100.腐海が溢れ(て)た
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一定時期まで何のかんので呑気だった近衛のお坊ちゃん達に試練が遣って来る?
近衛遊撃隊がハリシアの現場に到着するまで、足掛け四日かかった。その内の一日はハリシアに入ってからの時間である。
それだけ陸路は厳しいという証左になるが、逆に言えば早い。ハリシア領内に入ってからハリシア領内の現場まで、徒歩なら一週間から十日。普通の馬なら、そもそもハリシア領内には入れなかっただろう。それが真っ直ぐ迷う事なく現場へ辿り着けたのは、精霊とアリシア嬢の声の導きがあったから。王都での生活が長い、若しくは王都での生活しか知らない者達にとって精霊は縁遠い。たとえ王家が神竜たる半精霊に守られているとしても。特に具象を持たない小精霊は初。感激しながら付いて行く事暫し。魔獣の群れに遭遇した。
罠だったのか!?
本当はハリシアという土地に嫌われたが為に抹殺の対象になっていたのか!?
一堂は瞬間、絶望した。しかし、当の魔獣達は彼等に見向きもしない。襲うどころかすり抜けて通りすぎて行く。まるで何かから逃げるように。
この段になって漸く気付く。嫌な予感に。
近衛遊撃隊は突き進む。小さな光──小精霊に導かれるままに。
そうして現場を遠目に確認できる高台に辿り着けたのは夕刻。但しそれは冬であったなら夕刻という時間。日の長い今の季節、まだ世界は明るかった。目の前に広がるは噴煙を上げる火山。火山から溢れているのは溶岩ではなく、赤い何か。蠢く生き物。流れる溶岩のように山を染める大群。
──スタンピード発生。
近衛遊撃隊の大遅刻が決定した。
それでも引き返す選択肢は無い。行かねばならぬ。
〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉
移動の途中で気付いた。岩だらけの山肌に幾つもの岩や石の壁──障壁が築かれてある。赤い魔獣は小型の物であるようで、それらの壁のためにある程度の道筋ができている。予め誘導の為に用意が成されていたという事だろうか? いずれにせよそれだけではなさそうだ。先程から空を飛び交っているワイバーンやグリフォン。よく見れば騎乗している人間が居るではないか。上からも誘導および攻撃を加えているもよう。ハリシアでの戦闘は空が加わるという実証だ。
──敵に回してはいけない。
お偉方の警戒が目の前に答えとしてあった。
しかも……
山に一番近い麓の町の手前にある谷間はおそらく人工の窪みで、赤い魔獣は吸い込まれるように落ちて行く。気付いて止まりたくとも後続に押されて止まれない。そうして落ちても命ながらえた魔獣を窪みの上から女子供達が弓矢や投石でトドメを射して行く。それすら超えて谷間を登り来る魔獣は、男達が鶴橋や斧で仕留めて行く。……つがえる矢が尽きると人員が交代。矢は町から次々と補充されて来るもよう。凄い。あれは軍の人間ではなく町民だよな? ハリシア軍は遥か後方の少し大きな町と山の間に陣形を構えている。うん。今戦っているのは間違いなく一般人だ。しかも女子供まで居る。うん。怖い。ハリシア強い。
近衛遊撃隊は学習した。
ハリシアには王国軍の在住は無い。
その理由の一旦が今、目の前にある。
ハリシアは余所者を嫌う。
だから余所者は受け入れない。受け付けない。
だから何でも自分達だけで対処しなければならない。
だからハリシアは強い。強くならなければならない。
ハリシアでは強くならなければ生きてはいけない土地なのだ、と。
だが──いくら強くても一般人に対処は無理であろう相手が出て来た。
火山の火口からのっそり出て来る巨体。赤き巨体。角、翼、鱗。ドラゴン。
近衛が前に出るしかない。
生きては帰れないだろう。
近衛遊撃隊は死ぬ覚悟を固めた。
近衛遊撃隊、負けるな! 踏ん張れ!
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