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限定だもん

 頭をぶつけて床にしゃがみ込んでしまった若槻さんの前に俺もしゃがみ、顔を覗き込んだ。


「だ、大丈夫?」


 問いかけると、僅かに潤んだ瞳を向けられる。頭を押さえる姿が小動物のようで愛らしく、思わず吹き出してしまった。


「…っふ。」

「んむっ、蓮見くん!笑わないでよ~。」


 白い頬を桃色に染め、軽く膨れている。むぅと軽く咎めるような眼差し。いわゆるジト目というやつである。俺は生憎とそういう趣味を持ち合わせていないが、こんな美少女にジト目で見つめられたら喜ぶ人もいるだろう。


「や、ごめんごめん。…なんか、若槻さんって思ってたよりも親しみやすいんだなって。」

「……それ、暗にへにゃちょこって言ってなぁい?」

「へにゃちょこじゃなくてへなちょこでしょ!?…言ってない、言ってない。関わりやすい…って良い意味だよ。」


 学校での若槻さんからは隙というものを感じにくいため、俺にとってはこういうポンコツな一面(一面どころか実は全面ポンコツなのでは、という疑惑もあるのだが)があった方が、取っ付きやすいと思うのだ。


「んむぅ。それならいいけど…。」


 どうやら機嫌を持ち直してくれたらしい。

 ほっとしていると、若槻さんはごにょごにょと小さく口を動かした。


「……そもそも、私がへにゃちょこになっちゃうのは蓮見くん限定だもん。…他の子たちの前ではもっとクールに振る舞えるもん…。」

「ん、ごめん何?」


 何を言ったのか聞き取れなかったので聞き直してしまった。若槻さんはぼんっと顔を赤くして両手をパーに胸の前でぶんぶんと振った。


「な、なんでもないの!え、えへへ…。」

「?そっ…。」


 そっか、と言おうとして詰まる。

 何気なく目線を下に落とすと、白いレースのついたショーツが目に飛び込んできたのである。

 今、俺と若槻さんはしゃがんで向かい合っている。長すぎず短すぎずの楚々そそとした丈のスカートでは、正面から見たときに下着が見えてしまうようだ。


 俺は思い切り顔を背け、急いで立ち上がる。

 顔に一気に血が上ってしまった。あ、熱い…。


 若槻さんがくるんと小首をかしげる。


「どうかしたの?」

「しっしろ…じゃなくて!!掃除!手伝ってほしい、若槻さん!」

「う、うんっ。もちろん!」


 頭を冷やそうと俺は無言で掃除を始めた。はたきを振り回し、邪念を払う。


(白のレース……じゃない!平常心、平常心…。…下着まで清楚なんだな…じゃなくて!!そうだ、素数を数えよう。…あれ、0って素数に入るっけ?)


 動揺のあまり、くだらないことを悶々と考える。

 後ろから床を磨く音と澄んだ声が響いた。


「蓮見くんのお部屋、きれいだね。広いのにこの状態保てるのすごいなぁ。男の子のお部屋ってもっと荒れてるって聞いたんだけど…ふふ、あれ嘘だねー。」

「そ、そう?」


(さっき慌てて掃除してよかったー。俺も例に漏れず、部屋荒れてたんだけどな。)


 ついほっと安堵してしまう。

 若槻さんが小さな手でさらり、ときれいになった床を撫でた。


「うん、床もこんなに白くて。」

「せっかく忘れかけてたのに!!白とかいうから!」

「ふぇっ?ええ……?」


(落ち着け俺…。いつまで白のレースを引きずっているんだ。)


 深呼吸が必要ですね。スーハ―スーハ―。…よし。


「ご、ごめん。こっちの話。…何だっけ?」

「ふふふ。お部屋もともときれいだから、蓮見くんが何やら悶々としているうちに終わっちゃったよー。……リビング、戻ろっか?」


 気付けば時計は午後7時を指していて、窓の外は暗くなっていた。

 整然とした部屋の中に静けさが漂っている。夜に自室で女性と2人きり、という状況に居心地が悪くなり、俺は曖昧に頷いた。






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