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また逢えるその日まで  作者: 柴田盟
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イメージトレーニング

 前回のあらすじ。


 鈴が迷魂として現れる事を予期していた奈々瀬と私は、本当に鈴は迷魂として店にやってきた。


 鈴に対する罪悪感でいっぱいだったので、私はどう対応して良いか困惑したが、私達は鈴を私達のバンドの演奏で盛大に歓迎して、そして鈴も私達のバンドのメンバーとして迎え入れた。


 これで私たちのバンドのメンバーは五人になり、さらにサタ子おばあちゃんも裏方として加わっているので六人か。

 今日は週末で、店はお休みで、私たち三人は通信制の高校に通っているために、週末はスクーリングという学校に行かなければならない。


 平日の月~金までは店で働き、土日は学校が指定するスクーリングだ。


 授業は退屈なものだが、出席しないと単位が取れなくなり卒業できなくなるからな。


 まあいつも私たちは渋々だが、授業中に私はバンド名を考える事で頭がいっぱいだった。


 先公の話なんて上の空。


 それに先生もやる気のない感じだし、周りの生徒もみんなやる気がない。


 授業中なのに、友達同士で笑いながら語り合っている者や、机を寄せ合って花札なんかを興じている者もいる。


 本当にやりたい放題だ。


 それに頭は茶髪や金髪、ピアスや、ひどいのは顔面にピアスだらけの女子もしくは男子などがちらほらといる。


 まあ顔面ピアスはやりすぎだけど、頭を茶色く染めるくらいは良いかなと思ったり、耳たぶにちょこんとピアスをつけたいなんて、思ったりと好奇心が芽生えてくる。


 私はバンドでデビューするのが夢だから、カッコつけて何が悪いって誰も言っていない。


 隣に奈々瀬がいて、


「ちょっと盟、まじめに聞きなさいよ」


 小声で注意され、本当に奈々瀬はまじめだなと言われた通り、視線を先生が書き記している黒板に目を向けた。


 ちなみに今は英語の時間だ。


 その内容は中学のおさらいで私でも簡単に解ける問題だ。


 拍子抜けしてしまうが、奈々瀬の言う通りまじめに受けよう。


 ちなみに私の後ろにいる琴美は、ノートに何か書いている。


 何を書いているんだと気になって見ようとすると、奈々瀬が私の頭をひっぱだいた。


「ちょ、何をするのよ」


「まじめにやりなさいよ」


「だって琴美が・・・」


「琴美が」


 と言って奈々瀬は琴美が書いているノートを見る。









 午前中の授業が終わって私たちは屋上で昼食をとる。


「あんた達真剣身がなさ過ぎだよ。盟はぼんやりして、琴美は訳の分からない絵なんか書いて」


「訳が分からないなんて失礼だよ奈々瀬ちゃん。鈴ちゃんにうちも影響を受けて絵を描こうと躍起になっているのに」


「それを授業中にやってどうするの?」


 怒気を込めた奈々瀬の言葉に、確かに奈々瀬の言っていることは正論であり、この場合はやはり琴美が悪いだろう。


 それはともかく私は、


「まあ良いじゃん。学校に来る連中もやる気のない連中ばかりだし、先生もやる気がない」


「だからってだらだらしてたらダメでしょ」


「だらだらねえ」


 何か過去の事を思い出し卑屈になってしまう。


 実を言うと私たちは中学校の時、それぞれ受験に備えて、進路を決め目標に向かってちゃんと勉強していたんだよな。


 それで試験当日、何が気に入らないのか分からないが私たち三人を蔑ろにする連中に、倉庫に閉じこめられてしまったんだよな。


 それで試験が受けられなくなり、私たちの今までの努力が水の泡になってしまった。


 そうだったんだ。私たちは中学に入ってからも同じようにいじめられたんだな。


 いったい私たちが何をしたんだよ。


 まあ、とにかくそんなつまらない事を考えても仕方がない。私たちはつまらない過去の事など忘れて、とにかく今を楽しもうと躍起になるしかないな。


 私達は周りとはなじめない者同士の集まり。


 それはそれで良いと思う。


 午後も同じように退屈な授業だが、まじめな奈々瀬がちゃんとやれと言われて、渋々だが、聞いていたが、つまらない事ってすぐに忘れる。



 スクーリングが終わって、とりあえず最寄りの駅で三人でお茶をしていた。


 何でここにギターがないんだろう。


 今すぐにここでギターを弾きたい。


「何そわそわしているの盟」


「今、すごくギターが弾きたい気分でさ」


「うちはいつでも練習できるからね」


 ドラムの琴美はイメージトレーニングする事が出来るがギターは現物がないと難しい。


「面白いねあんた達」


 それよりも私は、


「ところでバンド名考えた?」


「適当でいいんじゃないの」


「ダメだよ奈々瀬、適当なんて。こう名前を聞いただけでこう熱くなるようなかっこいいのが良いよ」


「あんたは充分に熱いよ」


「琴美は何か考えた?」


「下町喫茶何てどう?」


 名前を聞いただけでテンションが下がりそうだった。


「二人ともちゃんと考えてよ」


「じゃあ、そういう盟は考えたの?」


「考えたけど、こうぐっと熱くなるようなものが思い浮かばないんだよね」


「そういう時は無理に考えようとしない方が良いね」


 確かに奈々瀬の言うとおりだった。


 名前かあ、簡単なようで難しい。



 会話がなくなり、雰囲気的にお開き的な感じがして、嫌な気持ちに染まった。


「そろそろお開きだね」


 奈々瀬がそういったら、私たちの中では暗黙の了解だった。


 時計を見ると、午後十七時を回ったところだ。


 私は週末、家に帰りたくないしいたくもない。


 もう少し三人でお茶していたかった。


 会話がなくても良いから、少しでも一緒にいたかったが、終わりというものは当たり前のようにやってくるものだから仕方がない。


 どうせだったら奈々瀬か琴美の家に泊めて貰おうなんて考えたが、迷惑になりそうだからやめておいた。



 帰り、奈々瀬と琴美と私でたわいもない世間話をしながら帰った。


 電車の中で私達はバカみたいに笑ってはしゃいでいた。


 いつまでもこうしていたい。


 家に帰れば、思い出したくないような連中と同じ空間の中で一緒にいなくてはいけないのだ。


 そんな二人にバカみたいにはしゃいで笑っていたが、私のこの気持ちに気づいて欲しいと言う思いも生じている。


 だったら、つまらないスクーリングの授業がずっと続いていればいいのだと考えたが、これは本当に仕方がない。


 帰ろう。


「じゃあね。奈々瀬。また明日」


「うん」


 一人になってしまった。


 また明日になればスクーリングがあるから逢える。


 でも週末だけは家にいたくない。


 とにかく私は覚悟を決めて帰るしかなかった。自宅に到着して、私を除いた家族団らんの会話が響いてくる。


 そこで私の中で声になって聞こえてくる。


「邪魔をするな」「あっちへ行け」「生きていて恥ずかしくないの?」

 等々。心壊れそうな言葉が心に木霊しながらも、私の帰るところはここしかないのだ。


 だから私は覚悟を決め、中に入っていった。


 中に入ると私の事なんて目もくれず、姉さんのアイドルの話題で盛り上がっていた。


 ここで私は言いたくないが言わなければ後で何をされるか分からないので言っておく。


「ただいま」


 と。


 だが家族は私を冷たい目で見つめて、シカトされてたまらなく苦痛だった。


 週末のこの瞬間がたまらなく嫌だった。


 部屋の中で私は布団にくるまりながら、苛んでいた。


 でも明日になれば奈々瀬と琴美に会える。そしてその次の日には、おばあちゃんとカノンちゃんそれに新しく冥界から来た鈴と会って、私たちのバンドの打ち合わせをするんだ。そうだよ。悲しみはそう長くは続かない。


 そう自分に言い聞かせる。


 でも二階の私の部屋まで、悪魔のささやきのように、会話が聞こえてくる。


 我慢するしかなかった。 


 私はヘッドホンを装着してボリュームを全開にして、何も聞こえないようにした。


 すごく気が紛れる。


 週末の過ごし方の対処法を一つ見つけ、気持ちが楽になった。



 朝起きた時、耳が遠くなった感じがしてちょっと気持ち悪かった。


 時計は午前五時を示している。


 家族は早起きしてこないから今のうちに、部屋でギターの練習したりと出かける準備に取りかかる。


 今日もスクーリングだ。


 退屈な授業を受けることになるが、家にいるよりかはマシだ。


 それに今日は私の相棒のギターも持っている。


 これで弾きたい時にいつでも弾ける。


 退屈な授業を受けて、お昼休みを迎える。


 お昼休み、私は屋上でギターを弾きながら食べる。


「あんた本当にギターを弾くことが好きなんだね」


「私はこいつ(ギター)と契りを結んだからね」


「バカバカしい」


 笑う奈々瀬。


「何がおかしいのよ」


「バカバカしいからバカバカしいって笑ったのよ」


 呆れたように雲行きの怪しい空を見上げ奈々瀬が言う。


 そんな奈々瀬に腹を立てたって仕方がない。


 とにかく私はギターを弾いていたい。


「盟ちゃん。うちとイメージトレーニングしようよ」


「そうだね。奈々瀬もやろう」


 イメージトレーニングはいつもコンポで流しながらやっているが、今はコンポがないので私のエレキのギターの音源をベースにイメージトレーニングをする。略してイメトレって私たちは言っているけど。


 私がギターで音を出して琴美は目の前にドラムがある事をイメージして手と足を動かす。


 キーボードの奈々瀬は目を閉じて頭の中でキーボードを弾くイメージをしている。


 バンドで音を合わせるには心を一つにするしかない。そうしないと良い演奏は出来ない。


 今私たちはそれぞれ楽器は持っていないけど心が一つになって、演奏している。


 音は聞こえないが心の中で聞いている。


 気持ちいい。



 スクーリングが終わり、奈々瀬と琴美とも別れて今日はまっすぐ自宅に帰ることにする。


 今日は日曜だから、家族は外食に出かける日だから誰もいないので、昨日みたいに帰る事に後込みしなかった。


 自宅の前に到着して、家には人がいる気配は感じられないことにほっとする。


 部屋に入り、ギターを弾きながらふと思う。


 今の店で働いて、ある程度のお金を稼いだら、家を出ようと。


 そしてみんなで夢を追いかけたい。


 私には、いや私たちには輝かしい未来が待っている事を信じている。








 目覚めて、私は夢を見てしまった。


 最近何か昔の夢を見るようになった。


 でも悪い夢ではなかった。


 奈々瀬と出会った頃の夢で、どちらかと言うと良い夢を見れたと私は思っている。


 あれは小学校四年の時だった。



「転校生を紹介します」


 廊下から、綺麗な長い髪をなびかせて、白いミニスカートに桃色のキャミソールを着たとてもおしゃれで綺麗で知的そうな女の子が入ってきた。


「高山奈々瀬です。よろしくお願いします」


 新学期に私と琴美のクラスに転校してきた奈々瀬。


 第一印象では近寄り堅いと言う感じだった。


 きっとその高山さんも、クラスで掃き溜め的な私と琴美をないがしろにするグループに入って、私達二人をシカトするだと思っていた。


 だから新学期になってからも、私と琴美は一緒のクラスだし、高山さんの事は気にせず、いつものように仲良く二人でやっていれば良いと思っていた。


 奈々瀬はおしゃれで容姿も良く頭も良く、その魅力を男子も女子もほおっておかない感じで、奈々瀬の席にはこぞって集まっている。


 でも奈々瀬は誰一人仲良くなろうとしなかった。


 奈々瀬に取り巻く人たちは何人もいた。


 でも奈々瀬から、何か『近づくな』と言っているような、そんなオーラをみんなは感じて、次第に奈々瀬から、みんな手を引くように避けていった。


 それでいじめは私と琴美がいつも受けていたが、そんな奈々瀬に向けられた。


 でも奈々瀬は毅然として意志も強く、おまけに喧嘩も強くて男の子を泣かしてしまうほどの強さだった。


 奈々瀬にちょっかいを出す者はみんな痛い目に遭ってきた。


 それで奈々瀬に対するいじめはエスカレートしていった。


 体操着を焼却炉に捨てられたり、ノートや鉛筆など、なくなるなんて日常茶飯事。


 私と琴美は遠くから傍観してひどいと思ったし、何も出来ないと言うのがちょっとふがいなくも思った。


 でも奈々瀬はそれでも毅然としていた。


 私は彼女に何も出来ないが、密かにかっこいいと思っていた。


 そして私は見たんだ。


 ある放課後、奈々瀬の机の中に何かを入れてほくそ笑んでいる女子達を。


 その時は分からなかった。


 次の日、奈々瀬の様子がおかしかった。


 どうやら精神的にとうとう追いつめられてしまったんじゃないかと心配になった。


 でも私も琴美も心配しても何もならない。


 私たちみたいな弱い人間にはただ陰でかわいそうだねって言っていただけだった。


 でも何か私の中で感じたことのないやるせなさを感じていた。

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