1-27 言葉
ノラと隊長が話す間、
レイは二人の視界の外にいた。
この時だけではない。
誰にも見向きされない道端の石ころ。
それがレイの存在だった。
ノラの言葉が今までの生き方を
レイに思い出させた。
『頑張れ』
私はこの言葉が嫌いだ。
故郷の守備隊員を志願して落選の通知を受けたとき、
「でも、頑張ればいつかなれるよ」
と励まされた。
辛かったけどその言葉を励みに私は鍛練と応募を繰り返した。
自分に実力もコネもないのが分かっているから、
足りない分は努力の量で埋めようとした。
しかし、いつだったか落選するより、
その言葉を聞くのが苦しくなった。
『頑張れば夢は叶う』『やれば出来る』
じゃあ、夢が叶ってないのは頑張っていないから?
その先を考えたくなくて、
それまで以上に努力を続けた。
それでも、やはり夢は叶わなかった。
後には何も残らず、時間とお金を浪費した。
やがて気力を使いきって初めて、
努力では実を結べないことがあることを認められた。
そのとき心に浮かんだのは悲しみではなく安心だった。
「そもそも私には無理だっただけで
仕方なかったことだったんだ」
口にすると安心が大きくなってそれまで抱えていた
悔しさや苦しみが消えていくようだった。
それからは他人に流されなくなった。
社交辞令を真に受けなくなったし、
なるようにしかならないとこだわりがなくなった。
私はこれで良いんだと諦められた。
そんな私にノラはしつこくお世辞を言ってきた。
でも私は大丈夫。もうそんなものに騙されたりしない。
「お主は命の恩人だ」
それはどうもご丁寧に。
「お主、本当に良いやつじゃのう」
そうですね、社交辞令をありがとう。
「やはりレイはスゴいな」「レイは謙虚な人間なのだな」
「お主のことが気に入った」
心にもないことをよく言う。
そういうのはもう間に合ってるから黙っててよ。
「こんなところで死なせるわけにはいかない。
レイは、誰よりもすごい人間なのだから!」
嘘だ。私はそんな人間じゃない。
私は期待なんてしない。
おだて上げられて落とされるのはもう耐えられない。
「行く当てはあるのか?」
考えたくもないよ。私にはどうすることもできないのに
未来を考えて何の意味がある。
追ってきた隊長の言う通りだ。
私には価値がない。私はなにもできなかった。
何の役にも立てない人間。
「レイはずっと現実と戦ってきた。
社会に負けたって、なりたいものになれなくったって、
レイはそれでもちゃんと行きようと頑張ってきたんだ!」
沈んだ気持ちに目の前を暗くする
レイの耳にノラの言葉が突き刺さる。
今にも殺されそうな身で他人の評価を
必死になってぶつけている。
昨日会ったお前が私の辛さを
知っているわけがないのに、
どうせ勢いで行ったに決まっているのに、
どうして『それ』を言ったんだ。
それを言われたら私は――。




