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また逢えるその日まで  作者: 柴田盟
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天使の舞を踊るカノン

   前回のあらすじ。


 一ヶ月前、偶然入った喫茶店のマスターに店を任された。そこで来店して来て出会ったのが、私が小さい頃、慕っていた死んでしまったサタ子おばあちゃんと、琴美の最愛の妹のカノンちゃんだった。

 マスターが帰って来るまで後一ヶ月。

 それまで店をちゃんと切り盛りしながら、楽しんでいこうと私は思っている。

 朝五時に目覚ましがなり、ギターの練習して、キッチンには親も姉もいないので適当に朝食を作って、食べる。


 私は家族の顔など見たくもない。


 親も姉も私の事を蔑ろにするからだ。


 昔からそうだった。


 姉がアイドルを目指すために親は姉を全力でバックアップ。妹の私は親と姉との間に会話に入ろうとすると、みんな邪険にする。

 だから私の家族は八年前に亡くなってしまったおばあちゃんしかいなかった。

 おばあちゃんも同じく家族から蔑ろにされていた。

 私とおばあちゃんは似たもの通しなんだって。

 私は学校でもチビでグズな私は周りからいじめられ蔑ろにされていた。

 学校に何て行きたくない。でもそれは親が許さなかった。でもおばあちゃんは私の悲しみを受け止めてくれて、辛くても学校に行く約束をした。

 いじめられても良いと思っていた。蔑ろにされても良いと思っていた。おばあちゃんは約束してくれた。もし約束を守ったら、おばあちゃんはいつまでも私の側にいてくれるって。


 だが、その約束は破られた。


 家族はおばあちゃんにお葬式にも上げずに、ただ私だけがその死を悼んだのだ。


 私は本当に一人になってしまった。


 死にたいと数え切れない程、死を切望した。


 だが私は死にきれなかった。


 だから生きるしかなかった。


 親の言いなりになるしかなかった。


 でも、その先の未来にもう一人、私と似た女の子がいた。


 それは琴美だ。


 その出会いはおばあちゃんの悲しみから、解放してくれた女の子。


 どんな風に解放してくれたかというと、ただ出会って友達になって、痛みを分かち合って、会うことに約束のいらない約束をしただけ。


 琴美はすごく天然で空想が好きで夢見がちで、おばあちゃんの悲しみを琴美に語ったら、琴美は「私はきっとサタコおばあちゃんの贈り物かもしれない」何て今思うとこっぱずかしくなるような事を口走っていたっけ。


 まあ琴美と出会ってサタコおばあちゃんの事も少しずつ私の思いから消えていった。


 そしてあの店で働いて、再びおばあちゃんと出会ってしまった。


 冷蔵庫から五百シーシーのパック牛乳を取り出し私は背が伸びることを切望しながら一気に飲み干す。

 飲み終わって、パックをゴミ箱に捨て、カーテンを開け太陽の光をもろに浴び、今日も意欲的に生きられるそんな一日になりそうで、わくわくして来た。


 奈々瀬は不安に思っているかもしれないけど、私も琴美も内心はすごく楽しい毎日を満喫していると言っても過言じゃないと思っている。


 シャワーを浴び、腰まで伸びている長い髪をドライヤーで乾かし櫛ですくって整える。


 ジーパンに適当に黄色いカッターシャツを着て鏡の前に立ち、服装や髪に乱れはないか確かめる。


 そして忘れ物はないか鞄を調べて、・・・特になし。私のもう一人の分身ともいえるエレキギターを背負って外に出る。


 夏の暑い日差しに、穏やかな風に包まれ、私は勤務先である喫茶店に向かう。



 喫茶店に到着して、私が一番乗りだ。


 鍵を開け、店内に入る。


 ふー。と息をつき、誰もいないし、一人では仕事もやる気も出ないので、エレキギターを取り出して、アンプもつなげずに私はただ腕を少しでも上げようと練習した。


 アンプには繋がっていないが、それでも音は出て、私自身が奏でる音を出し、気持ちが高揚した。


 どんな時でもギターを持って弾いているときが一番楽しい。さらにみんなと曲を会わせるのは、なお良い。そしてさらに、聞いてくれる人がいればさらにさらに良い。

 いつか武道館を満杯にして、


「何をやっているの朝から」


 奈々瀬の声がして、私は自分でも妄想の世界に入ってしまい、ギターを構えてポーズを取っていた。


 奈々瀬に変な所を見られた。


 恥ずかしさが心の底からこみ上げて、


「いるなら挨拶ぐらいしてよ」


「したわよ。盟はそこにいたけど、心ここにあらずで、ギターを弾きながらおかしなポーズを取っていた」


「・・・」

 もう私は恥ずかしさの真骨頂って感じで何も返答出来ない。


「大丈夫よ。あなたの頭がどうかしているのは昔から知っていることだから」


 しれっとした態度に、


「奈々瀬」


 締めてやろうとすると、ドアが開く音がして、琴美が出勤してきた。


「何をやっているの二人とも」


「あたしは人間をやって、盟はバカをやっているって感じ」


「奈々瀬、私はあんたのそういうところが嫌なのよ」


「グチなら後でいくらでも聞いて上げるから、とりあえず下拵えをしちゃいましょ。今日も来るでしょうから」


 話をはぐらかされたようで、私は奈々瀬のそういう腹黒いところに、本当に締めてやりたい気持ちになる。


「昨日、カノンの服を探していたら、こんな服見つけちゃった」


 花柄のワンピースを私たちに広げて見せびらかす。


「カノンちゃんなら似合うだろうね」


 にやりと笑ってさっきから、しれっとしていた奈々瀬も今日という日を楽しもうと躍起になっていることに何か安心してしまった。


「さあ、仕事をしよう」


 拳を突き上げみんなに言う。



 下拵えのカレーは出来上がり、フロアー台所、いつも綺麗にしているから、掃除するほどでもないけど私たちは仕事はしっかりと成し遂げたい。


「まだ九時か」


 奈々瀬が時代遅れの大きな振り子時計を見て言う。


「それまでレポートを片づけちゃおうよ」


 私が言うと、


「そうだね」


 勉強するときはカウンター席に並んで私たちは分からないところ、どうしても出来ないところは頭の良い奈々瀬にアドバイスをもらいながらレポートをこなしている。


 そんな中、扉が開いて、サタコおばあちゃんが来店してきた。


「いらっしゃい」


 私は大きな声で言う。


「みんなお勉強かい」


「そろそろ終わるから、・・・あっ、今お茶入れるから」


「おかまいしないで。勉強に専念なさい」


「良いから良いから」


 そういっていったん勉強を中断して、おばあちゃんにお茶を入れ、いつもみんなで囲む円卓のテーブル席に座らせ、勉強が終わるまで待ってもらった。


 後もう少しで今日の課題は終わる。


 思えばこうしてまじめに勉強ができるのは、おばあちゃんのおかげでもあるんだよね。


 もし私が再びおばあちゃんに会わなかったら、レポートなんて面倒くさいと思ってやらなかっただろうな。


 でも学校の勉強って何のためにやるんだろうって、ふと思って、むなしく感じるときもある。


 でもおばあちゃんが側にいることにより、私はそのエネルギーを貰える。


 しっかり勉強して立派な大人になる。


 でも立派な大人って何だろう。


 私はいつまでもギターを弾いていたい。そしていつまでも仲間といつまでも一緒にいたい。


 私たちの勉強が終わったちょうどその頃、カノンちゃんが来店してきた。


「お姉ちゃん達、カノン来たよ」


 クリクリと輝かしい瞳を煌めかせ、私達を見る。


 そこで琴美が待ってましたと言わんばかりにカノンちゃんの所に駆け寄り、


「カノン、これカノンに似合うと思って持ってきたんだ。早速だけど着てみる」


「はい」


 はきはきとした返事をして、カノンちゃんと琴美はカノンちゃんを着替えさせるために奥の更衣室に入っていった。


 私はそんな姿を遠くで見ていて心がほころんだりもしていた。


 そこで何となく奈々瀬の方を見ると、私たちがやったレポートの見直しをしてくれている。


 そんな奈々瀬に労いの思いを込めてお茶ぐらい差し出して上げようと立ち上がり、台所の方へ向かった。


 カウンター席にはおばあちゃんはめがねをかけて小説を読んでいた。


 台所に行くと奥の更衣室から琴美とカノンちゃんの戯れる声が聞こえる。


 何か心がほころんで楽しい。本当に幸せだ。


 でもなぜだろう。あまりにも幸せ過ぎて怖くなってきた。


 何だろうこの気持ちは。


 とにかく今こうして奈々瀬にお茶を入れることに意識して、その怖い気持ちを紛らわせた。



「奈々瀬」


 奈々瀬にお茶を差し出した。


 すると奈々瀬は驚いた顔をして、


「どうしたの盟」


「いや、だからお茶」


「こうしてあたしに気を使うなんて、珍しいじゃない」


「まあ、うちらのレポートの見直ししてくれて、ただその」


 すると私に、


「あんたここ間違っているじゃない。それにこの答案最後のところが何かいい加減な答えになっているよ」


「別に良いじゃない。点数は半分くらいとれれば単位は取れるって先生言っていたしさ」


「そんないい加減な考え方じゃダメ。早くやり直しなさい」


「分かったよ」

 お茶なんて入れるんじゃないかった何て思っていると、おばあちゃんの方を見るとにこっと笑って、奈々瀬の言われた通りやり直そうと意欲がわき起こった。


 このように叱ってくれる相手がいるって、奈々瀬は友達として大切にした方が良いと私は人知れず心の中で思った。


 思えば、私を心から叱ってくれた人って、おばあちゃん、琴美、それに奈々瀬、指で数えるくらいの人しかいない。


 どんな事か思い出に浸ろうとした時、


「ねえみんな」


 いつの間にか琴美が得意気に笑って、私たちを見ている。


 私たちは琴美の方を見る。


 よく見ると恥ずかしそうに琴美の後ろに隠れているカノンちゃんがいる。


「恥ずかしいよお姉ちゃん」


「恥ずかしがらないで大丈夫だよ。カノンはかわいくてこれから、いっぱい愛されるんだから」


 そう言って琴美は恥ずかしそうに隠れているカノンちゃんを私たちの前に見せた。


 ポニーテールの髪をおろして、琴美が持ってきた藍色のワンピース姿のカノンちゃんはそれはそれはかわいく、まさに愛される為に生まれてきたような天使にも思えるほどだ。


「かわいいよ。カノンちゃん」


 私は率直な思いを口にする。


「本当ね。琴美の妹とは思えないくらいに」


 嫌みを言う奈々瀬に対して、琴美が、


「どういう意味よ奈々瀬ちゃん」


 頬を膨らませ怒る琴美。


「冗談よ」


 何て笑う奈々瀬。


「本当にカノンちゃん。かわいいね」


 おばあちゃんもうっとりとして、カノンちゃんを見ている。


 本当にカノンちゃんアイドルみたい。


 そこで私はひらめいて、


「カノンちゃん。もし良かったら、私たちと一緒に舞台で演奏しない」


「えっ、カノン楽器なんて弾けないよ」


 ちょっと困惑する。


「そうよ。盟ちゃん。カノンに無理言わないで」


「いや、弾けなくて良いんだよ」



 それで私たちは早速楽器を取り出して準備して、カノンちゃんに舞台に上がって、店に放置されていたタンバリンを持たせて舞台に上がらせた。


 そこでまた私は名案が思いつき、スマホの動画で撮影することに決めた。


「私たちの演奏と、カノンちゃんのかわいらしい仕草に相乗効果で、さらに私たちの魅力がアップするよ」


「ってカノンちゃんはお人形じゃないのよ」


「人形だなんてとんでもないよ。奈々瀬、カノンちゃんは天使で私たちのバンドのマスコットだよ」


「マスコットねえ」


「まあカノンのかわいい姿を動画でとることにはうちは賛成だよ。

 カノンの映像はうちには一つも残されていないから」


 と切なそうに琴美は言う。


「まあとにかく、カノンちゃんは四人目のうちらのバンドの新メンバーだよ」


「カノンが」


 瞳を輝かせて嬉しそうにするカノンちゃん。


「そうよ」


 カノンちゃんの肩に腕を回して、仲間だよと言わんばかりに言う。


 ここで気になったが、カノンちゃんと私の身長はほぼ同じなのだ。


 聞くとカノンちゃんは九歳だ。


「ステージに子供が二人入るよ」


 嫌みを言う奈々瀬に。


「どういう意味よ奈々瀬」


「そういう意味よ」


「お前絞めるよ」


「やってみなさいよ」


 ムカついて、


「奈々瀬」


 軽くひっぱだいてやろうと思ったら、琴美が、


「まあまあ二人とも、プロモとるんでしょ」


 とりあえず怒りは治まって、奈々瀬に後で覚えていろって感じで一瞥して演奏に専念する事に決める。


 撮影はおばあちゃんに頼んである。


「じゃあ、おばあちゃん、演奏が始まったら、画面のカメラマークを押してね」


「今の精密機器はすごいね」


 現代の技術に感心するサタコおばあちゃん。


「じゃあ、始めるよ」


 私はドラムの琴美に合図を送り、演奏が始まる。



 演奏が終わって、私たちはスマホの動画を見て確認する。


「あーカノンかわいい」


 琴美の言う通り、私たちが演奏しているステージの上でかわいらしくタンバリンを叩くカノンちゃんはまさに天使だ。


「ギター弾きながら歌っている人もかわいくとれているよ」


「どういう意味よ。奈々瀬」


「ありのままの意味よ」


 奈々瀬の私に対する嫌みを間に受けるのも、面倒なのでここは聞き流しておく。


「みんな、かわいくとれているじゃない」


 サタコおばあちゃん。


 みんなで動画を見て、楽しんでいるところに、一本の店の電話が鳴り響いた。


 電話の音が鳴る。


「出た方が良いよね」


 私が言うと、琴美と奈々瀬は私の目を見る。


 その顔からして、『私が出ろ』と言うような顔で私を見る。


 私はため息を一つして、立ち上がり、電話の方へと近づく。


 電話に近づく度に、心なしか少し不安になってくる。


 誰だろうと?


 そして電話の前にたどり着き私は恐る恐る受話器を取り耳に当てた。


「はいもしもし」


「君は柴田さんだっけ、どうだい?店は繁盛している?」


「オーナー?」


 私はオーナーに聞きたい事、聞いてはいけない事、聞くのが怖い事、とにかくたくさんある。


 まあ、それらすべてひっくるめて死んでしまったはずのカノンちゃんとおばあちゃんがこの店に来店してきたことだ。

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