1-3 定食
(不覚)
レイは朝から腹に何も入れなかった自分を呪いつつ、
自分より年下の男子に手を引かれていた。
「さて。どこが良いか。希望はあるか?」
「じゃあ軽めのメニューで」
なるべく早く別れたくて言った希望だが
食い気味にそれは却下される。
「ダメだ! 育ち盛りなのだからいっぱい食べるのだ!
肉! 肉! 野菜、肉!、野菜一択であろう」
「一択なら最初から聞かないでよ」
「ここなら品揃えも良さそうだ」
と二人はこの町で一番大きな定食屋に着いた。
「店長。二人だ。席は空いているか?」
開けっ放しのドアを潜り店の人を呼ぶ。
「はいよ。見ての通りだ。好きなとこに座ってくれ」
昼時には少し早いため、店に来ていた客は
腰の曲がった老人や配送の途中で休憩する商人で
片手で数える人しかいない。
逆に空席は多く残り、店内が広いだけに物悲しく感じた。
「貸し切りしているみたいだ! 気分が良いな」
「こら。あまりはしゃぐな」
店の中で走ろうとする子どもを
襟首を掴んで引き留める。
二人は人が近づかなさそうな
隅の暗い場所に席を取った。
「ご注文は?」
「特盛だ! 肉主体で量が欲しい。取り敢えず特盛!」
「あ、こっちのは無視して良いですから。
えと、一番安いのを二人分でお願いします。
あまり手持ちがないので」
「ぶー。ごはんはしっかり食べんとダメなのだぞ?」
「はいはい、分かりました。良く噛んで食べようね~」
「ははは。仲がいいね。姉弟かい?」
「違います」
数分と経たず二人の前に
こじんまりとした定食が置かれた。
「我が作ったわけではないが、
召し上がるがよい」
「何? その言い方」
固い安物のパンと
おかずは野草で燻した川魚一匹しかない
期待以上の安っぽい定食だったが
空いた腹にはすごく美味しく感じられた。
「どうだ。旨いか。腹は膨れるか?」
「うん、まぁ。うん?」
返事に満足して笑顔を見せる子どもは
一口も自分の定食を食べていなかった。
「あんたも食べなよ?」
「ん? 何をだ?」
「いや、それ。なんていうかあんた、
礼儀正しい?感じだし。私が食べるまで
待っててくれたのかもしれないけど
もういいんだよ? あんたも食べて」
「これはお主の分だろ。二人分食べるのであろう?」
「食べるかっ! 私が一人、あんたも一人で
二人前頼んだんだよ」
レイはただ勘違いを指摘しただけのつもりだったが
子どもは呆気に取られていた。
「つまり、我に、これを食えと、言うのか?」
「何? 魚が嫌いなの? それとも人様に食わせておいて
自分はこんなもの食べたくないと言うの?」
レイはムッとして剣のある言い方をした。
「ひっく」
そのとき、子どもの顔が大きく崩れた。