熱き思い
前回のあらすじ。
私達カラフルのPVをネットにアップして、驚きの再生回数に喜び、逆に不安にもなって、休日店を開けて私達三人は集まり、とりあえず喜びを分かち合い、その日は解散となった。
その後、帰り道で色々と町を回って気分を高揚させた。そんな気分とは一転して嫌な事を覚悟して、家に帰ると、突然姉さんに『おかえり』とさりげなく言われて、私はその事で悩んでしまい、眠れそうもない夜、ネットで快眠の方法を知り眠ることが出来た。
その翌日、姉さんのさりげない『おかえり』の挨拶に対して、喜んで良いものだと感じて、朝ご飯を作っている時、姉さんが話がてら朝ご飯を作ってくれると言う事で断る理由がないので食べることに。
話の内容が何なのか想像を膨らませていると、姉さんに対する怒りが私の心の奥底にあって自分でも嫌になるくらいに膨れ上がってきた。
そして朝食ができあがり、姉さんの話を聞くことに・・・。
「盟?」
「今更何なの?」
押さえきれない怒りが爆発しそうな震えた声で訴えると、姉さんは後ろめたい気持ちがあると言わんばかりに目を泳がせる。
そして私は立ち上がり、
「今更何、姉貴面して来るのよ。お前のおかげで私やサタ子おばあちゃんはどれだけつらい目にあったか分かっているのかよ」
私の怒りは爆発して怒気のこもった声で訴える。そしてその勢いは止まらず、
「いつも私の事を蔑ろにして、私がどれだけ辛かったか分かっているのかよ。
どうせ話って自分のアイドルとしての知名度を上げるために私と仲良くなるって売名行為でもするんでしょ」
「そんな事じゃないよ」
「じゃあ何なのよ。
いつも自分の事ばかりじゃない。
母さんも父さんも私のことは見向きもせずに、私が帰ってきても『ただいま』の挨拶もくれない。
挨拶しなければ、へそを曲げて不機嫌になるし。
・・・・・・・
・・・・・・・・二度と私に声をかけるな」
そう言って私は用意された食事をひっくり返して、居間を後にした。
部屋に戻り、気が付けば涙を流していた。
悲しい涙だけど、でも言いたい事を言って少し鬱憤が治まった。
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とりあえず私は出かけて、少し早いが店まで向かう。
言いたいこと言ったのに、なぜか涙が止まらなかった。
このまま行ったら鋭い奈々瀬に見抜かれて心配される。
自分の弱いところを見られるのは絶対に嫌だ。
どうしよう。拭っても拭っても涙が止まらない。
どうして涙腺が故障したかのように涙が止まらないのだろう?
その涙の原因をすぐに求めない方が良いことは私は分かっている。
私は公園に立ち寄り、止まらない涙を水道の蛇口をひねって、水で涙を流していた。
でも涙は止まらない。
ベンチに座って自分の顔を見てみると、涙を拭いすぎて、目元が腫れ上がっていた。
こんな顔、誰にも見せられない。
くそっ全部姉さんのせいだ。
本当に最悪だ。
しばらくして涙は治まった。
でもこんな顔を奈々瀬や琴美、迷魂であるサタ子おばあちゃんにカノンちゃん鈴に見せられない。
みんなに心配される、そして気を使わせてしまう。
それは絶対に避けたい。
色々と考え巡らしていると、時間は時々刻々と過ぎていき、そろそろ開店時間だ。
このまま私が来なかったら、ますます心配かけて、みんなに迷惑をかけてしまう。
・・・どうしよう。
仕方がない。
そろそろ時間だ。
私は覚悟を決めて、大きく深呼吸をして、店に向かった。
とにかく立ち止まってはダメだ。
心配するならすれば良い。心配されたらまずどんな時でも大丈夫と答えた方が良い。
店に到着して、店からピアノの音が漏れている。
奈々瀬がもう出勤している。
とにかくどんな顔をすれば良いのか困惑して、とにかく破れかぶれと思い、ドアを開いて中に入る。
相変わらず奈々瀬のピアノの旋律はいつ聴いても心に響く。
すると奈々瀬と目が合った瞬間に、演奏をやめ、私の目を見る。
私は奈々瀬のその目を知っている。
心を読むときの目だと。
私の顔を見ただけで、瞬時に私が何かあったと気が付いたのだろう。
そして奈々瀬に見られて、涙がこみ上げてきた。
どうして奈々瀬に見られて私は泣いているのだろう?
涙なんて奈々瀬に、いや誰にも見られたくない。
顔を隠しながら、トイレに隠れようとすると、奈々瀬は私を後ろからそっと抱きしめてくれた。
すると私の中で何が起こったのか?さらに涙が大量に放出され、私は生まれてこれほどまでに、涙を流した事は一度もない。
「奈々瀬、離してくれないかな?ちょっとトイレに行きたいから」
「あんたの涙でトイレを汚されたくないしね」
「どういう意味?」
「さあね」
それから私達の間に会話はなかった。
奈々瀬は私の悲しみに気が付いていたが、その理由は話さなきゃ分からないが、あえて奈々瀬は無理に問いだそうとはせず、私を優しく抱きしめたまま、何も言わなかった。
そして私の悲しみが浄化されるかのような気持ちになり、次第にあふれ出る涙は止まり、そして琴美が出勤してきて、とりあえず私と奈々瀬は「おはよう」と声を合わせて言って、琴美に奈々瀬と抱き合っている恥ずかしい姿を見られても、あまり気にすることは無かった。
琴美も私と奈々瀬の気持ちをくむように、何も言わずに黙っていた。
涙が落ち着いて、姉さんに対する憤りは不思議と改善され、私は奈々瀬と琴美が友達で良かったと本気で思った。
「ごめん。奈々瀬、琴美、変に心配かけちゃって」
「別に私は心配なんかしていないよ」
「盟ちゃんは思い詰める癖があるからね」
二人とも私の事を心配して気を使っている。
私はそれらのことをひどく拒んでいたが、そう言うのもあっても悪くはないんだなと思えてくる。いやむしろ合った方が良いのだろう。でも出来れば私は心配や気を使われる事は避けたい。
そして迷魂のサタ子おばあちゃんにカノンちゃん、鈴がそれぞれ来店してきた。
PVの事でみんなで盛り上がり、私たちのバンド意欲が高まった。
今朝の一件からか、サタ子おばあちゃんを見ると、あんまりこんな事は思いたくないがかわいそうな気がしてきた。
でもサタ子おばあちゃんは私たちの前では楽しそうに笑顔だった。
だからあまり今朝の一件で思い悩まないようにしたいと思う。
でも姉さんが言おうとしていた事って何なのか、今更ながらに気になったが、今日話をするんであれば聞いてあげても良いと思った。
とにかく過去の事に思い悩んでも仕方がない。
今はみんなと限りある時間を充分に楽しむ時。
そうやってみんなと物事に取り込んでいるうちに、悩みはどこか遠くの彼方へと飛んで行った。
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「みんなグラスを持ったかな?」
「みんな持っているよ。だから早く進めなさいよ」
相変わらずのりの悪い奈々瀬がしれっとした表情で言う。でもそんな事は無視して、私は盛大にPVに大成功した事に大いに盛り上げ。
「かんぱーい」
のりのりに言うと、鈴と琴美とカノンちゃんは乗ってくれたが、奈々瀬とサタ子おばあちゃんはそういうの苦手と言った感じだが、乾杯はしてくれた。
午前中に、PVの事で盛り上がり、その後、レポートやら、鈴とカノンちゃんの学習や、バンドの練習などして、お昼になり、私は思いつきで、『PVの大成功のお祝いしない』と言ったら、奈々瀬はどうでも良いみたいな感じだったが、みんな賛成してくれた。
時計は午後二時を示している。
お祝いと言っても、即興だったのでそんな豪華ではなく、サンドイッチやら、おにぎりにお菓子を並べた程度だ。
でも何かすごいテンションがあがる。
思えばバンドを始めて、迷魂と出会い、滞りなく幸せへの道を歩んでいる気がして、逆に不安にもなるが、とにかく杞憂しないで今こうしてパーティーを楽しもうとみんなで語り合う。
「じゃあみんな、もう一度、みんなでアップしたPVを見てみる?」
いきなり奈々瀬が言って、私たちは賛成した。
奈々瀬は鞄から、PVを撮影したDVDを鞄から取り出して、店に置いてあるパソコンにセットしてみんなで鑑賞した。
改めて見て、アップする前は、まあ良い出来だとは思ったけど、こうして注目を浴びてから見ると何か、心なしかテンションマックスって感じだ。
歩みながら。
作詞 盟 作曲 盟 編曲 カラフル
私はアコースティックギターを持って、引き語りをした。
歌う曲は即興で出来た曲で即興で歌わせて貰う。
『悲しい事、辛い事に足下をすくわれないで、急ぎすぎず焦りすぎず、それでも歩もう。
その先には私達を必要としてくれる人が必ずいる。
僕たちはそれぞれの孤独の大海原を一人では泳ぐことは出来ない。
さあ、歩もう。
さあ、走ろう。
さあ、休もう。
さあ、泣こう。
さあ、笑おう。
悲しみに打ちひしがれても私は君を決して一人にはさせない。
さあ、日の射すところへ。
さあ、風の吹くところへ。
さあ、花が咲くところへ。
さあ、みんなが行る場所へ。
そこには形よりも、心踊らせる何かがある。旅人気分で行けばね。
僕が悲しい時、聞いてください。
たとえそれが傷つけ合う事でも、その思いは強まるって知っている?
そしてまた一つ僕の中で夢が生まれるんだって。
そして僕は歌うんだ。
夢を口ずさむ人たちの為に』
私が歌い終わると、みんなの喝采が飛び交う。
お世辞には思えなかった。
みんな本気で私の歌を聴いて、心に届いたみたいだ。
パーティーは盛り上がった。
こういう時ってお酒があると、多分もっと盛り上がるんだと思うけど、私たちはサタ子おばあちゃんを除いては未成年だ。
そう思うと早く大人になりたいと思った。
私が大人になったら、どんな大人になっているのだろうと、想像すると何かワクワクしてくる。
思えばこんな気持ちになれたのも、バンドを始めて迷魂と出会い、そしてバンドを組んだからだ。
過去の事を思い返すと、やるせない気持ちに染まるが、それはまさにパンドラの箱で、即座に『閉じろ』と心に言い聞かせ、また再び希望の光が見えて来る。
きっと奈々瀬も琴美も私と同じ気持ちなのかもしれない。それに迷魂のサタ子おばあちゃんにカノンちゃんに鈴も。
私は伝えたい。
笑いたい奴は笑わせて置けばいいのだ。
それでも私の思いを伝えたい。
たとえ朽ち果ててすべてを亡くしても。
胸の鼓動が魂を揺さぶり、さらなる歩みへと私を誘う。
それは私のため。私の為になる事は、きっと誰かのためになる。
私は信じ続ける。いや信じ続けたい。
誰が何と言おうと、私は私が信じた道を歩み続けるんだ。
それに仲間もいる。
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パーティーが終わって迷魂のみんなもあるべき所に帰り、私達三人は後かたづけをした。
なぜか奈々瀬が吹き出した。
「どうした奈々瀬」
「いや、あんたは熱いよね」
「どうして笑うの?」
「これが笑わずにいられないよ」
ケラケラと笑う奈々瀬。
ムカついた私は「奈々瀬ええ」と、飛びかかろうとした時、一本の電話が鳴り響いた。
私たちに緊張が走る。
オーナーからだろう。
いや、オーナーしかあり得ない。
奈々瀬と琴美の顔をそれぞれ見ると、二人は頷いて、私は受話器に手を伸ばす。
「もしもし。柴田ですけど・・・」




