2−24 自由
分厚い壁が破られ、瓦礫が真夜中の空を飛んだ。
カレンの姿は見えないが、
間違いなく今の一撃を当てたはずなので、
飛んでいく瓦礫の中に混じっているだろうと
レイは予想した。
少なくとも勝負はこちらの勝ちで終わったと
安心したところへ膝から力が抜けた。
精神的な要因からではなく、
本当に全身の力を根こそぎ
持っていかれた感覚だった。
「全力で倒すつもりではあったけど、
たった一回で動けなくなるなんて。
使い勝手が悪いわね」
「仕方ないだろう。強い力ではないのだから」
全力疾走した後のように呼吸を乱すレイに
ノラは汗を拭く用の小ぎれいな布を渡した。
少し湿らせてあって、
押し当てた箇所がヒンヤリして
気持ちよかった。
「町の様子は?」
「売買側が徐々に押されている、だったが。
今の爆発と破壊された壁を見て戦意を失った。
逆方向へ壊走している。もしかするとそこに
脱出ルートがあるのかもしれんが、
逃げ切れるのは僅かだろう。
残念ながらこの町はもうおしまいだ」
「残念って、当然の報いでしょうよ」
「それはそうだが。
善人が排斥され、悪人も取り除かれたこの町は
どうなってしまうのかと思ってな」
まだ騒ぎの納まらない町から
人を消した風景を連想するノラは
その場をじっと動かず眺めていた。
思えば最初に入ったときも一目散に
町の中に入っていった。
もしかすると何か思い入れがあったのかもしれない。
「枯れ木も山の賑わいなんて言うけど
カビた木なんてあったっていい事ないわよ。
それより今は私達がどうするか考えましょ」
「そうだな」
気分を変えようと声をかけても
ノラはまだ眺め続けている。
「誰かいるぞ。あの顔、手配書にあったような」
「そこの冒険者! 止まりなさい」
爆発を聞きつけた軍の一部が
こちらに走ってくる。
「やっばい。逃げるわよ」
「おっ? 待て待て。ニースはどうする。
一緒に出る予定だっただろう」
「自分たちで出られるんだから
待つ必要もないでしょ。
さっさと逃げるわよ」
背負われたノラは崩れていく町を見続けていたが、
レイは満足気にこの町を出る。
散々な目にあったが得るものは多かった。
ダイアン、カレン、1号と名乗る大男、
この小さな町でさえ自分より強い人間が3人もいた。
ノラと出会い、特殊な力を得たことに
運命を感じて強くなったと思い込んでいた。
そんなことは全くない。自分は弱い。
だからどうした。
弱くてもやれることがあったし、
勝つことも出来た。
三文芝居の言葉を借りるなら
私達の旅はまだ始まったばかり、
これから強くなろう、そう思うようになった。
「……ところでレイ?」
「何? 今、急いでるんだけど」
「どこへ向かっておるのだ」
「…………」
前にいた町には戻れず、
目指す場所もない。
レイたちは前途多難な道を
ひたすら走り続けるのであった。
読んでいただきありがとうございました。
ついに第二章が終わりました。
2021年9月4日から始まり、
約5ヶ月かかりました。
間に1話、余談を入れますが
第三章は2月から始め、
5月末に締められるよう
かいていく所存です。
次話の投稿予定日は
1/29(土)
次章の投稿開始予定日は
2/1(火)
です。
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どうぞよろしくお願いします。
以上です。




