2−09 町人
装備品と宿を探しにレイから離れたノラは
直射日光を避けて路地裏に入っていった。
(さて、どこだったか)
ノラはかつてここに来たときの記憶を頼りに
狭い路地裏を歩き回った。
何年前の記憶か自分でも把握できてはいないが、
建物の配置だけは変わらず迷いなく角を曲がった。
(おや? ここでもない)
目の前の裏通りでガタイの良い客が
やたらと売り主に因縁をつけていた。
そうすることで安く買い叩こうとしているのだが、
売り主も売り主でこれみよがしに棍棒を構えて
客の一言一句に合わせて威圧し、
頑として高すぎる売値を下げなかった。
そこは乱闘の一歩手前で競り合う売買が
当たり前の場所だとノラの記憶には残っていたが、
今は誰ひとりおらず寒々しい風が通り抜ける。
「寂しいものだな」
そう思う度につぶやく自分の言葉に
肩を落として裏通りをとぼとぼ歩いていく。
その後ろを追いかける影があった。
「やっと見つけたぞ、あのガキ。
ってあぁん!?」
追っていたのは顎髭を伸ばした小太りの男だった。
「また見失った。チクショー、どうなってんだ」
「何か困りごとか?」
「いや、だからぁ。俺らでテメーを
捕まえようとしてんのにいつの間にか消えてる
って、お前どこから出てきた!」
追いかけていた相手が突然自分の脇から現れ、
男は驚いて飛び上がった。
「うん?」
「そんなきょとんとした顔をされても。
まぁいいや。こうして捕まえたわけだし」
男はノラの首根っこを掴んで釣り上げる。
その時、被ったフードが落ちて頭に生えた
2本の巻角が露わになった。
「変な被り物してるな」
「被り物ではない。自前だ。
立派だろう? っとと、おい!
引っ張るな。被り物でないと言っているだろうが!」
ノラは角を乱暴に扱われて
頭を上下左右に揺らされる。
「こりゃ良い。角の生えたガキなんて見たことが無え。
気にいる奴は飛びついてくるだろうぜ」
そう言って、別の男が近づく。
男と共に前後の道から仲間があらわれ、
逃げ道が完全に塞がれてしまった。
「おー、いるトコにはいるのだな、人が。
良かった。もうこの町は廃れたのかと心配していた」
「俺が言うのもなんだが、呑気すぎねえか?」
一人の子どもを大人が十人がかりでどこかへ連れて行く。
連れて行かれる当人のノラは人と会えたことに喜んで、
むしろ胸を踊らせて吊り下がっている。
その先にどれほど辛いものが待っているかを
ノラはまだ知らなかった。
「ちょっとそこの。
その子を放してもらえるかしら」
そこに待ったの声がかけられた。




