お姉ちゃんは一人じゃない
迷魂であるカノンちゃんとの別れを感じた私達、その別れを拒むようにカノンちゃんの姉である琴美は、あの世に通じると思われる扉の向こうへと走っていった。
「琴美」
と叫び、何かまずい気がして、琴美の後を追ったが、間に合わず、琴美は?
いつも迷魂が来店して来る店の扉を開けたが、店の外にも中にも琴美の姿は見あたらなかった。
「琴美はどうしちゃったの?」
奈々瀬、そして迷魂である鈴に目を向ける。
すると鈴は急に泣き出して、
「・・・ダメなの」
私は奈々瀬を一瞥して、奈々瀬は目を丸くして驚いていて、泣きわめいている鈴に視線を戻し、
「何がダメなんだ?」
鈴は泣きわめき、私の質問に答えてはくれない。
そんな鈴を見ていると、琴美の事が恐ろしく心配になり、
「泣いていちゃ分からないだろ」
と感情的になり、つい大声を上げてしまった。
そして鈴は逃げるように、店の出口でもあり、迷魂が来店してくる扉へと帰って行った。
私もその後を追い、迷魂の世界に私も踏み入れようとした時、「やめなさい盟」と言って奈々瀬に羽交い締めされて「離せ」と言ってもがいたが奈々瀬の力には及ばず、鈴は扉の向こうへと去っていった。
「離せよ奈々瀬」
もがきにもがいて、ようやく離してくれて、私はその勢い余って倒れてしまい、立ち上がり、扉を開いたが、その向こうには鈴の姿はなく、店の外であった。
「鈴、琴美ぃぃー」
人目もはばからず、アーケード街に位置する店の外で私は叫んだ。
道行く人は私の事をちらりと変質者を見る目だった。
それよりも私は私を止めた奈々瀬に振り返り、「奈々瀬・・・どうして止めた」と言いながら歩み寄り、奈々瀬の胸元を両腕で掴んだ。
「落ち着きなさい盟」
と言いながら奈々瀬は私が掴んだ奈々瀬の胸元の手を払った。
「落ち着いてられないよ。琴美はどうなるのよ」
「分からないけど、あなたまであちらの世界に行ったら、私はまずいと思った。これは緊急事態だけど、このような時こそ落ち着いて考えないと物事が悪い方向へと進んで、取り返しの付かない事になるわ」
奈々瀬の言っている事は確かに正論だ。
「盟、深呼吸」
奈々瀬にそう言われて、私は呼吸が激しく乱れている事に気が付き、言われた通り、深呼吸して、気持ちが少しだけ落ち着いた。
奈々瀬の方を見ると、冷静な奈々瀬も動揺しているみたいで目を閉じ、胸に手を当てて深呼吸して呼吸を整えている。
奈々瀬もすごく心配で仕方がないんだ。
「私、今日はこの店に一日泊まるよ。琴美の事が心配だし、それに一日ここに夜を過ごせば何か分かるかもしれないし、それと鈴もまた明日あの世から来店してくるかもしれないし」
「あんたにとっては名案的な事を言うんだね」
こんな時にも嫌みかよ何て、イラッとする気持ちにかられたが、今は怒っている場合じゃない。
「私も泊まるよ。こういう時は一人でいるより二人でいた方がいい。一人でいると何か会った時、冷静な判断が出来なくなる恐れがあるからね」
本当に琴美は大丈夫なのか?時間は時々刻々と過ぎていき、私と奈々瀬はソファーに座って待っていた。
奈々瀬は落ち着いていて腕と足を組み目を閉じて黙っている。
私はやっぱりそわそわとしてしまうが、奈々瀬がそんな私にじろりと目を開いて見て、『落ち着きなさい』と言わんばかりの視線だ。
そのように視線で送られてきても、私は落ち着いておられず、とりあえず、
「何か食事でも作ろうか」
「そうだね。明日に下拵えしたハンバーグが合ったわね」
「それ食べて今日の所は凌ごうよ」
「じゃあ私が焼くから奈々瀬は待っていて」
「あんたが作って焦がされたらたまらないから私も手伝うよ」
「私がいつ焦がしたよ」
「まあ、とにかくあんたは炊飯の方をお願い」
「こっちの方が難しいと思うんだけど」
「赤子泣いてもふた取るな・・・簡単じゃない」
毎度の事、奈々瀬の提案は腑に落ちない部分が多い。
調理をしている最中に、やはり私は琴美のことで落ち着かない状況だ。
自分でも嫌になるくらいにため息の連発だ。
本当に琴美は大丈夫だのか?
もしかしたらもうこの世に帰れなくなって「・・・って奈々瀬、ハンバーグが焦げているよ」
「えっ、えっ、えっ、あっあっあっ」
とっさにひっくり返して、裏返しにしたハンバーグは丸焦げだった。
「かわいいところあるじゃん」
何て文句よりも、皮肉が漏れた。
「小学生のあんたにそんな事を言われたらおしまいよ。この巨乳小学生」
「何よ」
おたまで頭をブン殴ってやろうと思ったが、
「争っている場合じゃないでしょ」
「争いの原因はあんたでしょ」
「まあ焦げちゃったけど、おいしいから」
この腹グロ女を一度ぎゃふんと言わせてやりたいが、付け所もない程の女だからな。
とりあえずご飯の上にハンバーグを乗せて、
「ほら、ハンバーグ丼の完成」
「大胆ね」
「早速食べましょう」
ご飯の上に焦げたハンバーグを乗せたハンバーグ丼はすごくおいしい。奈々瀬も絶品だと言っていた。
食事が終わり、大きな振り子時計は午後八時を回った所だ。
あれから何の音沙汰もない。
部屋は大きな振り子時計の音しかしない。
「じゃあ私食器を片づけるね」
「お願い」
私は立ち上がり、台所に行き、後かたづけをしている時、鈴は『ダメなの』と言っていた。何がダメなのか不安と心配が頭の中に巡らされ押しつぶされそうだ。
とにかく琴美が心配だ。カノンちゃんと共にあの世に繋がる所へと足を踏み入れてしまい、どうしたか?
琴美は帰ってくるのか?それとも考えたくないが帰ってこれないのか?今の私達には分からない。
迷魂とはサタ子おばあちゃんがいなくなったことで分かったが、迷魂は私たちそれぞれに大切な物を諭すために来た。でもどういう因果でそうなったのかは分からないが、とにかく今は待つしかない。
「・・・待つしかない」
「ちょっといつまでそんな所に突っ立っているのよ。さっさとお皿を洗ったら」
振り向くと奈々瀬は壁に寄りかかり腕を組んで私を見つめている。
そんな奈々瀬に私は、
「奈々瀬、今朝も言ったけど、迷魂は私達に大切な何かを伝える為に現れた」
「・・・だからそれはあんたの憶測でしょ」
「何で目を反らすのよ」
「・・・別に」
奈々瀬は台所を出て、店内のソファーに座り、私は奈々瀬を追いかけ問いつめる。
「奈々瀬、あんた何か隠していないか?」
「・・・か・・隠してないわよ」
奈々瀬は私に問いつめられて動揺している。
このままどんどん質問責めしていって、事情を聞こうと思ったが、奈々瀬が隠している事が恐ろしいもの何じゃないかと思って、聞く事が出来なかった。
何か奈々瀬は鈴に対して、とてつもなく後ろめたい気持ちを隠しているんじゃないか?
その真実を目の当たりにしたら、何か私がおかしくなりそうなので、聞く事が出来なかった。
とにかく琴美に現れたカノンちゃんは琴美に何を諭して消えていったのか?
・・・分からない。
じゃあサタ子おばあちゃんは私に大切な物を伝えてこの店から去っていった。
これが何かの手がかりになるんじゃないかと私は思って、考える。
奈々瀬に相談しようと思ったが、この私の迷魂に対する意見は憶測だと否定しているし、聞く耳も持っていないだろう。それに何か隠している感じだし。
時計を見ると午後十時を回った所だ。
普段、私の寝る時間を一時間オーバーしているが、そんな事を言っている場合じゃないけど、やっぱり眠い。
「眠いなら無理して起きていなくても良いよ」
奈々瀬が気遣ってくれる。
「でも、そんな事を言っている場合じゃないでしょ」
「何のために私はいると思っているの?」
「・・・奈々瀬」
「とりあえず私は起きているから、あんたは少し寝て、二三時間位経過したら、あんたをたたき起こして、見張らせるから」
「じゃあ、お願いできる?」
「お願いしてあげるわよ」
「ありがとう」
持つべき物は友達だと私はちょっと感動したりもした。
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「あれ?」
まどろんだ瞳をこすると朝だ。
私はどうしてここに眠ってしまっているのだろう?
何か重大な事を忘れているような気がする。
辺りを見渡して、扉が開きっぱなしで琴美が倒れている。
私は驚きで一気に目を覚まして、琴美の元へと行く。
「琴美・・・琴美」
と揺さぶったが意識は取り戻さないので死んでしまったのかと不安になって、鼻に手を当てると息は合るし、胸に耳を当てると、鼓動もしっかりと動いている事にとりあえず安心した。
どうやら意識は戻っていないが琴美は無事に戻ってきたみたいだ。
扉は開いたまま、それと奈々瀬は?
「奈々瀬・・・奈々瀬」
呼んだが奈々瀬は返事をしない。
開いた扉を見つめて私が眠っている間に何かあったのだろう。
いったい何が起こったんだ?
それよりも扉の前で倒れている琴美をそのままにしておくと風邪ひくといけないので、上部を持ち上げて足を引きずらせて、ソファーに寝かせて布団を掛けてあげた。
琴美の顔を見てみると、何かあったのか?顔色が悪い。
それよりも奈々瀬は?
眠っている琴美が何か事情を知っているのか?それとも奈々瀬は何か用事でも思い出して帰ってしまったのか?
とりあえずスマホにかけたが、ソファーに置きっぱなしにしてある奈々瀬のスマホが鳴り出して、それを拾い上げ、開きっぱなしの入り口を見つめて私は思わず「まさか?」と呟き、鼓動が激しく高鳴った。
「奈々瀬・・・奈々瀬」
私は奈々瀬に何かあったのだろうとすごく心配になり、とにかくいつも奈々瀬に言われている深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
奈々瀬は向こうの世界に行ってしまって・・・それでどうして琴美が戻ってきたのか?
とにかく事情は琴美が目覚めてからじゃないと分からないから、今は待つしかない。
顔色の悪い琴美のおでこに触れると少し熱がある感じだから、台所に行き、おしぼりを冷たい水に浸して絞り、それを琴美のおでこに置いた。
本当に私が眠っている間に何が起こったんだよ。
心配は募り、私まで病気になりそうだ。
「・・・うっ」
琴美がその目を開け、気が付いた。
「琴美」
「盟ちゃん」
琴美は急に体を起こして、頭痛を起こしたのか?頭を押さえる。
「琴美、無理するな」
そう言って肩に手を添えて寝かせるように私は促した。
「盟ちゃん。奈々瀬ちゃんが・・・」
「奈々瀬がどうした?」
「奈々瀬ちゃんが・・・」
何やら事情を話そうとしているが、琴美は呼吸が乱れていて精神状態が不安定な感じなので無理にでも事情を聞き出したいが、とりあえず「無理するな」と言って落ち着かせるように鎖骨の辺りをさすって落ち着かせた。
「奈々瀬ちゃんが大変なの」
素っ頓狂な声を出す琴美。
「落ち着け」
一喝して私は琴美を抱きしめた。
「盟ちゃあああん」
琴美は泣き叫ぶ。
私は琴美の大きな体を抱きしめて、とにかく落ち着かせるために、背中をさすった。
琴美の気持ちが落ち着き次第に事情を聞く事にする。
そして数分が経過して琴美の気持ちが落ち着いて事情を聞いた。
別れを感じたカノンちゃんを追いかけてあちらの世界に行った琴美。
そこまでの事情は私は知っている。
その続きだが、あちらの世界に足を踏み入れた琴美はまるでラッセンの絵の中の世界であり、夢のような所だったという。
そこでカノンちゃんと一生ここで過ごそうと琴美がカノンちゃんに提案したが、何かに拒まれた。
それでもカノンちゃんと一緒の世界に住もうと思ったが、やはり何か見えない力に遮られ、琴美は諦めた。
別れ際にカノンちゃんは言った。
『お姉ちゃんは一人じゃない』
と。
『だから私の事は忘れて良いんだよ』
と。
そしてカノンちゃんとの永遠の別れを胸に、あちらの世界からこちらの世界に戻る時、奈々瀬とすれ違い、声をかけたが、心そこにあらずで、そのまま迷魂達が住むあちらの世界へと消えて言ったという。
「奈々瀬はいったい?」
「分からないけど、奈々瀬ちゃんを私引き留めようとしたけど、奈々瀬ちゃん何かにとりつかれているように向こうの世界へと行ってしまった。私は心配だし、どうする事も出来なかった」
分からない。いったい奈々瀬に何があってあちらの世界へと行ってしまったのか?
考えてみれば、奈々瀬に対して現れた迷魂は鈴だと言う。
鈴が奈々瀬に伝えたい事っていったい?
それよりも奈々瀬は大丈夫なのか?
そんな時、店に置かれているピンク電話が鳴り、私と琴美に緊張が走る。
きっと、オーナーからの電話だろう。




