DEAR MY FRIEND(親愛なる友)
前回のあらすじ。
色々と三人でバンドでイメトレとか、バンドの名前なんかも考え、事が進んでいる。
ふと、思い出して私は奈々瀬と初めて会った時の夢を見て思いにふけっていた。
奈々瀬が転校してきて、魅力的な奈々瀬に周りの生徒達は奈々瀬にお近づきになりたいと思っていたが、奈々瀬は誰も寄せ付けず、それが火種になり、周りから非難され、いじめの的になってしまった。
気丈に振る舞っていた奈々瀬も精神的にも限界になってきて奈々瀬は・・・・。
精神的に追いつめられている奈々瀬を遠くから見て私はやるせない気持ちでいた。
そんな時である、ある女子が、
「みんなの給食費、どこ行ったかみんな知らない?」
大声でみんなに伝える。そしてもう一人の女子が、
「とりあえず、みんなを疑う訳じゃないけど、机の中を調べさせてくれるかな?」
その時、二人の女子のもくろみが読めた。
昨日の放課後に奈々瀬の机に何かを入れていたのを。
二人は奈々瀬をはめるつもりだ。
私には関係ないと思っていた。
でもこのままで良いのか。
これで奈々瀬が汚名を着せられたら、奈々瀬はおかしくなってしまうだろう。
二人の女子は一人一人の机を確認して回っている。
奈々瀬は机に突っ伏して黙っている。
そして奈々瀬の番になった時、私は心臓をつぶされるかのような心境になり、目を閉じ黙っていた。
そして・・・。
奈々瀬の机には給食費はおろか、筆記用具や必需品しか出てこなかった。
二人の女子はおかしいと言わんばかりに、しらみつぶしに探したが、給食費は出てこなかった。
「もういい?」
奈々瀬はやつれた顔で言う。
二人の女子は『給食費は奈々瀬の机の中に入れておいたはずなのに』と言わんばかりにおどおどしていた。
その後、給食費は行方が分からなくなり、二人の女子は給食費をなくした事に、先生にこっぴどく叱られたらしい。
とにかく奈々瀬が叱られなかった事に私は人知れず安堵の吐息を漏らしていた。
奈々瀬は周りから、非難されながらも、気丈にやり過ごしている姿に私は陰で応援していたのだ。
そんなある日の放課後、下駄箱で女子二人が奈々瀬にたかっていじめているのを私と琴美は目撃した。
琴美はほおって置くしかないと思っていたが、私はその様子をしばらく見ていた。
奈々瀬は蹴られたり、叩かれたりと、まるでサウンドバックのような状態だが、目は死んでおらず、ギラリと輝き、屈していない。
二人はそんな奈々瀬に気に入らないらしく、暴力はエスカレートして、私は見ていて、本当に痛々しかったし、このままで良いのかと見ているだけの臆病な自分が嫌になり、何を血迷ったのか、私は奈々瀬をいじめる二人に果敢にも飛びかかっていった。
「やめなさいよあんた達」
一人の女子に体当たりして、女子は吹っ飛んでいった。
私の親友の琴美も私に続くようにもう一人の女子を突き飛ばした。
二人はその場でよつんばになって泣いていた。
「大丈夫奈々瀬さん」
これが私と奈々瀬との初めての会話だった。
奈々瀬は黙って私にその鋭い視線を向けて、私は凍り付くほどの気持ちにさらされた。
私はいたたまれなくなったとは言え、奈々瀬さんに対して余計な事をしてしまったんじゃないかと思った。
だが奈々瀬はその瞳から大粒の涙が頬を伝い、これが奈々瀬の今まで一度きりしか見たことのない涙だった。
そして奈々瀬は泣きながら言った。
「ありがとう」
と。
つられて私も泣いてしまった。
これがきっかけで私たちは友達になった。
ちなみにあの給食費、実を言うと奈々瀬は気がついていて、下着の中に隠して、見つからないようにしたんだ。
それでその給食費を二人のランドセルに半分ずつ、お金を振り分けて入れて、二人は非難の的になり、学校にいられなくなり、二人そろって転校してしまった。
奈々瀬は強くて優しいが、とてつもなく腹黒いところがあり、たまにそんな奈々瀬が怖くなるときもあったが、でも私はそんな奈々瀬が好きだし、密かにあこがれたりもしている。
・・・奈々瀬と出会ったころの夢を見て和み、思えば最近なぜか昔の夢を見る。
でも悪い夢じゃないから良いかな。
時計を見ると、午前四時を示している。
私はいつものようにギターの練習をして、朝ご飯を食べて、心地よいシャワーを浴びて、鞄に教科書レポートの課題を入れ、そして私の相棒のエレキギターを抱えて喫茶店に向かった。
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喫茶店に到着して鍵がかかっておらず、そのまま中に入ると、奈々瀬がさわやかにほころんだ表情でキーボードを優雅な旋律で奏でていた。
私はその姿にみとれてしまった。
奈々瀬は私が来たことに気がついていなくて、その奈々瀬が奏でる旋律は美しい物語を思い起こされる感じで私の心を奪う。
私もギターで奈々瀬のキーボードに負けないくらいの旋律を奏で、人を魅了出来るような演奏が出来たら良いと意欲が高まる。
奈々瀬のキーボードの旋律で店内はまるで、素敵な物語に出てくるような空間に思えて、私はその物語の主人公と言う勝手な設定をしてしまう。
そんな恍惚とした気持ちで聞いていると、いきなり音色が止まり、その瞬間、なぜか夢から覚めたような心境に陥る。
「あら、盟来ていたの?」
「あっ、うん。おはよう」
「おはよう」
「せっかくだから私と奈々瀬でセッションしない?」
奈々瀬はOKと言う事で私と奈々瀬は音を合わせた。
奈々瀬の美しい旋律と私の軽快なギターサウンド。
弾いていて私は心地よかった。
そう思うと私は奈々瀬と出会って良かったと思った。
出なければ私はこんな気持ちにはなれなかった。
しばらく奈々瀬とセッションしていると、いつの間にかドラムの音が刻まれ、琴美が密かに来てそのドラムの演奏に会わせてきたみたいだ。
すごく気持ちが良い。
私たちはしばらくセッションした。
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そろそろ下拵えの時間に私たち三人は、三人の迷魂が来店するのを迎えなくてはいけない。
サタ子おばあちゃんにカノンちゃん、そして鈴が順に来店して、私たちのバンドメンバーがここに集結する。
主に今日やる事はいつものレポートと、奈々瀬が持ってきたベースギターを鈴に練習させる事だ。
鈴は相変わらず、好きなことに没頭すると周りが見えなくなり、その集中力は計り知れない。
カノンちゃんはいつものように琴美と、今日は何やら、二人で鈴の影響を受けて絵を描いていた。
サタ子おばあちゃんと奈々瀬は小説の話題で盛り上がっていた。
私は私でギターの自主トレをしている。
もっとうまくなって、大勢の観客の前で演奏したい事を夢を見て。
そして時間は時々刻々と過ぎていき、今日という日が終わろうとした時、私達は毎日の仕事の締めくくりとなった恒例の演奏を始める。
ドラムの琴美とタンバリンのカノンは準備OK。キーボードの奈々瀬も準備万端。ギターアンドボーカルの私も準備万端。サタ子おばあちゃんもビデオカメラもスタンバイOKって感じだ。
鈴はまだ音を合わせるのは、ほど遠いと思うので今日のところは見学と言った所だ。
「じゃあ、行くよ」
ドラムの琴美に演奏の合図を送る。
私たち一丸となった演奏を奏でる。
今日の演奏は鈴の為の演奏だ。
DEAR MY FRIEND
作詞 盟 作曲 奈々瀬
これは鈴の為に作った歌だ。
曲名であるDEAR MY FRIENDの意味は『親愛なる友』と言う。
この歌を作った時、様々な悔やみがたい感情がわき起こった。
歌詞を書くのは私の役目で、いつも楽しく描いているが、今回は書いている時、正直つらかった。
琴美は鈴を歓迎してあげようと明るく振る舞っていた。奈々瀬も同様。
でもこの歌詞を書いている時、私は鈴に心の中で何度謝ったか分からなかった。
そして奈々瀬が曲を作り、三人で曲をまとめる時、琴美は楽しそうにいつものように取り組んでいたが、奈々瀬は何度か辛い感情を垣間見せた。
でも歌が出来上がった時、いつもの爽快な気分は変わらなかった。
それにこの歌には琴美の言う通り、鈴を大歓迎してあげようと明るくポップな感じに仕上がっている。
この歌を聴いている鈴は、表情を綻ばせ、気持ちよさそうに聞いている。
歌が終わり、鈴は笑顔で涙を流して言った。
「ありがとう。みんな」
とにかく鈴が喜んでくれた事に私たちは感無量と言ったところだ。
店は閉店になり、私たちはいつものように三人で一緒に帰った。
琴美が今日サタ子おばあちゃんが撮ってくれた動画を見て、私も横から見ていた。
自分たちで作った歌だけど、今回は自画自賛ではなかった。
それは鈴の為に作り、その鈴が喜んでくれたからだ。
それはともかく、私はふと考えてしまう。
迷魂とはいったい何だろうと?
楽観的な琴美は今が最高に幸せだから良いと言っている。でも私と奈々瀬はやはりこのままにしておくと、何かとんでもない事が起こりそうで怖かった。
いったいあの店は何だろう。
でもこのままではいけないとは思っても、店が終わり、みんなと別れるとネガティブになってしまう。
今日も私を蔑ろにする家族に『ただいま』の挨拶をしないといけないんだな。
しなければ何を言われるか分からないし、すれば冷たい視線を向けられ心が凍り付くほどの悲しさに包まれる。
家に帰り、家族は今日は平日なのでいる。
恐る恐る挨拶を交わして、冷たい視線を向けられたが、今日は何も感じなかった。
私の中で何か心が強くなったのかな?
それはともかく帰ったら私は何もやる気が起きず、ベットの上で仰向けになり、そのまま一人でカロリーメイトをかじっていた。
奈々瀬は迷魂の事を何とかしないといけないと思っているし。でも琴美の言う通り、今が楽しければそれで良い。私の考えは琴美と奈々瀬の意見を二つに割ったところにいる。
つまり、琴美と奈々瀬の意見もどっちが良いのかわからない。
でもオーナーが帰ってくるのは後一ヶ月、それまでに何か分からないけど、何とかしないといけない気がするが、焦っても仕方がない。でも何とかしなくてはいけない。頭がこんがらがってどうすれば良いのか迷っていると、いらだちが生じてくる。
このような時は深呼吸をして気持ちをリラックスさせないと。
それで考えがまとまった結果、私はとりあえず、今度またオーナーからの電話を待とうと思う。
それを明日奈々瀬にも琴美にも伝えて、これからの事を話し合っていきたい。
そう。私には明日がある。
朝起きれば、今日は雨が降っている。
時計は午前四時を示し、少し億劫だが、いつもやる事はやるように自分の気持ちと体に鞭を打つようにギターの練習して、朝ご飯を食べてシャワーを浴びて、ラフな服装に着替えて、私は勤め先の喫茶店へと出かける。
喫茶店に到着して、今日は私が一番乗りだ。
誰もいない喫茶店。
一時間後のこの空間を想像して、きっとにぎやかになるのだと、気持ちを膨らませたが、やはり、迷魂の事がネックで、そういう黄色い気持ちに染まりきる事はなかった。
とりあえず喉が乾いたのでお水を一杯貰おうと、台所の浄水器の蛇口をひねり、水を飲んだら、気持ちも体もリフレッシュした。
今日は雨だというのに蒸し暑く、額に汗がにじみ出ている。
とりあえずクーラーをつけて、客席のソファーにドカッと座ってみんなを待つことにする。
とにかくこの問題は私だけのものじゃなくて、奈々瀬にも琴美にも関わっているので一人で悩まずに、打ち明けたい。
早速ドアが開く音がして、「おはよう」と奈々瀬の声だ。
「奈々瀬おはよう」
今日最初に出会った友達である、奈々瀬に私の迷魂に対する気持ちを伝えた。
奈々瀬と話し合ったところ、とにかく次にオーナーの連絡が来るのを待つか、それか一ヶ月過ぎても、オーナーもしくは、迷魂がこのままだったら、またその時考えようと。
奈々瀬に相談して私の頭はすっきりして、良かったと思っている。
「盟、気持ちが大分落ち着いたみたいね」
向かい側の席で頬杖をつきながら、穏やかに微笑み、私を見つめる奈々瀬。
「確かにね。これは私一人だけの問題じゃないし、奈々瀬でも琴美でも相談して、気持ちを楽にしたかったのかな」
「まあ、とりあえず一ヶ月」
奈々瀬は私がもてなした水を一口飲んで楽しそうに微笑み、私も先ほどネックになっていた悩み事が払拭されて、気持ちが喜びを表す黄色に染まり心がときめいた。
そして琴美が来て、迷魂であるサタ子おばあちゃん、カノンちゃん、鈴が来て、店はにぎやかになり、とにかく後一ヶ月思い切り、この店で楽しもうと生き込む私たちであった。