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天然無自覚系美少女、降臨

「ふあぁぁぁ……。」

「あんだよ恵斗さっきからあくびばっかじゃねぇか。」


 翌日、学校の昼休みで眠そうな俺に友人の笛口龍司(ふえぐちりゅうじが話しかけてくる。


「ああ、寝不足で。ねみー。」


 眼をゴシゴシこすると、ぎろりとこっちを睨みつける。

 身長180センチごえで強面コワモテ、太陽のようなオレンジ色をした短髪をワックスであげている龍司。鋭い眼光に、頬にあるバッテンの形をした傷跡も相まって、一見不良やヤンキーのように見える。

 そのせいで実際、クラスメイトから怖がられていた。

 俺とはクラスで浮いている同士なのである。


「ふん、青白い顔しやがって。ちゃんと寝ろ!体がもたねーぞ。」


 が、その怖い見た目に反して、心優しく正義感が強い良い奴なのだ。本当は素行も悪くないし、なによりオカンっぽい節がある。


「貧血になるかもしれねぇし、これも食っとけ。」


 いくつかの放置された傷跡がある手から、菓子パンを差し出される。


「お、サンキュ。これうまいんだよな。……しかし龍司は本当よく食べるよなぁ。」


 龍司は菓子パン2つにおにぎり2つ、大きなサラダにから揚げ棒2本を持っている。おまけにデザートはプリンときた。


「てめーが食わなさすぎなんだよ。これも食うか?チョコポテチおにぎり。」

「俺結構食べる方なんだけどな……。いや、いいよ食べなよ。ありがと。……つーかどんな味だよそのおにぎり。」


 チョコポテチ味のおにぎりなんて聞いたこともない。一体どこで買ったんだ。


「文字通りだな。そんなんだとずっとヒョロヒョロのままだぞ。」

「ヒョロヒョロゆーな。」

「ハハッ!わりぃわりぃ。実は細マッチョなの知ってっからよ。」

「それもそれで怖いんだが!?」


 そう言うと、龍司は白い歯を見せて楽しそうにまた「ハハッ!」と笑った。

 軽口を交わしあえるほど仲が良いのである。



 学校がようやく終わり、電車で3駅ほどの最寄り駅に到着した。家までのろのろと歩く。


(んあーねみー。昨晩は若槻さんが家政婦になるってんで、あんまり眠れなかったからなぁ。あぁ、家政婦が学園二大美女とか……)


「無理ゲー過ぎる……。」

「えっ、何が無理ゲーなの?」

「うわあああああ!?」


 後ろを振り向くと、キョトンとした顔の若槻さんが立っていた。

 若槻さんはスクールバッグを肩にかけ、学校帰りといった出で立ちである。

 不思議そうに小首をかしげると、長い黒髪がさらさらと揺れた。


「ご、ごめんねびっくりさせちゃって。私も最寄り駅ここなの。前に蓮見くんを見かけたから、話しかけようと思って……。」


 タイムリーだななどと思いながら、俺はぎこちない笑みを返す。


「や、全然平気。……帰り?」

「うんっ。一緒にお家行っても良いかな?」

「えええ!?」

「えっ!……だめ、だった……?」


 ほんのり不安げに上目遣いで顔色を窺ってくる。うるうる、という擬態語を彷彿とさせる表情である。

 不覚にもどきりとしてしまう。


「い、いいけど……。何で?」


 反射的にOKを出してしまった。

 若槻さんはにこりと笑う。


「今日、お掃除の日だよ~。家政婦さんの日!」


(あ、ああ。家政婦ね家政婦。何の理由もないのに若槻さんが家に来たがるわけないよな。馬鹿か、俺は。クールダウンが必要ですね。)


 内心はおくびにも出さず、クールな表情を繕う。


「そうだったんだ。週3日だっけ?」

「うん!基本的に月曜日、水曜日、土曜日だよ。テスト前はお休みでいいわよってお母さんが。優しいんだね……2人とも。」


(……2人?……ああ、母さんと父さんのことか。)


「優しくはないけど……良かった。母さんに直接言いづらい、何か困ったことあったら言ってね。俺から伝えとくから。」

「……やっぱり、優しい。ありがとう。」


 優しくないって言ったんだがなぁと思いつつ、隣にいる若槻さんをちらりと見やる。

 俺より大体15センチ位背の低い若槻さんは、滑らかに鼻筋のとおった横顔をうっすら朱に染めていた。

 そして浮かべた温かい微笑みを、伏し目がちで誰に向けるともなく湛えている。


(なぜ嬉しそうなんだ?……というか、うん。何て言うかもう、すごいとしか言えないな。)


 美少女が歩くとこんなにも人目を引くものなんだろうか。

 風に艶めく長い黒髪や、繊細な人形のような美しさに通り過ぎる多くのものが目を奪われ、振り返る。

 こちらを見て何やらコソコソと話しだす者もいる。

 そしてその視線は隣を歩く俺にも否応なく向くわけで。大変居心地が悪い。


(うぐ…。視線が痛い。隣がこんな地味な俺じゃ釣り合わないよな。)


 若槻さんは沢山の視線に慣れているのか、はたまた気が付いていないのか、特に気にする様子はない。



「やっと着いたーああ。」


 ようやく人気がない家の前まで辿り着いた。

 家までの道のりがこんなに長く感じられたのは初めてかもしれない。若槻さんは男の俺に比べて歩幅が小さいため、歩くペースを合わせていたのもあっただろう。


「若槻さん……あれ、気付いてる?いつもこんな状況?すごいね……。俺、若槻さんと歩くと気疲れしちゃいそう……。」

「…気付く…?何に……。あっ!…うん。歩くペース、合わせてくれてありがとう。…嬉しかった。えへへ。」


 そしてふにゃっとはちみつみたいに甘い笑顔を浮かべたと思ったら、一転して少し申し訳なさそうな顔になった。


「でも、ごめんね。ペース合わせてくれてたら疲れちゃったよね。」


 若槻さんはしょぼん、と下を向いた。

 どうやら誤解を生んでしまったようだ。俺は慌てて口を開く。


「いや、俺が疲れるのは歩くペースじゃないよ!それは全然平気。…若槻さん、すごい注目集めてたじゃん?若槻さん一目ひくからさ。それで。…変な言い方してごめん。」


 すると、きょとんとして、不思議そうに小首をかしげた。

 小首をかしげるのがどうやら癖らしい。小動物に見えてきた。


「私…注目集めてた?ええっどうしてー?はっ!もしかして寝ぐせついちゃってたとか!ひゃあぁ恥ずかしいっ。」


 若槻さんは慌てて両手で髪を撫でつける。

 しかしその髪は寝ぐせどころかうねりもはねも知らない、さらさらのストレートヘアーである。

 俺は、わたわたと慌てふためく様子を見てやっぱり小動物みたいだと思った。学校では静かな微笑みをよくクラスメイトに向けているのは見かけるが、こんな風に慌てる姿は珍しく、見たことがなかった。

 慌てることもあるんだと知って、何だか微笑ましく思え、自然と頬が緩む。


「寝ぐせ、ついてないから大丈夫だよ。」

「えっ…じゃあ他に変なところが。」

「どこも変じゃないから大丈夫。」

「…じゃあどうして私、注目集めてたの?」


 若槻さんは少し戸惑いつつ、俺に尋ねた。

 答えを知っているのなら教えてほしい、というすがりつくような視線で。


「そりゃあそれは若槻さんが」


(…待て。俺今何て言おうとした。…そりゃあそれは若槻さんが……若槻さんが可愛いから。…可愛いからだとおおお!?言えるかあああああ!!)


 必死に思考を巡らせ、注目を集めていたもっともらしい理由を考えるが、何1つ思い浮かばない。


(…言うしかない、のか。なら腹をくくれ!言うんだ俺!可愛いからって!言え!!)


「そりゃあそれは若槻さんがかっ……かっ…!」


 じっと答えを待つ若槻さん。


「髪がっ長いからだよ!!」


 シーン……。


(お、俺のヘタレ。…こんなんで誤魔化せる訳ないよな。)


 そろそろと顔を上げると若槻さんは


「そっかぁ!」


 と、眩しすぎる笑顔になった。



 …なるほど。

 この子、天然無自覚系美少女なんだわ。


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