前編 私が守る
今回は春希と瑠李にフォーカスを当てて書きました。
シリーズ物初の過去編であり、前編と後編に分けて書こうと思っていますので、よろしくお願いします。
シリーズのカテゴリーに追加しておきますので是非どうぞ。
「無表情の天才セッターは、元モデルの長身素人を全日本代表まで育て上げるようです。」本編の方もよろしくお願いします。
私、河田春希は、相模原東中の一年生。
ピカピカの新入生で、今日入学式を迎えた。
私はバレーボールを小学生の頃からやっていて、中学でもバレー部に入ろうと思っていた。
顔見知りも多いので、友達もすぐに出来たし充実した学校生活を送れるだろう、と思っていた。
ただ……何故か気になっていた。
私の一個前の席に座っている女の子が。
名簿を見ると、「亀貝瑠李」、と書いてある。
安そうな青淵眼鏡をかけて、首の下辺りまで伸びている黒髪。
暗そうな感じだった。
私と真逆だ。
私はそう、直感した。
入学から一週間が経過し、仮入部期間が始まった。
私はもう、バレー部に入るという事を決めていたので、速攻で入部届を書いて先生に提出した。
この一週間で、男子も含めて全員と話すことが出来た私なのであったが、未だに瑠李とだけは話せていなかった。
何せ一日中、ずっと本ばかりを読んでいるからだ。
誰とも話すことなく、ただただ、ジッ…………と、同じ本ばかりを。
何かやりたい部活はないのかな……私は瑠李に興味が湧いてきた。
勇気を振り絞って話しかけてみた。
「えっと……亀貝さん、だっけ?」
恐る恐る、聞いた。
こちらを見ている瑠李。
コクン、と無言で頷いた。
何か話しにくいな……春希はそう思った。
「私、河田春希、って言うんだけどさ……その……部活、決まった……?」
瑠李はまたもや無言で首を横に振った。
よく見ると、眼鏡の奥に見える目がとても神秘的で、めちゃくちゃ可愛かった。
ただ……相当なコミュ障なのは間違いなかった。
「……よかったら……バレー部に来ない? 体験、だけでもいいからさ、今日一緒に行こ?」
瑠李は、自分がまさか誘われる立場になるとは思っていなかったようで、どこか戸惑っていた。
流石の私でも慌てる。
何せ、こんなにも沈黙が流れた会話は私は初めてだったから。
「あ、えっと、嫌だったらいいんだよ。そのー……亀貝さんに、興味が湧いた、っていうか……」
つい、口を滑らせてしまった。
興味が湧いた……本音であり、仲良くなりたい、という現れだったから。
と、瑠李が重い口を開いた。
「………私に……?」
低く、小さな声で、私の目を見ながら瑠李は私にそう聞いた。
クラスの話し声の喧騒の中、瑠李の声の大きさを聞くのはかなり難しい。
私は頷く。
だって、興味が湧いたのは事実なんだし。
「……いい……けど………」
またもやボソッと呟いた瑠李。
だが、何処か表情には影があって、怖かった。
私はその時は全く気にしなかったのだが。
「いいの!? じゃ、放課後体育館ね!」
これが私と瑠李の最初の出会いであり、高校までの関係を作る瞬間だった。
相模原東は神奈川県でも普通に強いレベルの学校だ。
地元の小学生が多く入り、私もそのクチだ。
少年団からバレーボールをやってきているので、当然、先輩も顔見知りがいる。
キャプテンの目黒佳代さんに挨拶する私と瑠李。
瑠李はどこか緊張した面持ちだった。
佳代さんは、私に話しかけてきた。
「……この子……すっごい暗いけど……大丈夫なの……?」
どうやら瑠李の事を指しているようだった。
私がことの顛末を話す。
「私が仮入部に誘ったんで……ハイ……。」
「そっかー……」と、佳代さんはそう、呟いた。
「……とりあえず来た理由は分かったけど……ちょっと心配かなー、私は……」
これには私も全くもって同感だった。
バレーボールはコミュニケーションが大切なスポーツで、それが出来なければ一流とは言えない。
そもそもコートにもし入るとして立った時に変なミスをしたりしないか、という心配がよぎっていた。
「まあでも……すぐ慣れますよ。先輩、瑠李は私に任せてください。」
「うんまあ、春希がそう言うならいいけど……」
ということで、私は練習に、瑠李は見学といった形でバレー部の練習がスタートした。
瑠李は頭にボールがぶつかったら危ないので、隅っこに座って見ていたのだったが、私の目には、瑠李の神秘的な目が輝いているように見えたのだった。
翌日、瑠李が正式にバレー部に入部した。
どうやら何か思うところがあったようで、それが入部のきっかけになったのだとか。
まあ、先輩たちも上手いし、今の私が試合に出れるような実力もないので、私が付きっきりで瑠李にバレーを手取り足取り、教えることになった。
瑠李の飲み込みはかなり早かった。
私や先輩たちがビックリするくらいに。
だが、学校指定のTシャツ短パンから見える腕や脚に、何か強烈な違和感を瑠李から感じていた。
生傷が絶え間なかったことに。
イジメ? 虐待……? それとも違う何か………??
私は色んな意味で瑠李のことが怖くなっていった。
確信はしていたが、確証が持てない。
瑠李には絶対、何か良からぬことがあると。
私は瑠李と、一緒に遊んだり、部活で練習していくうちに、瑠李はちょっとずつ明るくなっていったし、話すようにもなっていったし、笑顔も増えていった。
でも、それでも疑念が消えない。
というか、私で分からない次元の何かが瑠李にはある、そう思わずにはいられなかった。
「私が出来たはじめての友達」と、瑠李が言ったことにも関係があるのか……元がシャイな奴だし、遊びにも殆ど行かなかったというのにも関係があるのか……ある日の部活からの帰り道、私は瑠李に問いただしてみた。
「あのさ、瑠李……気になってたこと、あったんだけどさ……」
「うん……なに……?」
瑠李の表情が何処か強張っていた。
私はそれを見て躊躇いかけたが、ここで聞いておかないと本当のことが分からない。
勇気を振り絞った。
「……腕とかさ、脚とかに付いてる傷……どう、したの……? 転んでできたにしては……アザが凄いし………」
瑠李がこれを聞いてハッとした表情になった。
どうやら私は禁忌に触れてしまったようだ。
瑠李が泣きそうな顔になったのが分かる。
私はこれ以上、私の方から問いただすのを辞めた。
「ご、ごめん、瑠李……気分、悪くしちゃって……」
「い……いいよ、春希……き、気にしないで……」
瑠李も私に気遣ってくれたのは分かったが、表情が何処か硬い。
私は考えた。
どうやったら打ち明けてくれるのか、と。
こういう時は聞き上手の母・真澄に託すしかない。
「その……さ、瑠李、良かったらこの後……私ん家、来ない? 話だったらさ、ウチの母さん聞いてくれるだろうから……」
「……う、うん……」
というわけで、私は瑠李を連れて帰宅した。
母さんと私が瑠李の話を聞く。
瑠李は泣きながら家のことを話した。
瑠李の口から飛び出したのは、あまりにも衝撃的なことで、私は吐き気を催した。
しかも内容が凄惨そのもの。
考えただけで吐きそうだった。
5年前に母が離婚、再婚して義父が来たあたりから人生が一変したとのことで、育児放棄に加え、義父からの暴行、物もロクに買ってもらえなかったし、大きいショッピングモールにすらも、9個離れた兄と以外殆ど行ったことがないのだというのだから。
大家族の私からしたら想像を絶するもので、あの傷はその時の暴行によって受けた傷だということも分かったし、確信がやっと持てた。
瑠李は兄以外に褒められたことが殆ど、というか、私と出会うまでゼロだったということが分かり、絶句してしまった。
そりゃあんな暗い性格になるわけだ、私はこう、思わざるを得なかった。
そしてその時に誓ったことがある。
瑠李は私が守る、と。
その後は河田家総出となって瑠李を支えていく、ということで家族会議で決定し、瑠李も私だけでなく、母さんにも懐くようになった。
あの後迎えに来た瑠李のお兄ちゃんにも事情を説明し、それが全て事実だと知って、瑠李のお兄ちゃんも瑠李を責任持って面倒を見る、ということを約束した。
瑠李はその後、セッターとして急成長を遂げ、私も相模原東のエースになった。
3年間、一度も休むことなく練習に取り組んだ私たちは、県大会の決勝に駒を進めたが、あと一歩及ばずで関東大会進出を逃し、引退となった。
引退後も友好関係を続けていった私たちだった。
しかし、その仲に亀裂が走ってしまうことになる。
キッカケは、瑠李がイジメを受けたことによるものだ。
ここから私と瑠李の歯車が、狂っていくことになっていくのだった。
次回、春希と瑠李の仲が何故、亀裂が走ってしまったのか、それをもっと焦点に当てていこうと思います。
なのでまあ……短めの掲載にはなりますが、よろしくお願いします。




