輝きを一つに
前回のあらすじ。
サタ子おばあちゃんがお店に来ない事に、お別れを意味したことを知り、涙に打ちひしがれながらも、私は一人じゃないことを教えてくれた気がした。
サタ子おばあちゃんが来なくなったことで、琴美はカノンとの別れを余儀なくされることをひどく恐れている感じだ。
自宅に帰り、そこで待っていたのは家族との話し合いだった。
「ちゃんと謝るなら誠意を持って謝ってよ」
「下手に乗っていれば図に乗りやがって」
そう言って親父は私に暴力を振るおうとしたが、あろう事か自分の顔面を何発も何発も殴った挙げ句、自分を傷つけた。
私に対する償いのつもりかもしれないが私は許すことは出来なかった。
親父は自分を激しく殴りつけて意識がもうろうとしていた。
「お父さん」
姉さんが言う。
「うるせえ」
「・・・」
私の気持ち的には冷静でいられて、てんで許す気などまんざらなかった。
「それでおしまい」
私が嘲笑するように言うと、親父の逆鱗に触れて、再び自分を殴りつける親父。
もう見飽きたので、リビングから出て、部屋に戻ろうとしたところ、姉さんが私を呼び止めたが、私はシカトして部屋に戻った。
部屋に戻り、何か気持ちがすっきりしていた。
それと私に謝りたい理由って、やっぱり自分たちの事だった。
妹である私を蔑ろにしてたら、アイドルの知名度が下がるとか、私がネットでアップした動画が評判でそれが武器になると言っていた。
本当に滑稽すぎて笑いが止まらない。
それで親父は癇癪を起こして私を殴ろうとして、償いのつもりか?自分を傷つけた。
私は何となく自分の頬をちょっと強く叩いてみた。
痛みは感じるが精神的な苦痛は伴わない。
つまりあの親父の自傷行為は、ただのバカな行為としか思えない。
カッコつけているのかな?
でも何だろう?親父の自傷行為を見て、サタ子おばあちゃんが報われた気がするのは?
親父の私に見せた自傷行為はただのバカとは思えなくなってきた。
多分、今日私は複雑な気持ちに悩む夜を迎えるのだろう。
でも苦しい悩みというか何て言うか、いや悩みではない。
悩みというのは辞書で調べると思い苦しむ事であり、私が今心に感じているのは悩みとはほど遠く、何かほっこりとした気持ちだ。
天国に上ってしまうんじゃないかと言う感じだ。
親父はバカじゃなくて不器用なんじゃないかな?
私は蔑ろにされていると言っても、食費だって学費だって払ってくれている。
今一人でかじっているカロリーメイトのお金だって親から貰ったものだ。
このベットもパソコンも机も部屋も、そしておこずかいをためて買ったギターもみんな親のお金だ。
お金は払ってくれたけれども、私の気持ちを慮る事はしなかった。
親父は言っていた。私を見捨てた訳じゃない。私なら一人でも出来ると思っていたからだと。
でも私の気持ちを配慮しようとしたのは、姉さんのアイドル活動に支障が出る事と、PVが好調なのが理由だと言っていた。
矛盾だ。
私の経験上、矛盾は悩みの引き金になるが、その通りだ。
とにかく今日は私は疲れているんだと思って、電気を消して布団に入り眠りについた。
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朝起きて、私は思い返すと、心を刺激されるような甘くてとろけそうな心地の良い夢を見た。
思い返して私は人知れず言った。
「ありがとう。おばあちゃん」
と。
ベットから降りて、カーテンを開いて、太陽の光を浴びて、生きているすばらしさを肌で実感した感じだった。
そして私は気が付いたのだ。
迷魂のサタ子おばあちゃんが現れたのは、私の心に大切な物がかけていたからだって。
その大切な何かとは、それは大切な事を感じる強さ。そして大切な事に気づく事。
何だろう?涙が止まらない。止めどなく涙があふれ出てくる。
そして私は知り、その事を言葉に人知れずにする。
「私は家族に愛されている」
と。
私は早速階段を急いで降りて、リビングに向かうと、部屋は昨日の一件で物が散乱したままだが、そこに姉さんが姿勢良くイスに座って目を閉じて、私が起きて来るのを昨日の晩から待っていたかのような感じに見えた。
「姉さん?」
私が呟くと、姉さんはおもむろに目を開いて、私の目を見てにっこりと笑って言った。
「おはよう盟」
私はどんな顔をして良いのか分からずに、とりあえず、
「・・・お、おはよう」
と挨拶を交わした。
「何か食べたい物はある?」
「・・・いや、別に」
「ちょっと時間かかるけど、パスタでもゆでてあげようか」
「・・・うん」
姉さんは立ち上がり、台所に立ち、お鍋に水を入れて、火をかけ、昨日親父が自傷行為と共に散らかした部屋を片づけ始めた。
私も姉さんと一緒に部屋の片づけを手伝った。
こうして一緒に後かたづけをして、何か罪悪感が沸々とわき起こり、
「ごめんなさい」
と言った。
「どうして謝るの?」
確かに謝る理由なんてないかもしれないが、そう言っておきたかったのだ。
その後、私は姉さんと一緒に後かたづけをして、ちらちらと姉さんの方を見て、何か感じる。
それは言葉にすれば一概に言えない、私に対する後ろめたさや、蟠りなど。
でもどうして黙っているのか、私には分からなかった。
鍋が沸騰してパスタを入れて、再び黙々と後かたづけをする。
パスタが出来上がり、「召し上がれ」と食べてみると、レトルトのミートソースだが、姉さん何かアレンジしていたから、そのパンチが効いておいしかった。
食べ終わっても、「おいしかった?」とか「良かったら、また作ってあげるね」と、昨日のことはいっさい言わず、また黙々と後かたづけに移ったのだった。
姉さん一人でやらせるのも何かあまり良い感じじゃないから、私も黙って手伝った。
結局昨日の事はいっさい言わず、出かける時間になり、姉さんに玄関の前で自然と「いってらっしゃい」と言われて私は普通に「行ってきます」と行ってお店へと出かけたのだ。
家族に思われている事は分かった。
けれども、どうして昨日のことに関して何も言わずに、自然とやり過ごしているのかが私には分からなかった。
とにかく悩んでいても仕方がないので、今を懸命に生きようと、自然と俯いていた顔を上げ前を向いて店へと向かった。
何か分からないけれど、私は夢への道を一心不乱に歩いている気がする。
店に到着してドアノブを捻ると、鍵はかかっておらず、どうやら私よりも先に奈々瀬か琴美のどちらかが出勤してきたみたいだ。
中に入ると、奈々瀬と琴美が何かもめ会っているようにも見える。
「ねえ、奈々瀬ちゃん。カノンとお別れ何てありえないよね」
奈々瀬の肩を大きく揺さぶり、琴美は泣きながら奈々瀬に訴えている。
奈々瀬は困惑しているだろうが、そんな素振りはいっさい見せずに、目を閉じて腕を組み、冷静な面もちで黙っている。
二人は私が出勤した事に気が付いていない。
だから私はとりあえず、
「おはよう」
と挨拶をすると、琴美が私の顔を見ると、とっさに泣きついて来て、
「盟ちゃんも言って、カノンとお別れなんてあり得ないって」
「・・・まあ、琴美。まず落ち着いて」
「うちカノンとお別れなんて嫌だよ」
小さな子供のように泣き出して、そんな琴美に腹が立ち、その頬を少し強めに叩いた。
「・・・盟ちゃん」
叩かれて頭が冷えたようだ。
「落ち着け琴美。・・・とにかく話し合おう」
とりあえず、奈々瀬が琴美に一杯の水を差し出して、それを飲み干して琴美は落ち着いてくれた。
私たち三人はテーブルを囲んで琴美の気持ちを聞いた。
どうやら琴美は昨日サタ子おばあちゃんが来なかった事に、カノンちゃんも同じように来なくなるじゃないかと眠れない夜を過ごしたそうだ。
「うち、カノンと別れたくない。カノンはうちの宝物だもん」
琴美はそう言ってこらえきれず、再びその大きな瞳から大粒の涙をこぼしていた。
そんな琴美に私はどんな言葉をかければ良いのか分からず、奈々瀬の方を見ると、奈々瀬もその目を閉じて、黙っていた。
気持ちは充分に分かる。
でもそんな悲しんでいる琴美を見ると辛い。
そんな琴美を見ていると、カノンちゃんが亡くなった当時の様子と重なり、私はもういたたまれなくなって見ていられず、目を閉じた。
そして奈々瀬が、
「琴美、まだお別れと決まった訳じゃないでしょ」
「だよね。だよね」
悲しい涙から一転して、琴美は泣きやみ、涙を拭って、期待に満ちた目をして笑った。
そして扉が開いて、
「来たよ」
紛れもないカノンちゃんの声が聞こえて、振り向くと、紛れもないカノンちゃんだった。
そんなカノンちゃんに琴美は脱兎のごとく飛びついた。
「カノン」
「・・・どうしたのお姉ちゃん?」
「カノンカノン」
カノンちゃんはそんな大きなお姉ちゃんを子供をあやすように頭をさすっている。
その様子を見て、私は安心したと同時に不安の気持ちも押し寄せて来た。
本当にこのままで良いのかと。
奈々瀬の顔を見ると、複雑そうに目を俯かせている。
そこで私は考える。
迷魂であったサタ子おばあちゃんがこの店に来なくなったのは、私が大事な事に気づいたからだと。
それは私の家族の愛情だった。
まだオーナーから詳しく聞いていないし、確信までには至っていないが多分そうだと私は思っている。
琴美は何に気が付けば、カノンちゃんとお別れが出来るのか?
そこで琴美の様子を見て、琴美はまるで子供のようにカノンに甘えるように泣きついている。
このままではいけないような気がする。
いや待てよ。
サタ子おばあちゃんは予期しないで急にいなくなった。
それは私が大切な事に気が付いたから。
だったら琴美も、勝手にどこかで気が付いて、カノンちゃんは成仏するんじゃないかな?
琴美がその事に気が付いて、カノンちゃんが成仏したら、間違いなくショックを受けるだろう。
私もサタ子おばあちゃんが来なくなった時も悲しかったが、何とか大切な事に気が付いて、こうして立ち直る事が出来たのだ。
だからもうこれは琴美自身の問題だから、私と奈々瀬は友達として遠くで見守っていてあげれば良いんじゃないかって。
「奈々瀬」
横を向いて頬杖をついている奈々瀬は私を尻目で見る。
「サタ子おばあちゃんがいなくなった事で分かったんだけど、迷魂は私達に大切な事を気づかせる為に来たと思うんだ」
すると奈々瀬は立ち上がり、
「それはあんたの憶測でしょ」
「そうかもしれないけど・・・」
するとドアが開いて、「おはよう」とテンションあげて鈴がやってきた。
「鈴ちゃーん」
と言って琴美が鈴にも抱きつく。
鈴の来店で話の腰が折れてしまったが、奈々瀬に話の続きをしようとしたが、
「ほら、早く、・・・今日の下拵えがまだでしょ」
エプロンを着用して台所の奥に行き作業に移る。
「・・・奈々瀬」
そこで呆然と立ち尽くして、奈々瀬に現れたと思われる鈴は奈々瀬に何を気づかせに来たのか?
それは私の憶測かもしれないけど、鈴は奈々瀬に何かある。
何があるのだろうと想像すると、無性に怖くなって来る。
いつものようにバンドの練習の時間になり、とにかく次にやる曲が決まり、個人練習に入った。
鈴は相変わらずに一心不乱にして、奈々瀬はイヤホンを装着して一人でイメトレしている。
琴美の方を見ると、カノンちゃんに見守られながら、ドラムの練習を必死でやっている。
そんな琴美を見て、まるで妹のカノンちゃんがいなくては何も出来ないようにも思えて心配だった。
このままではいけない。
でも琴美も大切な事に気が付き、迷魂であるカノンちゃんとお別れが来て・・・それを乗り越えてくれると信じて・・・遠くで見守っていれば良いのだ。
だから私は今出来る事を必死で頑張っていれば良いのだ。
・・・そう必死で頑張っていれば良いのだ。
そして私達は舞台の上で一つになるのだ。
輝きを一つに
作詞 盟 作曲 奈々瀬 編曲 カラフル
『君と僕 僕と君 思いが一つになれば、輝きになる。
あなたと私 私とあなた 思いが重なり 輝きになった。
その一つの輝きが世界を照らす太陽になると私は信じたい。
そしてその輝きは未知なる宇宙の果てを照らし新たなる開拓へと私たちは導かれ導きたい・・・』
私たちは闇を光に染める輝きになれるような気がする。
その輝きは悲しみを乗り越える道しるべとなると思っている。
・・・そう・・・悲しみの道しるべ・・・。
・・・道しるべ。
何か違和感は感じていた。
私も奈々瀬も感じていた。
そして琴美も。
琴美が大切な何に気が付いたかは詳しくは分からないが、もうその心に諭されたと感じた。
迷魂であるカノンちゃんとの永遠に別れる時が来た。
・・・そしてカノンちゃんは笑顔であの世に繋がる世界に帰ろうとした時、琴美が泣きながら、その後を追い・・・。




