1-14 魔王
魔王。それは魔獣、魔物を統率し、
人間を苦しめる元凶の頂点。
強靭な肉体と魔法の神髄を備えながら
悪逆非道の限りを尽くす災厄。
それが目の前のちんちくりんな子どもなどと
誰が信じるのだろうか。
「魔王なら三年前に死んだわよ」
「知っている。だが、それは本物ではない。
この姿から信じられないのも無理はないが
我こそが本物の魔王なのだ」
「やっぱり信じられない」
「さらにもうひとつ途方もないことを言うが
確かに我は一度死んだが、
それはもっとずっと前のことだ。
そして死ぬ直前に転生魔法を使い、
今から五十年前のこの世に生を受けたのだ」
「転生魔法……」
「やはりこれも信じられんか」
「うん、無理」
魔王。転生。カッコいい字面が並んべられたせいで
余計に信ぴょう性が薄くなる話にレイは即答した。
しかし、この子どもノラがただの人間ではないと
割切れもしなかった。
「その角、触っていい?」
「良いぞ」
恐る恐る異形な角に触り感触を確かめる。
「本物だ。刺さったとかじゃなくて本当に
頭から生えてる。気持ち悪っ」
「他人の容姿に悪口を言うものではな、あっ!
そこ触るのはやめてくれぬか。痛むのだ」
「ごめん」
ノラが痛がったため、
真ん中くらいから折れてなくなった左の角から手を引いた。
「まぁそういうわけで我は人間ではないので、
常識とやらはさっぱり分からん。目下勉強中だ」
「勉強?」
「そう。勉強だ」
自信たっぷりにその小さい胸を張って答えた。




