1-11 捕物
店長の震えが大きくなる。
「何を言ってるんだ。違う。
俺はやってない」
「やった奴はみんなそう言う。
お前が犯人だ。俺の長年の経験がそう言ってるんだ」
「勘弁してくれよ。なんだよそれ!
何の証拠もねえじゃねえか!」
「おや?」
口調も忘れて憤る店長に対して
男はおどけ続ける。
「聞いたかお前ら。証拠を出せってよ。
犯人のテンプレ発言だ」
「ふざけんな! こんな横暴認められるか!」
「なら犯人じゃないって言うお前が正しいのか?
なぁ、『寂れた店の一料理人』と
『何年も現場で活躍してきた守備隊長』、
どっちを信じる?」
「そりゃ守備隊長ですよ。当たり前じゃないですか」
「わざわざ聞かないで下さいよ」
「そりゃそうだ」
身内だけで採決して大笑いする三人。
彼らをよそに部外者のレイが
音を立てないように子どもを避難させる。
「なんだ? どうなっておるのだ、今の状況は」
「あの店長さんが盗みをしたってことにして
捕まえようとしてるの」
「何? 本当に盗んでいたのか?」
「だからそういう事にしてるだけ。
濡れ衣よ、濡れ衣」
「濡れ衣。なるほど、そういうことであれば仕方あるまい」
子どもは立ち上がり体に着いた汚れをはたき落とす。
「衛兵のお三方。少し待っていただきたい」
「あん?」
「ちょっと。せっかく隠れてたのに」
おそらく忘れられていただろうに、子どもは自分から男たちに姿を見せた。
これ以上悪いことは起きないと思うが、
どうにもこの子どもは常識を知らないみたいで、
レイははらはらさせられていた。
「その御仁はお主らの追う者ではない」
「ずいぶん偉そうな口をきくな、ガキ」
「昨夜の盗みは我がした」
「「あぁん!?」」
若い男二人が子どもの衝撃発言に目をむく。
「ははは。何言ってんだガキ。
もしかして一丁前に庇おうってのか?」
「まぁ、その気概は買ってやるが、ちょっと無理があるだろ。
お前みたいなガキなんかに出来るかよ」
若い男たちに笑われ子どもは
不機嫌そうに口を尖らせる。
「だっ、だが。昨夜、屋敷にいなければ
知らぬ事を言えるぞ?」
「ほお、それなら何か言ってみろよ」
「お主ら二人は昨日、そこの守備隊長殿に賭け事で負けて
財布を空にしただろう」
それを聞いた途端、若い男二人が人が変わったように
笑うのをやめ、険しい顔をする。
その後ろから守備隊長が話に割り込んできた。
「おうおう坊主。その話、誰から聞いた」
「聞いておらん。見ておった」
「バカ言うなよ。そんなもの見れるわけないだろ」
「窓のない一本道だったし曲がり角手前に見張りも立たせていたから、
そう思われるのは仕方ないが、この目で確かに見たぞ?
転がした酒瓶の本数まで覚えておる」
自信たっぷりに答える子どもに守備隊長は
自分のあごの先をなぞる。
「なるほど。俺たちが勤務中に酒を飲んでいたとか
賭けで遊んでいたとか。
でたらめなことを言ってるくれるな」
守備隊長はあくまで子供のいう事を信じず、笑みを浮かべていた。
「だが、俺の感がこいつは怪しいって言っている。
重要参考人だ、連れていけ」
首で指示を出された二人は捕まえた店長を放し、
片方が子供の首元を雑につかみ、吊り下げる。
「ぼうっ、げほっ、げほっ」
引き止めようと声をかける店長だったが、
解放されたばかりでせき込んだ。
そんな店長に振り返り何でもないように
明るく答えた。
「心配めさるな。少し話をするだけだ。馳走になった、感謝する」
それだけ言って、男たちに連れられてしまった。




