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1-17 魔法

そんなことがあって

領主の不興を買い、

危険度がぐっと上がって

しまったわけである。

しかし、全く空気の読めないノラは

さらに領主の怒りを買っていった。

「何を怒っているか分かりませぬが、

こんな悪臭漂う部屋に閉じ籠っていたら

絶対近いうちに体を壊しますよ?

豚小屋の方がましなくらいだ」

「ぶっぶっぶっ豚ぁっ!?」

「それに服も散らかしっぱなしで。

なんだこれ。やけに薄い布だな。

すんすん。うげ、花と一緒に小便の臭いがする。

手触りもカピカピしてるし、

どうすればこうなるのか」

思いっきり嫌な顔をしながら

悪臭の理由を考え込むノラに

一同は口をつぐんだ。

平たく言えば連れてこられた部屋は

領主の寝室だったのだ。

非常にデリケートな話をする訳にもいかず、

怒りに震える領主を除き、

全員そっぽを向いてしまう。

「ぶっひっひっひっ。

いや、やっぱりすぐには殺さん。

じわじわ痛めつけてから殺してやる。

俺様の怖さを思い知らひぇてやる」

拷問を想像して興奮した領主が

舌なめずりをして悪辣な笑みを浮かべる。

「何を怒っているか分かりませぬが、

殺すとは物騒な。

どうやら交渉は失敗してしまった、ようですな」

「「「当たり前だ!」」」

「では不本意ながら逃げることにしよう」

この場の全員のツッコミを流し、

少しだけ丁寧だった口調を直した。

「はぁ? お前、なに言ってーー」

兵士の一人の言葉は目の前の

光景に切られてしまった。

口の中に手を突っ込んだノラが

そこから自分の頭より長い棒を取り出した。

実は頭の後ろから抜いたとか

張りぼてを組みながら動かしているとか、

そんなトリックではなく、

本当に口から吐き出しているのだった。

棒の先端に着いた火が

閉めきった部屋を照らした。

「お前それ、どうするつもりだ?」

「ていっ」

恐る恐る問いかける言葉に

行動で答えた。

「チクショウ! 投げやがった!」

「このガキ! 放火するつもりだ!」

でたらめに投げた松明が床を焦がす。

兵士が二人がかりで鎮火するが、

「まだまだあるぞ。そりゃっ! えいっ!」

と両手いっぱいの松明をばらまく。

燃え移ってはいないが、

部屋の温度が上がり煙が充満していく。

領主がベッドの上を転がりながら隅で震えていたり、

兵士が鎮火に躍起になっていたり、

無尽蔵と思えるほど吐き出す松明をノラが投げていたりと

状況はひどく混乱していた。

そこへ、業を煮やした兵士の一人が構えた。

「ふざけやがってクソガキが! まとめて消してやる!」

「バカ野郎、それがヤツの狙い――」

『ずぶ濡れになりな! ブルースフィア!』

突き出した手の前に水の球体が出現した。

表面を激しく波立つ球体は兵士の掛け声で

四方八方に飛び散り、火種をことごとく消した。

しかし、その時にできた煙や水蒸気が充満し、

視界を奪われる、

「うむ。火事にはならなさそうだな! それでは我らはーー」

「逃げるわよ!」

今まで静観していたレイは

ノラを脇に抱え、真後ろにあるはずの

出口に走る。

煙を抜け、抱えるノラを走りながら背負い直す。

「正門は無理だ、警備が固い。

逃げ道まで案内する。そこを左だ!」

「自信満々に言うけど、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「他に当てがあるならそちらへ行くが、

ないならまずは向かおう」

「それしかないか」

なかば自棄になってレイは

屋敷のなかを走っていく。

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