1-16 スキル
時は少し遡り、
牢から出された二人は
領主の前に突き出される事になった。
「女子どもとは言え
枷をつけていない犯罪者を歩かせるとは。
ここの者は皆、ずいぶん剛毅だな」
「(馬鹿。そうじゃないわよ)」
実情を知らないノラに小声で説明する。
「(下手に騒がないでよ?
適当な理由をつけて襲われるわよ)」
「(何故だ)」
「(試し撃ちをするためよ)」
空気に漂う魔素という物質に干渉し、
超常を引き起こす神秘の力、≪魔法≫。
そして体内のマナを一時的に
高速循環させて発動する≪スキル≫。
用途は様々で特に戦闘で使われる魔法は
高い威力のものが多い。
ただそれだけに使うには
厳しい制限が下りている。
(ただ。逃亡を阻止するためとか
それらしい理由さえあれば
何のお咎めもなく撃てるんだけどね)
それをわざわざ説明しても
どうせ分からないと思って、
レイは黙って歩き続けた。
「泥棒を連れてきました」
「入れ」
兵士の呼びかけに
正面の部屋から返事がくる。
鬱屈となる気持ちが強くなり、
顔を下げたとき、
「口だけは笑った方がいい」
と自分に向けられた言葉に気づき
ノラを見下ろす。
「経験則だがな。交渉は会う瞬間から勝負だ。
ぎこちなくとも気に入られる努力を
見せれば大抵悪いことはされん」
ぺちぺちと自分の両頬を手で持ち上げ、
笑顔を作る。
「なに。我に任せよ。
≪スキル≫とまでは言えぬが
人に媚び諂うことは数少ない特技の一つだ。
我の右に出るものはいないと自負している」
「それはそれで情けないなぁ」
「さぁ、行くとしよう!」
自信満々に部屋に飛び込む。
「失礼いたしまうっわっ、臭っ!」
自称、交渉の達人の第一声で
確かに会った瞬間に勝負が決まった。




