2-18 希望
あけましておめでとうございます。
今年も執筆をつづけていく所存ですので
どうぞよろしくお願いします。
「それじゃあサポートも含めて明日の準備があるから
俺は先にお暇させてもらおう。
一応、前払いとしてこの部屋に置いてある食料も武器も置いてくから
好きなものを使ってくれ」
ニースはそう言って単身で夜の町へ飛び出していき、
今はノラとレイの二人で休憩をとっていた。
部屋の壁際でぬいぐるみみたいに座るノラの前を
レイが落ち着きもなくうろうろ歩き回っている。
「明日に備えて休め。適度に休まねばいい仕事はできんと
大工の棟梁が言っていた」
「うんぅ」
たしなめるノラに気のない返事をよこされて
「もしやさっきの言葉を気にしているのか」
「うんぅ」
≪回想≫
町の秘密を破壊するという大役を
レイとノラに任せる。
その理由を尋ねた話で。
ふざけた様子もなくニースは仕事の顔で話した。
「そりゃ、事前に何人か傭兵を潜らせたよ。
でも全員、連絡が取れなくなった。
十中八九、この町の連中の手に落ちたと考えるべきだ。
結構な腕利きを出したのに痛い出費だよ、全く。
なのにどういうわけか、
君らにはこの町の秘密は効かなかった。
仕組みが全く分からない以上、抵抗力がある人間に任せるのが
一番成功率が高い。
万が一にも俺が引っかかったらお終いだもんな、色々と」
「私たちだけ……」
効かなかった理由に思い当たる節はある。
ノラは(元)魔王、レイはノラからその体を移植されている。
つまり、二人とも人間から外れた存在であることだ。
それをニースに教えるべきか考えたが、
結局言わないでおくことにした。
「最悪、やられちゃっても全然怖くないしな」
「そこまで言わなくても」
「でも実際、君弱いでしょ」
及び腰のノラにニースはばっさりと
言葉を濁さずに言い放った。
「いくら耐性があっても、戦力としては不十分。
頼んでる俺が言うのもなんだが、
正直君らじゃ無理だと思っている。
それでもやれる?」
ニースの瞳は真っすぐレイの目を捉えていた。
罵倒や驕りではない。
ちゃんと正しい評価を下したうえで
レイに言葉を求めている目だった。
「たぶん――」
「『たぶん』じゃだめだ。
『絶対にやれる』って言ってくれないと任せられない。
今まで君より強い人間を何人も送り込んで失敗してきたんだ。
君みたいな若輩者がそんないい加減な気持ちで
出来ると思っているなら改めた方がいい」
ニースは甘さを非難するようにまくしたてる。
半ば逆上して言ってやりたいのにレイは言葉が出なかった。
思わず首が下がり始めたとき、
それをノラが代わりに言った。
「やってやるとも」
いつかのようにノラはレイの前で立ち向かっていた。
「俺はこの娘に聞いているんだけど?」
「だから我が答えた。故あってレイの身は我が預かっている。
レイが任されたことならが我にも我にも責任があるということだ。
必ずやり遂げてみせよう」
子ども相手でも真っすぐ見すえるニースに
ノラもにらみ返す。
その意志の強さを感じて、ニースが先に折れた。
「分かった。信じよう。だけど、本当にやってくれよ?
ことは俺だけの話じゃない」
「当然だ。絶対にやり遂げて見せよう。
ただしその暁には今の言葉、撤回してもらうからな」
「分かった。じゃあ、これ以上は何も言わない。
好きに暴れてくれ」
すっかり目の敵にされ、ニースは浅くため息をついた。
≪回想終わり≫
頭ごなしに弱いと言われて、
文句の一つも返したいとは思っていた。
「だけど、あんなに啖呵を切らなくても良かったんじゃない?」
「言うべき時には言わねば。舐められっぱなしは気分が悪いだろう」
「そうだけど。あんたは大事なことを忘れてる?」
「ん? それはなんだ」
ご機嫌ナナメだったノラも
忘れていると指摘を受けてきょとんと居直った。
「私より弱い人間はいない!」
「言ってて悲しくならんか?」
「事実よ。あんたの力をもらって少しは
強くなったと思ったのに
この町に来てからずっと逃げ通しだもん。
自信なくなっちゃった」
「うん? 我の力で強くなった?
何の話だ」
「だから。あんたのおかげで完全じゃないけど
魔王の力が使えるようになったんでしょ?」
「そうだが、それで何故強くなる?」
「え?」
「ん?」
互いに不思議な顔で見合った。
二人の間に大きな思い違いを感じた。
「ふむ。もしや我の力を勇者が使う伝説の剣のような
チート能力と思っているのか?」
「そりゃそうでしょ。だって魔王なんでしょ?
それくらい強くなきゃおかしいじゃない」
世界を滅ぼす大魔王、それくらいの力があって当然。
レイはいたって常識的な見解を言ったつもりだった。
「そんな力があったら旅など出ておらんわ!」
ノラは驚いた様子で声を張り上げた。
「いやっ、だってーー」
「百歩譲って最盛期の我の力がそれほど強かったとしても。
今の我は幼体。しかもその一部の力で
レベルアップ出来るわけがないだろう!
包丁を持たされたぐらいのものだ」
ノラの言葉にレイは頭を殴りつけられたような衝撃を受けた。
力をもらったおかげで戦えるようになったという前提が覆された。
肩を落としてショックを受けたレイを見やり、ノラは自分の頭を掻いた。
「そうか。我の力を過信していたのだな。
察するに自分の戦い方を見失っていたのではないか?
強くなったと勘違いしたまま、
戦って返り討ち、という良くある展開だ」
「私の戦い方?」
ノラの目の前では数えるほどしか見せていない
自分の戦い方に興味が引かれた。
「とにかく相手を伺い、腰を低く卑屈さいひゃい」
「喧 嘩 売 っ て ん の ?」
戦い方というよりただの悪口を言われ、
野良の柔らかい頬を横に摘まんで伸ばす。
その手を振り払い、ノラは開き直った。
「卑屈結構。どんな手を使おうが
世の中は結果が全て。
最後に勝てばそれで良いのだ」
「それはまぁ、そうかもしれないけど」
「不必要な強さなどいらん。
倒せる相手とだけ戦って勝つ。
倒せない相手からは逃げる。
弱きをくじき、強きに下る」
「最低だぁ」
いっそ清々しい小悪党の考え方だった。
だが、
「それで良いのだ。
我らは勇者ではない。強くはない。
だから自分にできることだけをやればよい」
ノラは落ち込んだレイの肩に手をのせた。
その手はとても優しくて負け続きの心に安心を与えた。
「気負うな。やれることだけやればいい。
それでも出来なかったら別のことをすればいい。
手を休めなければ大抵のことは何とかなる、と
古着を繕うご婦人から聞いた」
「また伝聞?」
相変わらず他人の言葉を引用するノラに呆れていたが、
不安はすっかり無くなっていた。
(今なら言い返せるかも)
そう思うレイの目にノラは光を見つけた。
「では気を取り直して。
まずは考えよう。これから何をすれば良いのかを」
決行まであと数時間、二人は寝る間もなく
明日の攻略法を話し合った。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回の話も長くしてしまいました。
うまくまとめたかったのですが、この物語のコンセプト。
『強くはなかった主人公が少しずつ成長して勝利する物語』
を詰め込みたい一心で書き上げました。
昨今のラノベの流行といえば『チート』です。
すごく強い。すごくモテる。
アクセス数を増やすならそういう話の方が良いとは
思うのですが、やはり私は
弱くても、嫌われても、懲りずに立ち向かう。
そういうキャラたちの話が好きなので
新年の意気込みも込めてこの話を載せました。
至らぬ点も多々ありますが、
今後も読んでいただければ幸いです。
次話の投稿は
1月8日 です。
改めて、読んで頂きありがとうございました。
ブックマーク・評価を頂くと
やる気につながりますので、
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以上




