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プロローグ

君知るや南の国


レモンの木は花咲き くらき林の中に


こがね色したる柑子は枝もたわわに実り


青き晴れたる空より しづやかに風吹き


ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く


雲にそびえて立てる国や 彼方へ


君とともに ゆかまし


ゲーテ著 森鴎外訳 『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』より


















1942年3月25日 北アフリカ沿岸


 日中は焼けるような灼熱のもとにあったのだが、夜風は意外にも冷たかった。空はすっきりと晴れ渡っており、今宵は新月で月こそ浮かんではいなかったが、その代わりに満天の星空が輝いていた。そのために、水平線の向こうまでがくっきりと浮かんで見えた。波も穏やかで、周囲の視界もしっかりとよく見渡せる。通常の航海ならば良好そのものなコンディションだった。しかし、そうであるが故に却って好ましいといえない状況でもあるといえた。今、現在この瞬間においては・・・だが


(参ったな・・・)


 メリッサ・ピオジェーラ少佐は紅と翠色の瞳に憂いを含んだ色を浮かべ、ふぅとため息をついた。


(どうぞ見つけてくださいと言っているようなものね・・・)


 そんなことを考えながら、闇に溶け込むような紺色のイタリア海軍の士官服に身を包んだ彼女は金色の髪を払うと、目を細め、双眼鏡を構えた。その先には、黒々とした長い陸地が地平線の先にまで広がっているのが見えた。


「奇襲に、成功したということか?」


第二戦艦戦隊司令官のトスカーノ少将はスポーツマンを思わせる長身で、がっちりとした体つきに武骨な顔という精悍な姿をしていたが、その瞳には明らかに不安そうな色を浮かべていた。

それに対して、艦長のエンリコ・バローニ大佐はトスカーニとは対照的なやや小柄で角ばった顔立ちと恰幅のいい腹を揺らしながら言った。


「現在、見張りからは何もありませんが・・・管制長、周囲に異常はあるか?」


「今のところ、レーダーにもそのような兆候は表れておりません。」


 不意にこちらに振ってきたバローニの問いに、メリッサは淀みなく応えた。その言葉にトスカーノはどこか安心したような表情を暗闇の中で浮かべたように見えた。


 まぁ、無理もないことだと彼女は思った。


 彼女たちのいる場所は戦艦の艦橋。その戦艦の名は『アマルフィ』といった。

 イタリア中部の、かつてヴェネチアやジェノヴァと並ぶ海洋都市国家であったこともある都市の名を冠したこの戦艦の艦橋内は、静かな緊張感に満ちていた。

 それもそのはず、今この時、アマルフィは敵の制海空権下の真っただ中ともいうべき海域にいた。あと数時間も走れば、敵艦隊の根拠地があるというほどの至近距離である。いつ敵が襲来しても全くおかしくない。そんな所なのだ。

 ましてや、イタリア海軍は元来日本海軍などとは違って夜間での戦闘に対して十分な訓練を行っているわけではない。レーダーだってようやく本格的な試作が始まったばかりであり、アマルフィに積んであるそれだって、しょっちゅう故障する厄介な代物で、とてもではないが実戦で使うことはできないものだった。そんな状態で敵と相対したら・・・正直、悪夢である。


 だが、その緊張も間もなく終わるはずだ・・・なぜならば・・・


 そこまでメリッサが考えていたところで、突然、陸地から一筋の光が打ちあがり、夜空をまばゆく照らした。


「・・・時間だな、艦長」


トスカーノのことばに、バローニはニヤリと笑みを浮かべると、高声電話を手にとった。


「艦長より射撃指揮所へ、用意はできているか?」


返答はただ一言だったらしい。ほんの数秒で電話を切るとバレーロは満面の笑みを浮かべた。


「司令、アマルフィは射撃準備を完了しております!」


バレーロが報告した直後―


「アンドレア・ドリアより発光信号!『射撃準備ヨシ』です!」


という見張り員の報告が届いた。

その言葉に、トスカーノは漸く心から安心したような表情を浮かべると、すぐわきに控えている通信参謀に命令を出した。


「ドリアに通信、これより30秒後に射撃を開始。第2戦艦戦隊各艦は、照準を開始せよ。だ!」


「了解!アマルフィも照準を開始します!」


バローニの命令とともに、アマルフィは前後に二基ずつある巨大な主砲塔をゆっくりと旋回させ始めた。


その様子を見やりながら、メリッサはぼんやりと思った。




















・・・なんで私はこんなところでこんなことをしなきゃいけないんだ?





 



 


 






はい、拙著をを読みになられた方はお久しぶりです。そうでない方は、はじめまして。

・・・すいません、別府造船のほうはもう少しお待ちになってください。


どうも、暗闘が上手く書けなくて・・・気分転換というかリハビリというかそんな感じです。今回はイタリアが主人公だったりします。戦艦同士の殴り合いとか百合とかあと強いイタリア海軍が書きたくなりまして・・・資料とか漁ってたらなんかこんな感じになりました。

以前にも活動報告か何かで書いたことがあるかもしれませんが、私は結構イタリア海軍とかが大好きです。特に、カイオ・ドゥイリオ級(改装後)ですね。ヴェネト級のような灯台っぽい艦橋にバランスの取れた砲塔配置…私が一番好きな戦艦だったりします。(時点がヴァンガード。同率二位で扶桑)


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