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また逢えるその日まで  作者: 柴田盟
21/23

憎いから大好き!

   


 朝目覚めて、新しい朝を迎える。


 カーテンを開いて太陽の光を浴びて、さらに窓を開けて乾いた風に当たり、改めて今日と言う一日を思い切り過ごそうと私は意気込む。


 昨日の鈴のお墓参りで偶然奈々瀬と出会い、そしてさらに偶然にも太田先生にも出会った。


 昨日太田先生の話を聞いて、鈴に対する謝罪の言葉を今日、店に迷魂として現れる鈴に伝えるつもりだ。


 鈴はどのような反応をするのか、ちょっと不安な気持ちにもなるけど、これは必ず本人に伝えなくてはならない事だ。


 まあそれはそれで良いとして昨日は大変な一日だった。


 お墓参りを済ませて、太田先生と別れて、その後だったよ大変なのは。


 帰りに奈々瀬に公園で酒を勧められて、つき合わされてしまったのだ。


 まあ私は少し飲んだだけで付き合ってやったけど、奈々瀬はがぶがぶに飲んで酔った勢いで思い切り私に絡んできて、それはもう大変。


 きっと奈々瀬も太田先生の話は理解した物の、気持ち的にすっきりしない部分が合ったんだと思う。

 それで色々と愚痴を聞かされ、つき合わされて散々な目に私は合ったが、それは私が友達だからつき合える事なんだって割り切れた。

 まあ私達はまだ未成年で酒につき合うのは、未成年として昨日までで、今後は二十歳になってから思う存分につきあってやろうと思っている。

 

 二十歳の私かあ?


 思えば小学校の時、消極的な私は未来の私何て、ろくな人間になれないと思っていたが、今となっては何でこんなにもわくわくしてしまうのか?

 未来の私を想像すると、心なしかすばらしい自分になっているんじゃないかとこうして太陽の光と風を体に感じて思えてくる。

 きっとその頃には友達の琴美も奈々瀬もすばらしい女性になっているんじゃないかと私は思う。


 世の中は本当に以前奈々瀬の言っていた通り、欺瞞で満ちている。

 でもそんな冷たい世の中に私はカラフルで一矢報いてやると生き込んでいる。


 未来はきっと私が今想像している通り、すばらしい物になっていると私は百パーセント思える。


 どんな大きくても小さくても夢を叶えるのには、誰かの力が必要だと私は思っている。

 それは一人でも良い。一人でも良いからその人の力を借りて、夢の実現に本気で意欲的に立ち向かえる力がわき起こるんだ。


 そう一人でも良い。


 一人居れば良い。


 私には琴美や奈々瀬に鈴、サタ子おばあちゃんにカノンちゃん、そして家族がいる。


 私は一人じゃない。


 その思いを歌にして、今組んで活動しているカラフルのバンドで伝えたい。


 そうすればきっともっと素敵な人と出会い、すばらしい夢が訪れると私は信じている。


 確かに世の中は欺瞞に満ちているけれども、すばらしい事で満ちている事も私は知っている。


 その思いを伝えるんだ。


 何だろう?すごく胸が熱い。


 燃えるように熱い。


 私は窓から身を乗り出して、太陽に向けてその拳を高く突き上げた。





 ******   ******   ******   *****

 *********   ******   ******   **




 店に到着して、ドアを開けると奈々瀬がソファーに座ってうなだれていた。


「おはよう奈々瀬」


「・・・おはよう」


 どうやら二日酔いで気分が滅入っているようだ。


 そんな奈々瀬に私は台所に行って、一杯の水を汲んで、差し出してあげた。


「昨日のようなつき合いをするなら、今後からは二十歳になってからだからな」


「その頃には私達の縁があるかどうか分からないのよ。それに死んでいるかもしれないし」


「奈々瀬は頭は良いけれど、どうしてそうやって卑屈な事ばかりを考えるんだ?」


 奈々瀬はため息を一つ漏らして「さあね。でも一つだけ分かるんだけど、あんたみたいなおめでたい女が友達だからだねきっと」


 ああムカつく。今すぐにこいつを締めてやりたいと一瞬思ったが、奈々瀬は言った。私を『友達だから』と。

 それに免じて私は店の低いステージに設けられているドラムのシンバルをテーブルにおいてある琴美のバッチを手に取り、思い切り叩いてやった。


「もうやめてよ」


 悲鳴をあげる奈々瀬。


「友情の証だよ」


 そして琴美が出勤してきた。


「朝からどうしたの?それと奈々瀬ちゃん。来てくれたんだね」


 と奈々瀬に飛びつき抱きつく。


「琴美、ちょっと今はそっとしておいてくれない?」


 奈々瀬は言う。


「奈々瀬ちゃん。お酒臭い」


「琴美奈々瀬の言う通り、今はそっとしておいてやれ、昨日奈々瀬のやけ酒につき合って、私は散々な目に遭ったんだからな」


「何よ。未成年なのにお酒を飲んだの二人とも」


 琴美に注意を受けると思って、「とりあえず、未成年でお酒につき合うのは昨日限りの約束でな」


「ずるいよ。うちだけのけ者にして、うちもみんなとお酒が飲みたいよ」


 とんでもない事を言う琴美。まあ天真爛漫な所は相変わらずで、琴美らしい発言だと思ってほっこりとしたりする。


「まあ琴美、私達が二十歳になったらな。そうしたら嫌と言うほど、酒につき合ってあげるから」


「うちそれまで待てないよ。何よ二人だけ楽しんじゃって」


 楽しくはなかったんだよなあと思って奈々瀬と目が合うと、ため息がこぼれ落ちた。


「何だい何だい?二人とも、ため息なんかこぼしちゃって。そんな事をしたら幸せが逃げちゃうよ」


 いつの間にかサタ子おばあちゃんが来店して来ていた。


「おばあちゃんおはよう」「おはようございます」「おはよう」


 私、琴美、奈々瀬はそれぞれ挨拶を交わす。


「さてと」


 そう言ってサタ子おばあちゃんはテーブルの引き出しから、いつ間に編みかけたのか、編み物を取り出して、穏やかな雰囲気を醸しながら、その編み物の作業をしていた。


 何を編んでいるのだろうと聞こうと思ったが、迷魂のみんなと後五日しかない期間の間に私達にサプライズをするのだろうと思って黙って、そして楽しみにしている。


「来たよ」


 扉の向こうから飛び出すように出てきたのが琴美の妹のカノンちゃんだ。


「カノンおはよう」


 姉である琴美はカノンちゃんが来ると、本当に幸せそうな笑顔で迎える。

 カノンちゃんは相変わらずに天使のように微笑んでいたが、やはり五日後のお別れを感じたのか、琴美は少し切なそうな表情を垣間見せた感じだ。

 でも琴美も覚悟は出来ているのだと思う。

 いや覚悟して貰わなきゃ困る。

 これからの迷魂との五日間はまさに、お楽しみのおまけみたいなもので、それまでに鈴が満足するような、思い出をみんなで作ってあげたいんだよね。

 いや鈴だけじゃないく、私達も含めてだが。


 そして鈴が来店してきて、私の気持ちに緊張が走った。


 その緊張に心構えをしていなかったので、少しうろたえて、奈々瀬何かは二日酔いが吹っ飛んだかのような気を引き締めた表情をしていた。


 とにかく本題に入ろうと、「鈴」と呼び寄せて、まずは太田先生が鈴に対して本気で謝罪をしてお墓参りまで来た事を話そうとしたところ、奈々瀬がその口を挟み、


「盟、鈴は私に対して現れた迷魂だよ。だからその話は・・・」


 奈々瀬がするのかと思って奈々瀬を見ると、思いついたように奈々瀬は言った。


「いや、こうしてカラフルのメンバーがそろったんだから、みんなの前で話すのが筋だね」


 なるほど。確かにこれは奈々瀬と鈴の問題だが、私や琴美、それに迷魂であるサタ子おばあちゃんやカノンちゃんも巻き込んでしまったから、奈々瀬の言う通り、みんなに話してそしてみんなにちゃんと謝って置かないといけないだろう。

 多分、サタ子おばあちゃんもカノンちゃんも優しいから、謝らなくたって許してくれるかもしれないが、迷惑をかけた人に対して謝らないのは人として恥ずかしいことだから、それには賛同する。


 とりあえずカラフルのメンバー全員がそろったので、私と奈々瀬で話し合い、すべて奈々瀬が伝えて謝罪すると言っていたので、私は任せたと言った感じで、奈々瀬の話を聞く側に回った。


 まず最初にこれは鈴に伝えなくてはいけない事。


 それは太田先生の鈴に対する誠意ある謝罪を奈々瀬が伝える。


 そう、太田先生の体罰によってその命を失った鈴。


 どう鈴が太田先生の謝罪を受け取るか私はちょっと怖かったりもした。

 もしかしたら鈴、またやけを起こしたりしないか不安だったが、鈴は話を聞いて意外な答えが返ってきた。


「鈴は太田先生には対しては恨んでいないよ」


 ときっぱり。


「でもお前は太田の暴力にいつもおびえていたじゃないか、それであのようないき過ぎた体罰を受けて・・・」


「確かに、太田先生の暴力にパニックになって・・・」


 鈴も周りの空気を読んでそれ以上は口にしなかった。


 だが奈々瀬は「パニックになって廊下の窓から飛び降りてお前は死んだんだぞ。お前は太田が憎くないのか?」


「ない」


 きっぱりと断言して鈴は、


「考えてみれば鈴がだらしなかったから、太田先生は私に強く当たってしまったんだと思う。だからだらしがない鈴が悪いんだよ」


 本当に意外な答えだった。それで私は安心した。みんなの表情を見て、どうだか確かめて見てみると、納得した感じだった。鈴がそう言うなら私達はそれで良いと思った。そう奈々瀬以外は。


 そう奈々瀬以外は。


 奈々瀬以外は納得した。


 納得のいかない奈々瀬は、


「バカかてめえは?お前の命を奪ったんだぞ。悔しくないのか?殺してやりたいと思わないのか?」


 奈々瀬は堰を切らして思い切り鈴に罵った。


 私が「これはお前の問題じゃないでしょ。鈴がどう思うかの問題でしょ」


「てめえは黙っていろ」


 と私に罵り、恐ろしい形相で私を見つめて、私はおののいて動けなくなってしまった。


 そして奈々瀬は鈴に向き合い「お前はおかしいよ。いかれているよ」


 鈴に対して奈々瀬は暴言を吐いているが鈴は毅然とした態度で、その怒り狂った奈々瀬の目を真摯に見つめて冷静だ。


 奈々瀬の様子を見ると、昨日は太田先生の事を口では理解したつもりだったが、本心ではやはり納得がいかなかったんだ。


 奈々瀬は鈴に自分の意見を押しつけているようで、それは邪道だと奈々瀬に言ってやりたかったが、怒りに翻弄された奈々瀬に言う勇気が私にはなかった。


 そして鈴はそんな怒りに翻弄された奈々瀬に言う。


「鈴の気持ちを確かめて見ると太田先生に対する憎しみはまんざらない」


 言葉をなくす奈々瀬。


 そして鈴はその瞳を光らせるように言った。「鈴の気持ちには奈々瀬、正直あなたを恨む気持ちが存在しているの」と断言して、奈々瀬はその意外でしかも残酷な真実を突きつけられ、奈々瀬は気がおかしくなったのか?ケラケラと笑ってしまった。


 そんな奈々瀬を鈴が抱きしめて、「鈴は本当は奈々瀬を憎みたくない。嫌いに何かなりたくない。確かに太田先生の暴力が原因だけど、今となっては、太田先生に対する憎しみは亡くなって、・・・」


 そこでサタ子おばあちゃんが口を開き「良いんじゃない?憎くて」


「えっ?」


 私は一瞬サタ子おばあちゃんの言葉を疑ったが、その言葉には深い意味があると思ってサタ子おばあちゃんの目を見て、言葉の続きを黙って聞いている。

 みんなの視線がサタ子おばあちゃんに集まる。


 サタ子おばあちゃんは改まった感じで咳払いをして、「そうやって素直に思いを伝えられるって事は、つまり鈴ちゃんはそれほど奈々瀬ちゃんの事が大好きだからだよ。だからそうやって鈴ちゃんは奈々瀬ちゃんにありのままの思いを素直に伝える事が出来るのよ」


「鈴は奈々瀬ちゃんを憎しみの気持ちで染めたくない」


「そう。その思いをちゃんと本人に伝えられるんだから、鈴ちゃん。あなたは奈々瀬ちゃんの事が大好きなんだね」


 サタ子おばあちゃんはこの上ない笑顔で鈴に伝える。


「鈴が奈々瀬ちゃんが大好き?」


「ええ、私は迷魂として盟ちゃんに現れたんだけれども、盟ちゃんは私が伝える事をちゃんと理解してくれた。

 きっと鈴ちゃんは奈々瀬ちゃんに伝えたい事は鈴ちゃんが自分とは知らずに奈々瀬ちゃんの事が大好きな事を伝えに来たんじゃないかな?」


「でも鈴は奈々瀬ちゃんが憎い、考えてみれば鈴は奈々瀬ちゃんに殺されたものだ。鈴は生きて当たり前の生活をして幸せになりたかったのに」


「確かに死んでしまったのは残念だけど、あなたは迷魂になっても幸せになれる事を知っている」


 そこで鈴がハッと気がつく。そして鈴は言う。


「鈴は奈々瀬ちゃんに甘えていたんだ」


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