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1-25 価値

隊長の爪先に触れるぐらい

頭を下げるノラに

レイは視線を投げた。

(定食屋でのことをもう忘れたの。

そんな真似が通じる相手じゃないでしょ)

謝る定食屋の店長を踏みつけ、

子供相手にも容赦なく暴力を振るう部下を従え、

自身も追い打ちをかける。

そんな輩が今さら土下座程度で

許してくれるはずがない。

それでもノラは隊長に頭を下げ続けた。

「何故か領主どのは我らが気に入らないらしい。

同席して知っている通り、殺すと言われた。

ゆえに昨日はやむなく屋敷に火をつけて逃げたのだが、

こうして隊長殿に追い付かれた以上もう逃げられん。

だが、連れ戻されるのは勘弁願いたい。

どうか見逃してほしい」

「ハッ、なんで俺が言う通りにしなきゃならねえ。

お前ら助けて俺に何の得がある」

「今はない。だがこのレイという人間は

いつかこの借りを何倍にもして返す」

(私!?)

唐突に自分の名前を出されて驚かされた。

「笑わせんな。この女が俺に恩返しをするって?

こいつにどんな価値があるってんだ。

顔が良いわけでもねえ、器量も良さそうじゃねえし、

幸も薄そうなこんな奴が? 一体どう役に立つんだ」

「分からん」

「じゃあ信じられねえな。一体こいつの何を見て

恩を返すって言ったんだ? こんなダメそうな奴を」

「レイは『ダメ』じゃない!

見ず知らずの我を助けることができる人間だ」

「だからどうした。ガキ一人助けるなんて俺だって

何回もやってきた。

なんだったら村一つ救ったことだってある。

そんな俺からすればこいつなんて全っ然大したことない」

「功績の大きさは関係ない。

とっさに他人を助けようとしたことがすごいのだ」

「道徳心があるってか。冗談言うなよ。

そんなの誰でも持ってるもんだ。

目の前に死にかけのガキがいたらそりゃあ誰だってー」

「助けない!」

ノラは隊長の目を強く睨み付け言葉を遮った。

「命令されたわけでもないのに、赤の他人を何故助ける?

誰だってと言うが隊長殿は今まさに

一人の人間を死なせようとしているではないか」

地面に手をつくことはやめず、

頭以外、謝罪の姿勢をとりながら語調が強まっていく。

「文句を言いたいわけではない。

自分の都合で人を助けないことは間違ってはいない。

何よりもまず自分がいて初めて他人を助けられるのだから。

それが普通。人として正しい、それこそ誰でもしている行いだ。

そういう意味ではレイは間違っている。

我が言う事ではないが他人を助けたために

罪をかぶるなど愚の骨頂だ。

だが我は! その愚かさを素晴らしいと思う。

間違いを躊躇わないことは誰にでも出来ることではない。

なまじ知恵を持ったために何もしない凡人を何人も見た。

そういう人間とレイとでは天と地ほどの差がある。

この先、善人になるか悪人になるかも分からない。

だがどちらでもレイは必ず大成する。

魔王の我が殺す人間としてふさわしい存在になってくれる。

だから、こんなところで死なせるわけにはいかない。

レイは、誰よりもすごい人間なのだから!」

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