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2-13 ヤバ

首を潰し気絶したレイを落とすと

1号にまとわりついた紫の炎が掻き消えた。

自身に起きた変化を吟味するように

1号はその場で立ち止まっていた。

「何なんだ? この嬢ちゃん」

呆然と立ち尽くす1号にどこにでもいそうな平凡な青年、

2号が話しかける。

「2号、もう大丈夫なのか?」

「アア、モウ大丈夫ダ。峠ハ越シタ。3号モ」

心配する1号に2号は平気で嘘を言って返事をした。

「そんなことより」

「ああ。いくら頑丈って言ったって、見ろよ」

壁の隅に転がったレイの頭をつま先で軽く小突く。

()()()()()()

いくら頑丈でも首をつぶされたら

生き物じゃなくても大概死ぬぞ?

どう思う?」

正体不明の女について2号と

いつの間にかレイと並んで寝る3号に意見を求める。

「やっぱりあの紫の炎だな。あんな魔法、見たことがない。

そんなに魔力を使えそうではないし、

根本的に俺たちと何か違う気がする。

あと多分、使いこなせてない」

「3号は?」

「zzz……人間じゃない……zzzzzz」

寝息の中にたった一言だけ曖昧に答えたが、

2人は納得していた。

「なるほどな。人間じゃねえならあり得るな。

まぁ、何かは俺らが分かるわけねえが」

「それでどうする? こんなの俺らの手に余るんじゃないか?」

「そうさなぁ。とりあえずこんなところで

寝かせるのも悪い。場所を変えよう。

あっ!」

「どうした?」

「この嬢ちゃん、女だった。

どうしよ、アニキから女には優しくしろって

言われてるのに寝てる女を素手で触っていいのか?」

容赦なくさんざん殴り続けた男が

今更どう扱うべきか、手をこまねいていた。

2号は呆れて深いため息をつく。

「そんなの決まってるだろ。

起きるまでまた待つんだ」

「そうだな。そうしよう」

そうして眠り続ける3号を含め

三人はまたレイのそばでたむろし始めた。

その部屋に騒ぎを聞きつけた人間が入ってきた。

「テメエら、何しやがった!」

「あ、上官の人」

遊び道具に取り出した小石をしまい、

1号と2号は上官に向いた。

「チワっす。なんかヤベー奴が来たんで

とっ捕まえてました。

今やっと大人しくさせたんで

もう少ししたら縛り上げて連行させます」

敬意のない報告を受けるものの

上官と呼ばれた男の耳には届かなかった。

壁や床、ベッドや商品まで

傷つき破壊された惨状に

上官と後ろに控える男たちまで顔を真っ赤にする。

「限度っーモンがあるだろ、限度が!

ぶっ壊し過ぎなんだよテメエら。弁償しろ!」

「エエ!? だってヤバい相手だったし

仕方ないじゃないっすか」

「ヤバい相手?」

1号の体越しに相手の姿を見る。

暗がりでレイの体をはっきり見えていなかったが

体型から女であることが分かった。

「嘘つくんじゃねえ。ただの女じゃねえか」

「いやいや! ホントにヤバいんすよ」

「うるせえ! だいたいこの町で俺たちに逆らう

女がいるわけねえだろうが!

それに手こずるってんならクビだクビ!」

「そんな無体な」

「お前ら、一階に首輪と手枷、足枷があったろ。

それ取ってこい。ちょっと早いが

変な真似出来ねえようこってり扱いてやる」

鬼の形相で指をポキポキ鳴らしながら

レイへ近づく上官を1号が止める。

「まだ寝てるじゃないッスか。

起きるまで待ちましょうよ」

「うるせえ。邪魔だどけ」

互いに一歩も引かずもみ合っているのを

静観していた2号が背後の気配に気づいて振り返る。

「1号、もういいぞ。

起きた」

ボロボロに打ちのめされた体で立ち上がり、

レイは剣を構えた。


体がひどく重かった。

それでも新しく来た男たちの雰囲気に

危険を感じ、鉛のような足を引きずった。

(マズい。何とかして逃げないと)

使った瞬間に死ぬかもしれない。

それを覚悟して力を込める。

「≪ブレイズオブダークネス≫」

ついに刃こぼれがひどくなった剣だが、

今度はその刃に黒い炎が灯る。

失敗していてもこの技に頼る他になかった。

場を荒らし尽くしドサクサに紛れて逃げる。

その時の事は考えていない。

まず、目の前の障害を取り除く一心で

真っ黒に燃え盛る剣を振った。

しかし、やはり津波のように

敵を押し流す闇の炎の一撃は起きなかった。

代わりに小さい何かが回転し

高い風切り音を鳴らす。

それも掠れて消えていき辺りは静まり返った。

「ヤバ」

誰かが言った。

それに反応できたのはその場にいた数人だけだった。

音の正体は魔力によって

一点に集められた大気の塊だった。

レイとの間にあるそれが集束をやめ、

反動として急速に拡散する。

空気の爆弾が暴発した。

ある者たちはその場に伏せ、他は壁や人を盾にした。

反応に遅れ暴風を受けた人間は

軒並み壁に叩きつけられ、

小窓から落ちる者もいた。

それは発動したレイも被り、

再度ヒビの入った壁に叩きつけられた。

最も近くいた分、受ける暴風の強さは

他の誰よりも強い。

ダメージを受けていた壁の亀裂が広がり、

ついに大きな穴が空いた。

「うわ!」

逃げ道のできた圧力が一気になだれ込み、

レイは建物から数メートル飛ばされ

町に落ちた。



風が収まり、レイの開けた穴から

パラパラと瓦礫がこぼれ落ちる。

「すごっ、逃げちゃった」

「こりゃヒデえ」

建物中、嵐にあったように荒らされ

爆風の()()に吸い込んだ砂で

散らかされていた。

「3号」

「ムニャ、落ちてから動いてない」

部屋の奥でレイを探してすらいない3号が

何故かレイの行動を言い当てる。

「そか。そんじゃまあ追討ちかますか!」

1号は2号と3号を担ぎ、

大穴から飛び出でようとしたその時、

「おい」

と上官から呼び止められた。

「お前ら、ちょっとこっち来い。

教育的指導をしてやるよ」

「「マジですか?」」



3人が男たちに連れ去られどこかに行ったあと、

乱闘があった部屋に一人だけ残っていた。

「なるほど。そういうことだったの」

何かを知ったその人物は

ヒールの高い靴を鳴らして姿を消した。

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