2-16 依頼
かぶりつく果肉から滴る桃の汁をなめとるニースに
ノラはもらったモモに口をつけて聞いた。
「ビジネスと言ったが、何を売りにするのだ?」
「身の安全」
その一言で二人の身が強張った。
「ここで騒げば誰かはここに来る。
そうなったら君らは先の見えない追いかけっこを
強いられていつかは捕まる。
だけど、大人しくコッチの言うことさえ
聞いてくれたら安眠出来るベッドと軽い食料が手に入る。
どう? そっちにとってはいい話だと思うんだけど」
和やかに話しかけてくるが、
裏を返せば従わなければ突き出すと言っているようなものだ。
選択の余地はなさそうだが、レイは弱みを魅せまいと
敢えて強気に答えた。
「内容によるわ。わざわざ追われてる人間を
匿って取引を持ちかけるなんて普通じゃないもの」
「そこはほら、言った通り、闇商人だから。
と言っても信用出来ないよな。
けど、こっちも時間がないし、
手早く依頼したいことだけ言うと。
明日中にこの町潰して」
「「無茶言うな」」
二人は声を揃えて拒否した。
「いくらなんでも無茶過ぎる。
ここにいる3人ぽっちでどう立ち回れば
町一つを攻略出来ると言うのだ」
「あっ、俺、戦闘は専門外だから。
荒事はそちら持ちでね」
「だから無理だと言っている」
「いやぁ、でもね?
そうしてもらわないと困るんだよ。
こっちも他の仕事が押してて
明日には出なきゃいけないからさ」
「あんたの都合なんて知らないわよ。
いきなりそんなこと頼まれて
はい、やれますって言える
内容じゃないでしょうが」
「それでも今しか無いんだ」
親しげに話したときと一変して
ニースは真面目な顔で言った。
「今。この町にいた戦力の半分は
別の町で足止めされていて、
かなり弱体化されている。
その他色々な面倒なものも今は手を出せない状態になってる。
この機を逃せばかなり厄介なことになる。
その辺りの事情とかはそれこそ君らには関係ないことだ。
問題は現場のここだ。
何も皆殺しにしろなんて言わない。
取り仕切ってる人間……とは違うと思うんだけど。
なんていうか根本的な何かを潰さないと
取り逃がしたとき別の町で同じことが起こりそうだからね」
「曖昧な説明ね。何かを潰せ、って」
「ゴメン。よく分かってないんだよ。
こっちも出入りする商人から聞いたくらいの情報しかないから。
ただそれでも何も知らずに入った君らよりは知ってるよ?
ここがどういう場所かってことを」
闇商人のニースの言葉に不穏な響きを感じたレイは恐る恐る聞いてみた。
「この町が何だっていうのよ」
「市場だよ。ここは新しい市場になろうとしているんだ」
「良いことではないか。景気のいい話だ」
「うん。ただし、取り扱う商品は『人間』だけどね」
「ッ!?」
人身売買。息をのんだレイは現実味のないその単語を連想した。




