事実と混乱
絵本のような物語としてお読みください。
「この旅の中で、他にも僕らと同じように旅のモノ達に惑わされて仲間同士で戦った歴史のある
トリ族のおじさんに会うことが出来たんだ。
そのおじさんから、旅のモノたちが“かげ喰い”と呼ばれていること、
そのかげ喰い達は僕らの辛いとか悲しいとか憎いとか、そういう感情を食べて生きて
いるって事を教えてもらった。
僕らのこの戦いのきっかけは、かげ喰い達が生きるため為にまいたタネのようなもの
だったんだよ。」
「だったら、全部そのかげ喰い達のせいなんだね。
かげ喰い達が僕らをこんなに苦しめたんだ。」
「それは違うよ。かげ喰い達が悪いわけではないんだ。」
「どうして、彼らが僕らをこんなにメチャクチャにしたんじゃないか!!」
「そう思う気持ちは分かるよ。でもそうやって、彼らを悪者にして責めたところで、
戦いは終わらない。それに彼らは僕らにきっかけを与えはしたかもしれないけれど、
仲違いしたり、武器をとって争いを始めたのは僕ら自身が選択したことだ。
他の道を選ぶ事だって、きっとできたはずなのだから。」
「そうじゃない、そうじゃないよ!そういうことじゃないんだよ!!」
僕は心がぐちゃぐちゃになって、頭がパンクしそうだった。
想いは上手く言葉にならなくて、悲鳴みたいに溢れた。
「ねぇ、ラリス。こう考えられないかな。
僕らは当たり前のように他の生き物の命を食べているよね。
それと同じで、僕らとかげ喰い達の食べ物が違うってことだけなんだ。
かげ喰い達にとって僕らの辛くて暗い感情が命を繋ぐ食べ物になる。
それを責めることなんて誰にできるだろう。
かげ喰い達だって生きているんだ。
そこに正義や悪も無ければ、合ってる間違ってるなんてこともない。
ただ、憎しみや怒りを持ち続けることで彼らの栄養になる道を選ぶのか、
そういう気持ちを手放して彼らとは別の道を生きることを選ぶのか、
僕らが決めるしかない。」
「僕らはバカみたいに、かげ喰い達の餌になることを選んでいたと言うの…。」
「ラリス、過去の自分達を責める必要もないんだ。
ただ、僕たちは十分な痛みや悲しみや憎しみを経験して、
そういう気持ちが相手も、そして自分自身も傷つけると知ったはずだろう。
だからこそ、もうこれ以上同じことを繰り返さないことだってできる。
それは僕たちにとって、とても大切な学びなんだと思うよ。」
「でも、そのために大事な仲間を犠牲にしたっていうこと?!
そんなのあまりにひどいじゃないか!ルートはどうしてそんなことを言うの。
沢山の仲間が死んじゃったんだ!
彼らは一体何のために・・・。苦しいよ。」
「そうだよね。苦しかったね。
それは君の中に仲間達を思う愛があるからこそ生まれる気持ちだ。
だけど、君の心の中にいる亡くなった仲間達はなんて言ってる?
自分のかたきをとるために戦いを続けて欲しいと言ってる?
そのために君や他の仲間が傷ついてもいいと言っる?」
僕はただ首を横に振ることしか出来なかった。
「亡くなった仲間も今戦っている仲間も、みんな早くこの戦いを終わらせたいんだ。
でも、この戦いを終わらせてくれるスーパーヒーローなんていないから、
戦争を続ける力が無くなるまで終わらない。
僕たち一人一人が勇気をもって辞めない限りね。」
沈黙が続いた。
僕には今の気持ちをどう言葉にしていいのか分からないくらい、
色々な気持ちが渦巻いていた。
ルートはそんな僕の状況を分かっているみたいだった。
「ごめんね、僕自身も納得するまでに時間がかかったことだったのに…。
でも、時間がないんだ。
すぐに、ここも見つかるかもしれないから。
黒鬼の陣地まで動けそう?」
「・・・。動ける。」
ルートに会えた感動もすっ飛んで、心ここにあらずのまま、
背を向けて立ち上がった僕の背中に、ルートの声が届いた。
「ラリス、最後にお願いだ。
もし武器を手放せそうな時が来たら、君は手放す勇気をもって欲しい。」
力なく「そんな時が来るのかな…。」と地面を見つめながら言った僕は、
「来るさ、絶対に。」と確信したように言うルートの言葉を信じ切れず、
そのままフラフラと歩き出した。