2-20 降伏
昼を女の時間と例えるなら
夜は男の時間だった。
家に引きこもった男たちが
外へ繰り出し、道すがら合流した仲間たちと
談笑しながら歩き出す。
「何だ、あれは」
男たちが向かう先に
何十人もの人だかりが出来ている。
「参った。どうやら逃げることは出来ないらしい」
その一人にここで立ち往生する理由を聞いてみると、
「何かのイベントがあるから少し待てって
立て札があるんだとよ」
「何かって何だよ」
浮き足立つ気持ちを我慢して
熱気を漂わせる男たちの前に、
目の前の建物から子どもがやって来た。
「今夜はお集まり頂き、
心から感謝する。
我は昨日、この町に来てずっと逃げ続けた
ノラという者だ」
快活な挨拶で迎えられても
男たちがそれを望むはずもなく
期待への裏切りが怒りとして
ノラにぶつけられる。
「うるせー! ガキの遊びに付き合ってられっか。
早くヤらせろ!」
一挙に舞い込んだブーイングを受けて、
萎縮するどころかノラは満面の笑みを浮かべる。
「うむ。元気があって大変良い。
これだけ活力に溢れているのなら、
やはりいずれ捕まっていただろう」
「観念したのか。物わかりのいいガキだ」
「ということで潔く自害することにした」
「「「「は?」」」」
ノラは口から火のついた木くずの塊を取り出した。
それを放り捨てると、あらかじめ
置いていた枯れ葉と枝に燃え移り、
建物の中へ火が進んでいく。
手品のような芸当と急激に大きさを増す炎に
集まった男たちは動けなかった。
「無様に生き恥を晒すより、
ぱーっと後腐れなく散る方が
お互い心地よいだろう。
では、さらば!」
迷いなく炎の中に消えるノラを止められず、
ただ呆然と炎上する建物を眺めていた。
「はっ!?」
熱気が頬を撫でてようやく
町人たちは現実に帰ってきた。
「ちょっ!? 待て。中にはまだ奴隷がいるんだぞ」
「バカ! 俺たちが直に入るのはマズいだろうが!」
慌てて回収しようとする者とそれを止める者で
騒ぎが大きくなるが、
その間にも火が大きくなっていく。
「通ります! 通してください!」
騒ぐだけの男たちをかき分けて、
この町の代表を名乗るカレンが
部下を連れて現れる。
「ご主人様の奴隷たちを運び出しましょう。
最初に水魔法が使える人が私と入る。
次に力のある人が入って檻から出した奴隷を
外に運ぶ。
残りは井戸からリレー式で水を組み上げる。
行きましょう」
「「「「はい!」」」」
カレンを陣頭に女たちは燃え盛る火を
全く恐れずかき分けていく。
「カレンさん。もうかなり水魔法を使っているのに
全然熱が引かない! このままじゃ私達は大丈夫でも
奴隷の皆さんが蒸し焼きになってしまいますわ」
「救助を優先! 見つけたそばから出してください。
魔法組は各階に人員を配置。
ローラー作戦で火元を完全に鎮火してください!」
カレンの指揮の甲斐があって
拘束した奴隷たちが次々と建物の外へ出されていく。
しかし、
「熱が下がりませんわ」
「どうして!?」
入り口から最上階までキレイに並べた可燃物は
水に浸した状態で撤去し、虱潰しの消火活動をしても
熱さが引かない。
「もう奴隷たちは全員外に運びましたし、
諦めて出ませんか?」
「ダメです。ここはご主人様にとって大切な場所。
放棄するわけにはいきません」
「ですけど。あら?」
話している間に汗をつたうほどの熱気が
嘘のように消えていた。
「これは、一体どういうことですの?」
「……ハメられましたか」
腑に落ちない顔でカレンたちが建物を出ると
後ろから拍手が鳴った。
「見事だ。もっと時間がかかると
思っていたのだが、迅速な対応で感服した」
どこに隠れていたのか放火犯のノラが
同じ場所でカレンたちを褒め称えていた。
「騙したのね。
焼身自殺に見せかけて、彼らを餌に
私達を道連れにするつもりだった、そうでしょう?」
「うむ。騙した。
それと火をつけたことも謝る。申し訳無い。
しかし、言い訳をすると
誰も死なせるつもりはなかった。
むしろ、誰も死なせないためにやった」
ノラは作戦の成功で舞い上がって
全てを自供し始めた。
読んでいただきありがとうございました。
前回で宣言しましたが、
内心不安だった4日ぶりの投稿が出来て
一先ずホッとしました。
次話の投稿予定日は
1/15(土)
とさらに短いスパンですが、
頑張って書き進める所存です。
ゆくゆくは週二回の投稿が
当たり前に出来るようになりたいです。
この小説に好感持っていただけましたら
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どうぞよろしくお願いします。
以上です。




