1-24 人質
「んんっ、うん?」
寝心地の悪い地面のわりに
かなり深く眠っていたらしい。
昨日の疲れはすっかり取れて
晴れやかな気分でレイは目を覚ました。
森の中だというのに
柔らかく木のすき間から指す日が
レイを温めーー
「ッ!?」
青い顔で飛び上がらせた。
「起きたか。昨日はよく眠れたのか?」
膝元にはノラが日光浴をしながら
のんきに何かを縫っていた。
「おはよう」
「おはようじゃないわよ!
起きてたんなら起こしなさいよ」
「え? だがしかし、十分な睡眠を取らんと
十分に力を発揮できんのだろう、人間は」
「何をひよったこと言ってんの!
こっちが寝てたからって、
向こうも寝てたとは限らないでしょうが。
もし夜通し探されてたら
追い付かれるわよ」
「ああ、全くその通りだ」
声とともに背後の茂みから腕が伸び、
レイの首に巻き付いた。
「こっちは徹夜でお前らを探して
もうスゲー眠てえよ。
さっさと連れて寝てえよ!」
固く締め上げる腕に反して
大きなあくびをしながら出てきたのは
領主の守備隊長の男だった。
「ぐっ」
首との間に指を入れてもがくレイだが
自分の倍は太い腕をほどくことはできなかった。
「おらガキ、お前も来い。
こっちは眠てえんだ。余計な真似したら
この女の首をへし折るぞ?」
隊長はさらに締め上げ、
レイの息を絞り出す。
「……ふむ、なるほど」
しばらく間をおいて納得したノラは
荷物を手早く片付け、
言われたまま、足元にひざまずいた。
(バカ。さっさと逃げなさいよ)
そうノラに怒鳴りつけたいが
腕の力が強すぎてもう声すら出せない。
「よーしよし。良い態度だ。
じゃあ一緒に帰ろうか」
「いや、それは出来ない」
「あ?」
怒りとも呆れとも言える顔をする隊長を前に
ノラは地面に手を置く。
「見逃してほしい」
恭しく、丁寧に、
頭を深く下げたのだった。




