1-1 ① VS犬×3
戦うことを決めたレイは今の状況を
簡単に再確認した。
時間は昼過ぎで明るく、急に天気が悪くなるようなこともない。
場所は河原。隠れる場所はなく、周りに人もいないので助けを呼べない。
武器は落ちていた木の棒。この一本をダメにすると他に振り回せるような棒はない。
ただし、小石なら足元にいくらでも転がっているので悪くてもこれで戦えるはずだ。
敵は犬が三匹。大きさは一メートル弱でまぁまぁ筋肉質だ。
しかし、頭がよさそうには見えない。ただの飼い犬のようだ。
味方はいない。自分一人で三匹と戦うことになる。しかも、今は自分に注意を向けられているが、
いつ背後にいる子どもを再び襲い始めるか分からない。
興奮しきった犬がひ弱な子どもを襲ってしまったら
取り返しのつかないことが起きるかもしれない。
どうやら『逃げる』の選択肢はないらしい。
「まっ、なんとかなるでしょ」
《戦闘開始》
先に動いたのは犬側だった。レイから見て右端の犬が単独で飛び出す。
人と比べれば犬の方が初動の速さにアドバンテージがある。だが、
「やっぱりただの犬か」
待ち構えていたレイが犬の側頭部を木の棒で打ち抜いた。
それなりに手加減したつもりだが、芯から打った感触が手に残る。
返り討ちを受けた犬は倒れ、ピクピク痙攣している。
「まずは一匹リタイア」
あっけなく倒したレイは余裕から木の棒をもてあそぶ。
逆に、残り二匹の犬は怯えて逃げだそうとしている。
しかし、途中で犬なりのプライドが勝ち、一層唸りをあげる。
「「ガウッ!」」
微妙にタイミングをずらして襲い掛かる犬たち。
先に飛び出した方の犬をさっきのように
一撃で倒したが後に来る方へはそれをするための
暇がなかった。
「咬まれるぞ」
心配した子どもが後ろから注意するが、
その通りにはならない。
「がっ。がっがっ」
レイは木の棒を突きだし口をふさぐ。
太くて噛みちぎれない棒が口の奥で挟まり、
犬は苦しそうにもがく。
夢中になって前足を器用に使って取り出し、
再戦しようとするがすでに手遅れだった。
「はい。おつかれさまでした」
強めの張り手を顔の横に二、三回食らわせると
最後の犬も動かなくなった。
《戦闘終了》
報酬:子供の安全。動物を傷つけた罪悪感。
動物相手にむきになっている自分の小ささへの呆れ。