラス・クオン・クルイウィル様は表(面)に出さないまでも驚き戸惑っておられるようであった。だが会議室に通された理由は理解できてしまった。一階の会議室には十五人用の会議机に椅子、そしてそれぞれの席の背後に(少し距離を置いて)ソファーと簡易机が用意されているのだ。彼女は部屋に入ってすぐのソファーに座っていた。のだが、背後から抱き込まれている形だ。
誰に?
我が主家の末っ子、ラ・ジオラス・クルイウィル様にだ!
これでは人目に付くサロンには置いて置けないだろう。一応の対策としてか、部屋の端には警備員らしき男も立っていた。婚約者同士でもない若い男女を二人きりにはさせられないからな。これは信用しているできない云々ではなく、二人の名誉を守るのに必要な手配だ。私は当の本人達に呆気にとられつつも、軽く警備員らしき男に会釈をした。お疲れ様ですとの労りを込めて。
「兄上、来てくだされたのですね!」
我々の混乱で生まれた沈黙に、末っ子の無邪気な声が挙がった。がっちりアリシア嬢を背後からホールドしままホッとしたような微笑を浮かべていらっしゃる。だがそれだけ。見かねたのか、会話を切り出されたのはアリシア嬢の方であった。
「ええと……クルイウィル家御嫡男様?──」
「弟もクルイウィルだからね。私のことはサイラスと呼んでくれたまえ。こいつは──」
サイラス様が私を視線で示す。そう言えば、我々は彼女に対してまだ自己紹介をしていなかったな。
「わたくしはサイラス様の従者でサイフォンです。以後お見知りおきを」
私もサイラス様に続き氏を省いて名乗った。するとどうだろう。それまで不機嫌一色であったアリシア嬢の顔が、痒みか何かを堪えるような表情に変わった。水虫持ちか?
「あの……サイモン、ではなく、サイフォン、様、ですの?」
「? ええ、サイフォンです。敬称は必要でありません。どうぞサイフォンとお呼びください」
「っ……ええ、分かりましたわ。ですが年上の殿方に対して呼び捨ては抵抗がございますの。ですから「さん」付けで、サイフォンさんではいかがかしら」
私は苦笑を浮かべる。まだ何者とも決まっていない学園に通える程の御令嬢ならば、現時点では他者の従者や護衛は呼び捨てで構わない存在だ。いわば相手は使用人なのだから。この御令嬢は自身の家の使用人にも「さん」という敬称を付けて呼んでいるのだろうか?
「ところでサイフォンさんは珈琲がお好きなのかしら?」
私に興味でも持ったのか? 表情は相変わらずむず痒そうだが。
「アリサはサイフォンみたいな男が好きなの?」
「ラ・ジオラス・クルイウィル様、わたくしの事は家名でお呼びください」
「答えてくれたら考える」
「先にお約束くださいませ」
「名前で呼んでは駄目?」
「何故、名前で呼ばれなければなりませんの?」
「……どうしても駄目?」
「御遠慮願いますわ」
「………………………………」
心底驚いた。
あの、あのクルイウィル家末っ子が、女嫌いになってしまった末っ子が! こんなにも一人の御令嬢に懐いてる!? いや、名前で呼びたいとか駄々を捏ねているし、もうこれは立派な好意だろう!! 後ろから抱き付いてるしな。
し・か・も、御令嬢の方がそれを嫌がっている!
………………………………衝撃だ。
あまりにも長い沈黙に耐えられなかったのはアリシア嬢の方だったようだ。
「『サイフォンの原理』というものがございますの。この原理を利用して珈琲を淹れる器具がございます。ですので名前に因んで珈琲好きなのかと安易に思いましたの……」
令嬢の歯切れが悪い。悪い、が──
「アリシア嬢は随分と博識なのですね」
つい、素直な感想が漏れた。
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