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土台は食、食の土台はまず食材

数ある作品の中から拙作をお選びくださりありがとうございます(*- -)(*_ _)



 栗はある意味穀物である。

 縄文人は栗クッキーとか食べていたらしい。他にもお国は失念したが、ヨーロッパの一角で、中世に栗のお蔭で代々生き延びてきた人々も居たらしい。その地方は日本とは比較にならない栗の食事レシピがあるそうだ。


 それはそれとして、ここフリングホーニでも栗は広く食べられて……いない。どうもあの毬栗に忌避感があるようで、食べる者も居るには居るが、貧民の食べ物という見方をされがちである。なんとも勿体ない話である。

 だが、ハリシアでは当然のように昔から食べられていた。そう、栗の実その物はアリサが周知させた食べ物ではないのである。寧ろ苦難のハリシア時代の領民を支えたありがたい食べ物の一つなのだ。だが……栗はそのままではそれ程保存は利かない。その保存の利く加工方法を広めたのは、こちらはアリサだったりする。

 その方法とは、ズバリ勝ち栗。茹でて、ひたすら天日干し。茹でる前に冷温で数日置くと甘くなる豆知識付き。ハリシアの栗に対する可能性が広がった。





 今《年金倉庫》周囲に集まった者達が食べているのは、まずスープは勝ち栗の再利用であるポタージュ。栗もジャガイモも玉葱もついでにミルクも白いので、モッタリ白いポタージュに仕上がっている。豆情報として、この辺りでミルクと言えば山羊のお乳である。牛や羊は涼しい環境を好むので、火山地帯で地熱もたっぷりな地方の家畜には向かない。その点山羊は、何処でもなんとかなる。勿論限度はあるが。話を戻して、ポタージュ作り。道具が無いとあれこれ苦労する手間は、魔法で解決なので屋外料理でもしっかり目のポタージュが出来上がっている。

 次に肉と栗の再利用、野菜は新鮮な畑直送の煮物。角煮モドキに野菜を放り込んだような料理だ。肉はやっぱり男達に引っ張り凧のようだ。

 そして漬物の野菜と新鮮野菜と栗の炒め物が数種類。その内の一つは、塩を仕様していない漬物を使用。日本で“すんき漬け”と呼ばれていた物に酷似している。当然だ。ハリシア版“すんき漬け”もアリサ発信なのだから。

 そして魚はトルコの鯖サンドそっくりの一品になっていた。因みに肝心のパンは街のパン屋さん達による好意の寄付である。

 残りはBQ……いや、殆ど焼き肉状態で網の上で焼かれている。但し網の下は焚き火。基本(《年金倉庫》を燃やした後の(おき)火だが、)これ以上ない程の直火焼きで、魚も肉も野菜もうっかりすると真っ黒に焦げる。だが巧く焼ければ、なかなか美味で豪勢なのである。なんと言っても、《年金倉庫》での熟成肉と採れたて新鮮野菜なのだから。

 因みに余談として、《年金倉庫》内に虫の類いは侵入できなかった。いつもならば風通しの為に開けられていた窓はスタンピード警報により固く閉ざされ密閉されていた為だ。お蔭で火も防げたのだが、明確ではなくとも煙は入ってしまったようで、ほんのり庫内が燻し臭くなってしまったのだ。それ故の《年金倉庫》大掃除=食糧整理と相成ったのである。






「穀物の見直しは必要として、他の在庫は……じゃないな。残った食糧でひと冬越せそうか?」


 なかなか景気良く炊き出しをしている現状──裏を返せばそれだけ《年金倉庫》の収納物が寂しくなっているという事だ。領地を預かる一族として心配になったのだろう若君へ、地元の代表だろうオッサン(ガテン系)がニッカリ笑顔で応えた。


「街は無傷だし、各家庭だって蓄えはある。ギリギリ持つでしょう。大丈夫! 問題ありませんよ、若!」

「となると、ギリギリ持ちませんね、兄様」


 「持つ」と断言された傍から否定を口にするアリサ。オッサンの面目丸つぶれである。しかしオッサンは素直な顔で疑問を表した。


「ザクおじさん──」「ザグムですよ天使様」


 ジオ◯軍モビルスーツの名で呼ばれた本人が直接名前を訂正している。普通なら失礼極まりないが、領主の娘が一領民の名を何となくでも覚えている方が普通ではない。それもあってだろう、ザグムは特に怒るでもなく不愉快を顔に出すでもなく、「このままだと冬がヤバいって、どういう事ですか?」と、何事もなく話を戻した。見聞きしていた王城騎士達はオッサンの意外な度量の大きさに意表を衝かれた。


「ザグム、だったか。私が説明する」


 話者がファルゴルに戻された。


「そこのじゃじゃ馬の予測では、今年の冬は厳しくなる。しかもハリシア南側一帯だ。そうするとここも──」

「ギリギリ北じゃないですか?」


 自分達が住む自領の事とは言え、一領民が地理を詳しく把握している事にも王城からの応援隊はこれまた驚愕した。元々ハリシアは“知のハリシア”とは呼ばれていたらしい。しかしそれは昔の事。一時期、荒れに荒れ、嘗ての栄光は失われた。元が高嶺の花であったので、その反動のようにハリシア出身者は馬鹿にされるようになったらしい。しかしどうだ。現実は、自分達の故郷の領民とは一味違う。


「確かにギリギリ北側だし、おまけに地熱もあるから大丈夫だとは思いたいんだが……アリサ──」

「風ですわ」

「風?」×複数


 オッサンだけでなく、周囲で聞き耳を立てていた者達の内数人の声が揃った。


「冬、この辺りの上空の風は東から吹いて来て、この山で風を別けます。基本的に上空の風というものは西から東へと流れておりますの。けれども気候というものはそれ程単純ではなく、季節によっても風向きは変わりますわ」

「ああ、確かにこの辺りは冬になると風向きが東風に変わる。失礼。変わります」

「この冬、東から吹く風は大変に厳しい冷風になると予測しました」


 話を聞いていたであろう周囲の空気が変わった。脱力。溜め息。諦念。


「天使様だからなぁ……」「天使様の説明は難しくて、どうせ詳しく聞いても意味不明だし」「どっち道、天使様の予測だよ」「まず当たる(外さない)からなぁ……」


 口々に愚痴だか信頼だか分からない言葉の数々が銘々垂れ流されたかと思ったら、俄に活気付いた。気力が張りみなぎる感じ。


「今食ってるのは肉だろ? なら狩りを頑張るか」「野菜の干物も増やさないとね」「あたしは漬物頑張るよ」「果物もだよ」「けどこの辺りは柿や菊の花が少ないからねぇ、心配だよ」


「作付けを殖やしましょう」

「今から!?」×領民

「巧くすれば、あともうひと収穫狙えます。まずトウモロコシ、ジャガイモありがとうアンデス」

「あんですって何です?」

「駄洒落ですか? それだけ余裕なら行けますね」

「いや、違………」

「ああ、瓜系も行きましょう。苦瓜、メロン、キュウリ。この辺ならこちらでも採れますよね?」

「キュウリはこれからだと難しいです。メロンなら西瓜の方が行けそう」

「西瓜は摘果した実以外は保存が利かないので却下。どうせなら南瓜で。あっ! ジャガイモが行けるなら、薩摩芋を忘れてはいけません。そして明日葉」

「ホント、相変わらず天使様の頭ん中はシッチャカメッチャカだな」

「……はっ! 蕎麦!! 蕎麦ならかなりの高確率で収穫に漕ぎ着けられますでしょう……!?」

「たぶんですけど、たぶん大丈夫?」

「いやいや、まだ夏も終わってないのに、無理して作付けしなくても。つか、したくない」


 発言者の働き盛り(推定三十代)の男の顔をじっと見詰めて、アリサがボソリと吐き出す。


「子供達を餓えさせるおつもりで?」


 アリサの発言に年長者(六十代以上)が反応した。


「そうだぞ! 小さな子供ってのは、ちょっとした事でもあっさり弱って死ぬんだぞ!」「赤ん坊を持つ母親だってそうだよ! ただでさえ妊娠出産で体力持ってかれてるってのに、充分に食べられなくなったら、お乳が出なくなっちまうよ!」「生き残ったって、身体に不自由が残る事だってあるんだぞ!」


 経験者は語る。経験してきた者達の言葉は重い。推定三十代男性は気圧されて二の句が次げないようだ。


「食うにも困る貧民ってのは大変だな」


 忘れていたハリー・デヴィド・サセクの声がやけに響いた。とりわけて大きな音量でもなかったのに。

 周囲が再び殺気に包まれる。


「ふ…ふん! 逮捕されてしまった彼には悪いことをした。こんな貧民達に芸術が理解できる筈もなかったのだ!」

「良い事言った!!」

「はあっ!?」「何をとち狂ったアリサっ!?」


 集まっていた領民とファルゴルから思わずだろう声が上がった。


「兄様、王都の大劇場を大至急一つ抑えてください!」

「何で王都の大劇場なんだ……? そんなのいきなり言われてもだな……」

「客席の方ではなくて、興行の方で」

「もっと無理だ!」

「時期は真冬」

「………その心は?」

「オババ達! 白拍子で殴り込みをかけますよ!」


 もはや地元民の間でしか通じない会話に突入したようだ………。









話は何処へ流れて行くのでしょう……?

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