咲き誇る彼岸花
下拵えが終わって私と琴美は店内に戻る。
下拵えをしている最中に琴美の事を気にかけていたが、カノンちゃんとのお別れをもう覚悟を決めている感じでちょっと辛さを感じていた様子だった。
もしかしたら琴美に関してはもう問題はないかもしれない。
だから私は鈴に、
「鈴、奈々瀬に伝えたい事を伝えなくてはいけないのだろ」
「うん。伝えたよ」
「えっ?」
意外な事にちょっと驚く。
「後は奈々瀬ちゃん次第だよ。奈々瀬ちゃんがそれに気づく・・・いや気づこうとするかどうかだよ」
「なるほど」
つまり、言葉通りの意味で後は奈々瀬次第。
今の奈々瀬は色々複雑な気持ちに苛まれ、苦しんでいる。
こればかりはどうしようもないか。
今私達に出来る事は奈々瀬を遠くで見守り、信じる事。
でも奈々瀬が立ち直るには奈々瀬一人の力ではダメな気がする。
だからこの一週間の間に、ちょっと時間をおいて接触するしかないな。それには人間である琴美の力も必要だ。
鈴を陥れた当事者は奈々瀬だけでなく私も琴美にも責任がある。
今日は鈴の望み通り、みんなで絵を描く事で楽しんだ。
鈴の望みはただみんなと楽しく過ごしたいだけなのだから、残り少ない時間を楽しく費やしたいと思っている。
それは琴美も迷魂であるカノンちゃんもサタ子おばあちゃんも同じ気持ちだった。
そして時間は過ぎて今日と言う一日が終わろうとしていた。
そう言えば明日はお店はお休みだっけ。
最近色々な事がありすぎて、そんな事も忘れてしまっていた。
帰りに琴美と並んで帰り、琴美は私と二人切りでいて、何か私に後ろめたい気持ちがあるのを感じた。
それはあの世でカノンちゃんと再び出会い、それに気を取られて私の事を裏切ってしまった事を蟠っている感じがした。
「盟ちゃん。うちカノンと今度こそお別れをするよ」
琴美が意を決したかのように私に伝える。
その意は私に対する謝罪が込められていた気がした。
だから私は黙っていた。
その琴美の決意が本物かどうかを。
その決意を口にする事は安易な事だ。
でもそれを実行させて行く事は、避けては通れない困難の壁を乗り越えなくてはいけない。
それにそれは私の問題じゃないし、まあ私に対して謝罪したことは受け入れ、その事に対しては許すも許さないもない。
私も琴美の立場だったら、裏切っていたと思うから。
だから私はそんな琴美にこれからもよろしくと言った感じで笑顔で答えてやった。
すると琴美は泣き出して、私は、
「何泣いているの?」
「だってだって」
そして夕闇に染まり、あの世の景色と重なり、丁度空き地に差し掛かり彼岸花が咲いていた。
私達もいつかあの世界に行く日が必然的に来るんだなあって思って切なく思ったが、それはまだずっと先の事だと思うから、今こうして琴美と帰宅を共にしている時間を大切に思いたい気持ちになった。
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帰宅して、玄関に飛んでくるように来たのは愛桜姉さんだった。
「盟、昨日は帰って来なかったけど、どうしたの?」
愛桜姉さんの目を見て、本当に心配している目だった。
「ごめんなさい」
謝るしかなかった。
「何度もスマホにかけたけど、出なかったから心配だったんだよ」
「ごめんなさい」
「差し支えなければ、訳を話してはくれないかな?」
その事で少し考えさせられる。事実を話したってどうにもならないし、だから私は、「琴美の家に泊まっていたの。家に電話しようとしたんだけど、二日もスマホの充電が持たなかったみたいでさ。ごめんなさい」
「盟、本当に心配していたんだからね。今後このような事がないように、ちゃんと連絡をしておけるようにするのよ。社会人になって大切な事は報連相」
姉さんは本当に心配していたらしく、私に軽く叱った感じだった。
報連相かあ。報告、連絡、相談、そう言えば奈々瀬に教わった事だっけ。
部屋に戻り、ベットの上で仰向けになり、天井を見つめながら、やはり奈々瀬の事を考えてしまう。
思えば、私達の中で奈々瀬がいなかったら、こうして幸せな気分で居られる私は存在しないと言っても過言じゃないかも。
私、琴美、奈々瀬、思えば小学校を卒業してからずっと一緒だった。
その中で誰かがかけていたら、バンドも存在しなかったろうし、迷魂とも逢えなかったんだな。
その仲間の奈々瀬はきっと部屋で色々な複雑な気持ちに苛まれ、悲しんでいるのが分かる。
あいつの涙は小学校の時に一度しか見せた事がないから、決して今連絡を入れても、絶対に出ないだろうし、仮に出ても、無理に機嫌を取り繕って笑うだろう。
そんな奈々瀬は見たくないし、だから今は連絡を入れるのはやめて置こうと思う。
もしかしたら、向こうから私に連絡をくれるかもしれない。
でも気になるなあ。
スマホに手を伸ばして連絡を試みようと思ったが、二日も充電していないので電源が切れている。
充電してから連絡を入れようとしたが、私の気は変わって、とりあえず今はそっとしておく事にした。
そろそろ眠ろうとして、部屋を暗くして、目を閉じると、奈々瀬が部屋で涙を流している姿が私の脳裏に飛び込んできた。
今日は眠れそうにない一日になるかもしれない。
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朝起きて、時計は五時を示していて、ギターを三十分練習して、朝ご飯を食べてシャワーを浴びて、部屋に戻り、時計は午前八時を示していた。
今日はお店はお休みだったんだ。
私の大嫌いな退屈な一日になりそうだ。
奈々瀬と琴美のどちらか私と遊んではくれないかと思ったが、二人ともそう言う気分じゃないと思って今はそっとしておくんだっけ。
ベットに転がり、たまたま本棚を見て、小学校の卒業アルバムに目がついた。
思えばこのアルバム、小学校卒業してから一度も目にしたことがないんだっけ。
あれから鈴を思い出したくなかったので、ずっと開くことがないと思っていたが、今の私には開くことが出来るようだ。
私は本棚から小学校の卒業アルバムを開いて、クラスの一人一人の写真と名前が記されている。
最初に目に飛び込んできたのが、鈴に体罰を加えてパニック状態に陥れた担任だった太田の顔だった。
その太田の写真をじっと見てみると、威厳を自然と感じさせられる厳めしい顔をして堂々と映っている。
「こいつさえいなければな」
人知れず呟き、落書きでもしてやろうと思ったが、そんな幼稚な事をする年でもないし、琴美、奈々瀬、そして鈴の写真を見る。
あの凄惨な事件が起こったのは、卒業直後の事だっけ。
だから卒業アルバムには鈴の写真はちゃんと撮影されていた。
鈴の顔をじっと見ると、それは迷魂として現れたままの顔だった。
いかにもとろそうな目で、でも何か楽しそうに映っている鈴を見て何か安心してしまう。
そしてアルバムを閉じて、人知れず自然とため息が漏れてしまった。
ため息をもらすと幸せが逃げるんだっけ。
でももう逃げたきゃ逃げろって感じで、幸せが逃げないように吐いた息を吸い込む気力もなかった。
そして今日は私は暇だ。なので私は思いついた。
鈴のお墓参りに行こうと。
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鈴のお墓がある場所は、とある観光客が毎日集う、とある山の麓にある。そこまで電車で四十五分。駅から鈴のお墓の場所まで確認して、私は適当にお金を五千円くらい財布に入れて、少し肌寒かったので、普段着の上にあまりおしゃれじゃない、薄い茶色のジャンバーを羽織って出かけて行った。
駅までバスで行きたかったが、それほどの距離じゃないので、お金を節約するために歩いて駅まで向かった。
駅に到着して、今日は休日で、平日はサラリーマンや学生達で満員になる電車は余裕で座れるほど空いていた。
鈴のお墓がある駅までこの電車に乗り、一本で楽だが、ずいぶん長く感じた。
こんな事ならアイポットでも持ってくれば良かったと今更ながらに後悔した。
でもお墓参りだから、楽しく行くのはちょっと不謹慎な気がして、丁度良いと思いながら、景色を眺めながら、私は鈴のお墓がある駅までぼんやりしていた。
今日は偶然退屈な一日で今更だが、鈴のお墓に行けば、何かがあるような気がした。
それは何か分からないが、とにかく得られるというかそう言う得する的なものじゃなくて、何かがある。
それで気まぐれな気持ちでお墓参りに行くのだが、何かに導かれている気がして、気まぐれって言うか、分からないけど、今日こそ行くべき日何じゃないかと、上手くいえないけど、宿命というか運命・・・とにかく行かなくては先が見えないので今日はとにかく行くべきなのだと思った。
何だったら奈々瀬も琴美も誘っておけば良かったのだと今更ながらに思ったがもう遅いだろう。
駅に到着して電車を出ると、秋特有の少し冷たい風が妙に心地よかったりもするし、空気も清々しくおいしい。
駅を出ると、そこはもう山の麓で登山客で賑わっている。今日は休日なのでかなりの登山客でごった返していた。
私は登山をしに来たのではなく、気まぐれな気持ちだが、鈴のお墓参りに来たのだ。
改めてこうして来て、いずれは行かなくてはいけないような気がして、今日がたまたま暇な日で良かったんじゃないかと思った。
とにかく方向的には登山道の反対側の国道沿いにその鈴のお墓が合ったのを調べ済みだ。
国道沿いを通って、すぐにお墓が並ぶ土地にたどり着いた。
お墓は区画毎に分けられて、私たちが住む町の一角にあるような小さな墓地ではない。
場所は頭の中にたたき込んできたのだが、どの区画か迷ってしまった。
こんな事ならちゃんと手ぶらじゃなく地図を持参してくれば良かった。
でも区画毎に番号が振られているのに気がついて、すぐに鈴の区画の墓地を見つけだすことが出来た。
丁度墓地に入る時に、路上でお花を売っている人がいた。
丁度良いのでお花を買うことにする。
「すいません。お花をいただけないでしょうか?」
「いらっしゃい。この時期にお墓参りなんて珍しい人もいる者だ」
何てちょっと皮肉を言われて、とりあえず笑って流してお花を貰うことにした。
お花はテッポウユリとシャクヤクとキクの花を一本ずつ選んで、透明なシートに包んでもらい、一本辺り二百円で三本選んだので六百円の所を気前の良い花売りの亭主は百円まけてくれて五百円で売ってくれた。
「ありがとうございます。おまけまでして貰っちゃって」
「お嬢ちゃんのような小さい子が一人でお墓参りなんて、感心してなあ、遠慮はいらんよ」
そう言って私の髪にテッポウユリを添えて、またまたおまけされたみたいだが、どうやら亭主は私が小学生だと勘違いしたんだと少ししゃくに障ったが、ここで私はこう見えても高校生と伝えておこうと思ったが、もう面倒なのでその場を後にして、鈴のお墓に向かった。
墓地の敷地内に入り、鈴のお墓はすぐに分かった。
「あそこだな」
歩いて近づくと誰かがいる。
あれは鈴の墓に間違いないが、その墓に倒れ込むように寝そべっている人がいた。
ちょっと怖いし、行く事をためらったがこうしてはるばる電車で長時間揺られて来たし花も買ったから、ここで引き返すわけには行かないと思って、恐る恐る鈴の墓で倒れ込んでいる人の所へと歩み寄っていく。
近づく度にその姿が露わになっていく。
そしてその倒れ込む人は奈々瀬によく似ていると思って、まさかと思って行くと、そのまさかだった。
奈々瀬は鈴の墓前の前に突っ伏している。
「ねえ・・ねえ・・」
奈々瀬を揺さぶり、奈々瀬はおもむろに体を起こして、立ち上がったが足下が少しおぼつかない状態だったので、倒れないようにとっさに奈々瀬に肩を貸して上げた。
「・・・盟・・・どうしてあんたがここに?」
「それはこっちの台詞だよ。奈々瀬こそこんな所で何をやっているのよ」
「どうしたら鈴に許して貰えるか、考えていたの」
「考えていたのって、奈々瀬ほどの常識人がこんな所で寝そべっていたら住職の人に怒られるよ」
「丁度良かった盟。鈴は私の事を許してくれるって言っていた?」
そこで私は考えさせられる。確かに鈴の様子だと許しているだろう。でも私は、「じゃあ明日本人に誠意を持って謝って聞いて見ろよ」
「誠意ねえ・・・」
酒臭い。こいつ酒まで飲んでいたのか。
奈々瀬ほどの真面目な人間が、これほどまで取り乱すとは、相当追いつめられた感じだな。
呆れてしまったが、こんな奈々瀬の意外な一面もすごく面白い。
「奈々瀬しっかりしろ」
再び倒れてしまい。呆れたが面白い。
ここは山の麓の墓地で目の前に山の斜面に彼岸花が一面に咲き誇り、迷魂の世界を彷彿させるような感じで、あまり良い気分にはなれなかった。
とにかくこいつ(奈々瀬)を何とかしないとな。
でも何度も言うようだけど、こんな奈々瀬面白い。




