普段髪をおろしている子のポニーテール×エプロン姿は秘密兵器並み
「よぉーし、1階から2階の順でお掃除するね!」
若槻さんのポニーテールに制服エプロン姿。
グッと来ない訳が無かった。
シンプルな淡い水色のエプロンは肩ひもが細く、背中でクロスするタイプのもので、華奢な若槻さんによく似合っていた。学校のセーラー服にも合うし、何より体にフィットしていて動きやすそうだ。…にしても、こんなにエプロンがフィットするのは胸が非常に慎ましやかだからなんだろう。
普段片耳の上に着けているリボンは今はポニーテールを飾っている。
いつもは隠された白いうなじが露になり、つい見とれてしまう。
俺が何も反応しないでいると、じっと見られていることに気付いたらしい若槻さんが少々気恥ずかしそうな素振りを見せる。
顔を赤らめ、スカートの裾をもじもじと握ったり離したり。
「え、えへへ……。お掃除モード……なんて。」
控えめに照れ笑いをすると、恥ずかしそうに目線を下に向け、黙ってしまった。
何か言ってほしい、というのが全身で伝わってきて慌てて口を開く。
「その、エプロン……良いね。…似合ってる。」
やばい、顔が熱くなっていくのが分かる。
「ほんと……?」
眼を僅かに輝かせている。
「ほんと。」
ぱぁぁっと一気に表情が明るくなったと思ったら、くるっと俺に背を向けた。
そうして小さく胸の前でガッツポーズをし、囁くような声で「いぇーい」と言った。
(いや、見えてるし聞こえてるんだけどな。)
可愛すぎるだろ。
学校でも若槻さんは清楚な愛され美少女だが、こんな風に表情がころころ変わるところは見たことがなく、新鮮に映る。
(根っからの大和撫子気質だもんなぁ。「天衣無縫のかぐや姫」と呼び名が付くわけだ。)
学校の噂に疎い俺でも、この呼び名は非常に有名なため知っているのである。
男子たちがこっそりと「かぐや姫マジ天使」などともてはやすのをよく耳に挟む。かぐや姫なのか天使なのかどっちなんだという話だが。いや、かぐや姫も月の住人だから、天の使いという意味ではおかしくない…などとどうでもいいことに考えを巡らせていると、いつの間にか若槻さんは掃除を始めていた。
ポニーテールを揺らしながら、クイックルワイパーで床を磨いている。ぼうっとしている場合ではない。
「若槻さん!俺も掃除する。どこやれば良い?」
「え!いいよー。ソファでゆっくりしてて?」
「いや、若槻さんだけにやらせる訳には。」
「んむ。私家政婦さんだよ?お仕事だから、蓮見くんに手伝ってもらう訳にはいかないの。」
「一生懸命掃除してくれてる若槻さんを横目にダラダラできないって。」
「…でも、私は蓮見くんたちの代わりに家事をして楽をしてもらうことが役目だよ。」
お互い食い下がり、折れようとしないことにおかしくなり、顔を見合わせて2人同時に吹き出した。
「ふ、ふふっ…あはは。蓮見くん、優しすぎだよー。」
口元に手を添えて、上品に笑っている。
「若槻さんに言われたくないな。」
そして2人でくすくすと笑い合う。
今だけは、”手の届かないところのかぐや姫”ではないみたいだ。
(案外、関わりやすい女の子なのかもしれない。)
ひとしきり笑い終えてから、俺は切り出した。
「じゃあさ、俺は親孝行がしたい。だから掃除するよ。…実際、懸命に働いてもらってるから家ではゆっくりして欲しいしな。…これで、良い?」
若干の照れくささはあるものの、一応本心である。
「ふふふ。……うん。ありがとう、家族思いの蓮見くん。」
じんわりと、温かい微笑み。
「お、おお。」
「それじゃあ、その……えぇと、何だったかな。そのポンポンでポンポンしてくれる?」
若槻さんは柔らかく、あくまで低姿勢な声のトーンで”そのポンポン”を指差した。
「……はたき、ね。」
「えへへ、そうだったぁ。」
(あくまで簡単な掃除を頼むのが何とも彼女らしい。…いや、それより。そのポンポンでポンポンって。一応学力学年一の才女だよな?)
俺の中で、天然無自覚系美少女に「ポンコツ」が追加された。