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やっぱり、ポンコツ?

 隅から隅まで掃除をしていると、時間がたつのは案外あっという間である。


 どうやら俺は、若槻さんを甘く見すぎていたようだ。

 若槻さんは床掃除からキッチンの水回り、2階のバルコニーの掃き掃除からピアノのお手入れまでおよそ1時間でキレイにしてしまった。


 他にも愛犬用の部屋やサンルーム、父親の書斎などの部屋もあるが、今日終わらなかった部屋はまた別日に掃除してくれるらしい。一度すべての部屋を一気にキレイにしてしまった後、日によって掃除する場所をローテーションで回していくというのだ。


 こうなると無駄に部屋数が多かったり、家が大きかったりするのが申し訳なくなってくる。


 その間俺は何をしていたのかというと、のろのろとはたきでほこりを落とした後、自室が見られるということに今更気付き若槻さんが部屋に来るまでに掃除をしていた。


「やばいやばい…!とりあえずごみはごみ箱に捨てて、床に転がってるものは棚に突っ込んどこう!」


 正直かなり焦っている。

 以前の家政婦に自室を見られることに抵抗はなかったが、今回は相手が相手である。掃除をしてもらうために部屋に招待するのに掃除をする、というのはおかしな話なのだが。


「さすがにかぐや姫に汚部屋おべやは見せられないからな。つーかあんな早いのにピッカピカにできるのって何で!?あーかぐや姫こえー!」


 以前の家政婦と比べるのは失礼かもしれないが、どうしても意識してしまう。若槻さんの家事能力の高さを。手際が良いうえに、全く妥協しない。とにかく要領よく掃除をする。


(ほんと、万能に優秀なんだな)


 こんこん、とノックの音がして。


「蓮見くん、お部屋お掃除しても良いかなぁ?」


 先程までピアノの部屋(グランドピアノしか置いていない、防音の効いた部屋)にいたが、どうやらもう終えたらしい。

 俺は慌てて何か見られてまずいものはないか、室内を見渡す。と、美少女とのラブコメ系のラノベが目に入った。


(見られたら引かれるかもだし、なんとなく気まずい…!)


 ベッドのマットレスの間というベタな場所に隠すと、部屋は見せられるものにはなった。

 内側からドアをガチャリと開ける。


「…どうぞ。」

「お、お邪魔します……。」


 おずおずと遠慮がちに入ってくる。

 うつむき加減の顔がほんのり赤いのは窓から差し込む夕日のせいだろうか。…あ、それとも。


「顔赤いけど、暑い?エアコン付けようか。」


 いくら秋とはいえ、制服はまだ夏服のままだもんな。


「ふぇっ。ち、違くて!これは…その。男の子のお部屋入るの初めてだから…。」


(…そういうことか。)


 心臓がどくどくと脈打つ。

 よく考えてみれば、家に今2人っきりでかつ、女の子を自室にあげているというとんでもない状況である。


 一旦意識しだすと止まらない。年頃の男女が家で2人っきりになることを予測できただろうに、と母さんを恨みがましく思うまである。


 しかし、女の子を部屋にあげるのが初めてではないことがまだ救いだ。といっても、相手は近所の2コ下の、つまり中学2年生の妹のような女の子を、だが。その子とは家を行き来しあう、家族ぐるみでの付き合いなのだ。


 ごほん。他のことを考えて現実逃避をしている場合ではない。


(緊張…するけど、俺とかぐや姫じゃ何か起きようがないというか。)


 それに、若槻さんは学校でこんなに有名人なのにそういう浮いた話は聞いたことがなかった。告白して玉砕した話なら後を絶たないのだが。


 もしかしたら恋愛に興味がないのかもしれないし、恋愛対象が女性なのかもと囁かれてもいる。しかし、色んな説の中でも有力なのは、帰宅部だが放課後の友達との遊びをほとんど断っていることから、他校に恋人がいるのでは、というものだった。


 ただ、そんなことを高嶺の花子さん本人に直接聞ける勇者はいないので、真実は神のみぞ、いや、かぐや姫のみぞ知る、といったところだろう。


(いや、そもそも俺学校で浮いてるから、聞いたことないだけかもな…浮いた話だけに。はははー。)


「えーと…俺相手にそんな緊張しなくっていいよ。」

「う、うんっ……。」


 若槻さんはあわあわした様子で一歩後ろに下がった。

 と、ごんっと鈍い音がした。頭をドアに盛大にぶつけたのである。涙目になり、後頭部を両手で押さえてその場にへにゃりとしゃがみ込む。


「…いったぁ…。緊張、するよぉ。ううう。」


 …若槻さんて、学校では澄ました顔して何事にも静かな微笑みを浮かべながら、スマートにこなしてるけど…。やっぱり、ポンコツなのかもしれない。















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