ヒョウスベがひょうすべりしたら……こんな感じ?
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前半はお城の内側、最後に久々ジオラスでお届けしますm(_ _)m
王城、会議室。
集められたお偉方は、次々魔法で届く報告書に反応を返せずにいた。
ハリシアの現場に送った騎士達は、完全に胃袋を掴まれたらしい。それ故に、その分《年金倉庫》に危機を招き、あわや食糧難たる事態をもたらしたハリー・デヴィド・サセクへの当たりが強い。報告書でこれなのだ。直接本人に相対せる現場ではどうなっていることか……。
因みに実行犯である自称芸術家である外国人は、きっちり第三騎士団ハリシア支部の官検に拘束されたそうだ。旅券を頼りに色々調べてみたところ、どうもハリシアだけでなく、国を問わずあちこちの土地で似たような事を仕出かし続けて来たらしい。結果は深刻ではあるが、やらかしその物は軽犯罪であるので扱いに困る。現場のファルゴルは上記の外国人を、どうやら追放処分にはしないようだ。
これは城に上げられなかった内情──要は現場の騎士達が把握していなかったのだが、ハリシアの知恵袋たるアリシア家の夫人と令嬢──つまりアリシア伯爵の妻とアリサの意見により、損害分の労役が課される事になっている。きちんと現場で。腹に一物抱えた住人達に囲まれながら、住人達の求めに応じての労働。さぞや堪える事であろう。
「アリシア伯爵。食糧庫がやられたと報告を受けている。夏もそろそろ終わる。実りの秋も、被災地の収穫は見込めない状態だろう。国で支援しよう。受けてくれ」
「おや……」
王太子の意見に反応の声を上げたのはアリシア伯爵ではなく、その先代レイモンド翁であった。彼は前回のスタンピード経験者でもある。
「今回は御支援いただける、と……?」
ピクリと二人の王子達の眉が動いた。受け答えは引き続きの王太子。
「今回は、と言う事は前回があったかのような言い方だね」
「殿下、アリシア家はハリシアの領主です。しかも前アリシア伯爵は、苦難のハリシアを守り導いた隠れた英雄です」
「!」
宰相の説明に、王子達ばかりか分かっていなかったらしき若年層数人がはっとしたらしかった。しかし追い討ちをかけるように、レイモンド翁その人が淡々と注釈を越えた説明を入れてきた。
「ええ、私の時代は随分と苦労したものですが、国は全く手を差し伸べてはくださいませんでしたな。前回のスタンピードに至っては、かなりの犠牲が出たものですが、支援どころか、お叱りを頂戴致しましたな」
「父は今申し上げませんでしたが、その時のスタンピードでは、まだ幼かった私の姉も犠牲になっています」
王と宰相以外の全員が目を剥いた。対照的にレイモンド翁が目を瞑る。
ここに居る者達は知っている。当代アリシア伯爵に生きた兄弟は居ないと。つまり……伯爵の姉上は文字通りの犠牲に……お亡くなりになったのだ。
「話を戻しましょう」
「そうですな、父上。被災状況ですが──」
新旧のアリシア伯爵親子の報告もあり、かなり具体的な状況が把握できた。通常なら被害を上乗せしてくるものだが、逆に差し引いているのではないかと心配になる程求められる物が無い。それだけアリシア家は国を宛にしていないのだと感じさせられる一時となる。
決。
来期ハリシアに対する税金の優遇。具体的な数字は又の話し合いで決める運びと相成る。更に、食糧及び薬剤を中心とした冬の物質の援助。だがまだ夏の終わり。冬を迎える前に被災者が干からびては話にならない。第一陣で、水の魔石を中心に果物等が大量に被災地に贈られる事となった。
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「話は変わりますが、ハリシアには職人軍団なる者達が居るとか?」
「軍団とは言っても、別に戦える兵隊ではありませんぞ、宰相」
宰相に答えるのは当代アリシア伯爵。
「しかし騎士達からの報告書によれば、元・犯罪者であるとか?」
「犯罪者未満です。それと、全員ではありませんぞ」
「しかし悪さを働いた者達が大半なのであろう?」
「ハリシアの治安が安定して来たのは、恥ずかしながらここ最近です」
「ハリシアより豊かでありながら治安の悪い場所など珍しくはない。そこは良いのだ、そこは」
「怪我や病気で仕事に溢れ、魔が差した者達ばかりです。しかも未遂で初犯。ハリシアは未だに人手不足でもありますから、労役という形を取って本人の資質に合った仕事を仕込むのです。嘗ての職人技を繋げる為にも、意外にも有効でしたぞ」
お江戸辺りから日本の“おつとめ”で為されている手法の一つである。手に縄がかかれば仕事からは更に縁遠くなる。しかし手に職が付いていれば何も無いより勤め先は見付かり易い。仕事さえあれば再犯率は低くなる。要は食べて行けるかどうかだ。
ハリシア側としても利はある。知識と技の継承。職人技は謂わば感覚の世界だ。苦難のハリシア時代と前回のスタンピードで大分の後継者が失われた。それから素直に跡継ぎが育たない時代が続いている。苦肉の策として、仕事と人とのお見合いその一なのだ。これが案外上手く運んで、嬉しい誤算でもある。
「うむ。アリシア嬢は本当に面白い発想の持ち主よな」
「……何故娘が引き合いに出されているのか疑問ですな」
「ん? そう言えば、彼の令嬢は学園一年の上半期しか通っておらんそうだが、スキップ試験を受けたとか? そろそろ結果が戻って来ているのではないか?」
「……………落ちたようですよ。幾らなんでも無謀だったようですな」
「いやいや、殆どの科目は卒業資格を手にしたそうじゃないか。まさに才女よな!」
「ですが卒業資格その物は手にできておりませなんだ」
「学園側で彼の御令嬢を手放したくないが為の難癖だろう。資格でケチが付けられたのは、ダンスとマナーだけ。他は課外活動の単位が足りないという理由で、院生に繰り上げだそうじゃないか」
「……随分とお詳しい。だがこのような場で、今話す事柄ではないかと?」
「“城”としても予約を入れておこうと思ってな」
「……………父として、頭の片隅には入れておきます」
「御令嬢本人にも話を通しておいてくれ」
「………善処は致します」
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アリサから何の連絡も来ない。寂しい。
もしかしたら忘れられているのではないだろうか?
不安だ。
そもそも自分はアリサにどのように認識されているのであろうか?
少なくとも自分と同じ熱量でないだろう事だけは確かな気がする。
………………………………寂しい。
アリサから手紙が届いた!
『前略ジオラス様
お元気にてお過ごしでしょうか?
わたくしは近くそちらに戻ります。
そろそろ残暑に入りましたが、まだまだ暑さは厳しくあります。
どうか御自愛くださいますよう。
敬具
アリサより』
向こうでの様子が何も書かれていない。
………………自分では頼りにならないという事だろうか?
不安だ。
でも………手紙が来た事その物は素直に嬉しい。
手紙の通りなら、もうすぐアリサに会える!
嬉しい!
早く合いたい………恋しい………。