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2−25 余談 働く者たち

「暴れてたやつは縛って、民家に押し込んだ。

けれど、何人かは逃がしたっぽいから今、追わせてるところだ」

「ほどほどで帰ってこさせろな。

逮捕もしたいがまずは被害者の保護が優先だ。

今は意識がはっきりしてないが、

正気に戻った時パニックを起こしかねない。

全く胸糞悪いことしやがって」

ダイアンは部下からの報告を聞きながら、

取引履歴の文書を棚から下ろして調べている。

その中にはここにはいない被害者と加担した人間が載っていた。

壊滅には成功したがまだ問題は解決していない。

彼らを全員見つけるまで諦めない姿勢を見せた。

「さすが元聖都勤めの鬼軍曹さんだ。俺たちとは

入れ込み方が違うなぁ」

「しばき回すぞ? お前も軍人ならそれくらいしろ」

「へいへい」

二人は一応、上司と部下の関係で本来なら横柄な返事をする彼を

叱りつけるところをダイアンはそうせず、ただ黙々と自分の作業を続けていた。

「あと、門を破壊したあの子供らだが、

手配書に載ってた。こっちは完全に見失った」

「マジか。何をやらかし、うわぁ。

ま、今日のことを考えればやりそうではあるけど

ひどいな」

「と言ってもさ、こんな奴らと繋がってる

かも知れない奴が書いたんだし、

別に見逃してやっても良いんじゃないの?」

「馬鹿言うな。大義があったって

やったことは犯罪だ。

見つけ次第捕まえて説教してやる」

「じゃあなんで追手を出してない」

「そりゃあ、この町の問題が片付いてから

やろうと思ってたからだ」

「へぇそう」

「あと、壊れた建物は全部、敵の攻撃を受けたからってことにしとけ。

あの乱闘騒ぎだ。責任問題をうやむやにできる」

「あんたも完全な正義ってわけじゃないんだな」

ダイアン・ホシュテイン、この国の首都、聖都サークレットで

ある商家の不正を暴いたが逆に辺境に左遷された不運な軍人である。

「ところでリザは見なかったか?」

「え? 来てないのか? 別のとこで見つけた書類をあんたに届けるよう言ったぞ」

「お前! 民間人だぞ、彼女。なんでこっちの仕事させてんだ」

「だっ、だっていつもあんたと一緒にいたから副官かなって思って。

というか民間人ならあんたも連れてくんなよ」

「仕方ないだろう。通行証は彼女が持ってたし、

この町に入ってから音信不通になった弟を自分で探したいって聞かなかったんだよ」

「……で、その書類はどこ行ったんだ」

「来てないってことは。リザが持ってるんじゃね?」

「……君、どう責任を取ってくれるのかね?」

「全力で探します」

青筋を立てるダイアンを恐れて、捜査網を張ったが

リザを見つけることは出来なかったと

この時の始末書に記録されていた。


暗い夜の森を掛ける男がいた。

彼はノラとレイに入門証を渡した男で、

騒動が起きた時から逃げていた。

「なんでこんなことに。あそこはもうだめだ。

だが、俺にはまだこの能力がある。

商売を通じてコネもできた。

今、逃げ切れば返り咲くことは出来る」

早すぎる決断だったが、その読みは正しく

町は軍に制圧され、彼を追いついた者もいなかった。

「うわっ」

男は何かに足を取られて激しく木にぶつかった。

足元を見ると、長い雑草同士が先端を結んで

橋をかけている。つまずいた原因はおそらくそれだった。

「ついてねえ。こんないたずらに引っかかるなんて」

「いや、本当についてないなぁ」

声がした方を見ると、ぶつけた木の上から男が飛び降りてきた。

「よっ。災難だったなぁ」

肩にカレンを担いだニースが気さくな挨拶をした。

「ッ!?」

「まぁまぁ、待てって。警戒するのは当然だけど

俺は同業者だ。お前を突き出したり、

法の裁きを受けさせたりなんかしないよ」

ニースは転んだ男に手を伸ばして立ち上がらせた。

「お前の能力は凄い。

ただの汗の臭い、フェロモンっていうの?

それをかがせることで相手を操れるんだ。

しかも何が凄いかって言うと、直接嗅がせなくても

染み込ませた装飾品を持たせても効果が出てる。

これはいい商売が出来そうだ」

ニースは状況から推理した能力を証拠もなく言ったが、

男の顔が正解だと答えている。

「ただいただけない所もあるなぁ。

せっかく操れても本来の実力を発揮させられていない。

この女騎士様も多彩な技が持ち味だったそうなのに、

まるでなっちゃいない。

これなら人質で脅した方が

ずっといい仕事をさせられるって」

話しながらニースは背負った大きなカバンから

鞘付きのナイフを男に投げ渡した。

「あんたにはすごく興味がある。

アンタの全てを有効活用してやるからウチに来なよ。

少し離れたとこに窓口がある。

そこまで|ナイフ≪ソレ≫で自衛してくれな。

俺は戦闘が苦手なんだ」

男に有無を言わさず会話を進め、

話を勝手に決めるとニースは背中を見せて先に進む。

シャリン。

鞘が投げ捨てられ、鋭く研がれたナイフが刀身をさらす。

両手でしっかり握り、男はためらいなくそれをニースに向けた。

「あっ、後なーー」

振り向いたニースの脇腹に深々とナイフが突き刺さる。

赤いしずくが雨のように降り、ナイフを握る男が危険な目で笑った。

ニースは血を流し、


男は左肩を飛ばしていた。


「え?」

「生きてさえいれば良いから

片腕(余計な物)はここで落としとくな?」

宙を舞う自分の左腕が草むらに落ちたのを男は見た。

今、自分の顔を濡らす赤い血の雨がどこから降ってきたのか分かった。

「うわぁぁぁぁぁああぁあ!」

男はナイフを手放し、失った肩を何度も叩く。

肉体を失うという本野的な恐怖を掻き立てられる事態に

半狂乱になっていた。

「あーもう、痛いな」

腹を深く差されたニースも致命傷を受けて正気でいられないはずだが、

子どものいたずらと同程度の扱いをしていた。

「なんで」

抜けば確実に失血死するが、ニースはためらいなくナイフを抜いた。

何故そんなに平然としていられるんだと

落とした腕を抱えた男は聞いたつもりだった。

しかし、意味を取り違えて別の説明をする。

「ウチの女衆を安心させるためにも

ホントは両手脚を落としておきたいけど

生活しづらいだろ。

だから利き腕の逆だけ取っておこうかと」

けがを負ったこともさせたことも全く気にしないニースに

男は狂気を感じた。

「お前、イカれてやがる!」

声を震わせて思っていたことを口に出すと

ニースは男の顔を強く踏みつけた。

「おやおや、何かおかしな言葉が聞こえたな。

俺たちの業界でイカれてない人間が

いるわけ無いだろ?」

ニースは嗤っていた。

「お前、女を辱めるのが趣味なんだろ。

つくづく気が合うなぁ。俺もお前みたいなのを

いたぶるのが趣味なんだ。

特に女をいたぶるゲスをうっかり殺さないよう

ギリギリを攻めるのなんか最高過ぎて│絶頂し《イき》そうだよ」

凄惨に嗤っている。

「死ぬなよ。死なせるより鬼畜な事をしたんだ。

最期まで生き地獄を味わわせてやる」

暗い闇の中で赤く光る眼が男を捕まえる。

能力の秘密だった汗も涙も、体から出る全ての汁を漏らしても

ニースは男の制御下に入らない。むしろ一層興奮しているようにも見えた。

肩を物理的に落とした何かを持った怪物の影が男を食い散らかす。

「兄様ーッ!」

だが、にぎやかな声が陰鬱な空気を吹き飛ばし、

怪物は元の人間の姿に戻った。

「「すいませんでした!」」

ニースが何かを言う前に、

文字通り飛んで駆け付けた三人の男、1号、2号、3号が

地面に頭をこすりつけた。

「せっかく紹介してくれたのに

またクビにされちまいました」

「本当にすみません」

大げさに涙を流す1号と泣いてはいないが同じくらい本気で

謝る2号の土下座を見せられて、ニースは複雑な顔をした。

「あー、うん、まぁ。あそこは仕方なかった。

次、頑張ろうな」

「「兄様」」

ニースからすればただのスムーズに入るための布石で送り出したので

本心から気にしていなかった。

三人の男たちはものすごく感激している。

「兄様ーーッ!」

「え?」

特に感極まった1号がニースを抱きしめる。

バキバキバキバキグチャ

「ーーーーーーーッ!」

1号の腕の中から声にならない悲鳴を上げる。

はみ出た右腕以外の肉と骨は今頃、

人間台の万力によって押しつぶされているのだろう。

「あちゃー、ダメだこりゃ」

一瞬のうちに男を身代わりにして逃げ出したニースは

カレンを担いで木の上から男の末路を憐れんでいた。

(さすがにこれ以上は手が出せん。

というか生きてるのか? 生きてなきゃ困るんだけど)

「兄様? なぜそんなところに? 

うわっ、なんだ、お前気持ち悪い体のくせにくっついて来やがって」

「お前がやったんだ、まぁいい。

俺はこの娘を親元に届けてくるが

少しの間検査とかリハビリとかに付き合うから

しばらく手が離せない。

代わりにそれ治して窓口まで持ってってくれ。

それは臨時ボーナスだ。それでしばらく持たせてくれ」

ニースは大荷物を指さし、カレンとともにどこかへ走っていった。


「あっそれと姐様、見なかった?」

読んでいただきありがとうございました。


余談なので軽く済ませるはずだったのですが、

思った以上に時間をかけてしまいました。


予定通り3章は

2/1(火)

に投稿する予定ですが、

早くも予定に遅れが生じて焦っています。

この遅れを取り返す所存です。

まだまだ執筆をつづけていきますので

読んでいただければ幸いです。


この小説に好感持っていただけましたら

ブックマーク登録及び評価を

どうぞよろしくお願いします。


以上です。

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