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また逢えるその日まで  作者: 柴田盟
10/23

秘密の場所

 前回のあらすじ。


 週末の休日に私たち三人は奈々瀬の家に集まり、早速迷魂を含めて撮影した動画をアップした。

 

 その次の日、パソコンでアップした動画の再生回数を見てみるととんでもない数字になっていた。

 何これ?パソコンが壊れたのか?昨日アップした動画が、再生回数一万回を越えている。


 何かの間違いか?何か私達にサイバー攻撃でもしてきたのか?それともこれは夢か?


 頬を思い切り叩いてみるが夢ではない事は確かだ。


 じゃあ何なんだ?


 よく見ると書き込み欄に色々と書き込みがされている。




『この女性バンドかっこいい』




『歌詞も曲もポップでロックなイメージがあって、まさに女性ビジュアルバンド』



『カラフルのライブ行ってみたい』



『このボーカルの盟ちゃんと、タンバリンのカノンちゃんすごくかわいい』



 ・・・・etc



 マジですか?いったい何が起こっているの?


 正直、私達の記念するイメチェン撮影に半分お遊び的な感じでアップしていたが、ここまで再生回数に至り、空を飛ぶほどの喜びにかられたい気持ちでいたが、逆に不安になってきた。


 迷魂が影響してこんなになったんじゃないかとか、やっぱり何かしらのサイバー攻撃を受けているとか、あまりの驚きに一人で考えていると頭がおかしくなりそうなので、早速奈々瀬のスマホに連絡を入れた。


『もしもし奈々瀬』


『何よ盟、まだ五時じゃない』


 眠そうな奈々瀬。


『奈々瀬大変な事になっているよ。とにかく昨日アップした動画の再生数を見て見ろよ』


『なーに』


 通話の向こうの奈々瀬がパソコンを立ち上げている様子を想像していた。


『すごいわね。一気に目が覚めちゃったよ』


『どうしよう奈々瀬。何か私不安になってきたんだけど』


『何で不安になるのよ。ここは正直に喜ぶべきところでしょ』


『言われてみればそうだった』


 そうだ。奈々瀬の言う通り、ここは喜ぶべきところなんだ。


『奈々瀬、今何をしているの?』


『何って眠っていたに決まっているでしょ』


『これから会わない?』


『はあ?今何時だと思っているのよ』


『何か嬉しいのやら不安やら、とにかく一人でいるとおかしくなりそうで』


『元からあんたはおかしいでしょ』


『何よ奈々瀬』


 怒る私。


『分かったわよ。会ってあげるわよ。それと一応琴美にもあんたから連絡して誘っておきなさいよ』


 琴美にも連絡して私たちは、どこで待ち合わせをするか、今日はお休みだが、とりあえずお店に集まる事にした。


 すぐにシャワーを浴びて食事をとって、歯を磨いて、着替えてギターといつもの持ち物を持って外に出た。


 清々しい朝の空気を吸ってすごく気持ちが良かった。


 そうだよね。奈々瀬の言う通り、ここは喜ぶところなんだよね。


 部屋にこもっていたら、ふつふつと悪い方へ考えがちなので、無理言って奈々瀬と琴美に朝早く会う約束をして良かったと思う。



 店に到着して、時刻は六時半を示していた。


 まだ奈々瀬も琴美も来ていない。


 やはり、動画の再生数の事で私はそわそわして、落ち着いていられずに、私はギターを適当に弾いていた。


 ドアが開く音がして、振り向くと奈々瀬が来た。


「遅いよ。何をしていたの?」


「いきなり呼び出しておいて、その言いぐさはないでしょ」


「ゴメン。何か落ち着かなくてさ」


 ギターを思い切りかき鳴らす。


「だったら部屋で密かに一人で喜んでいれば良いんじゃないの?」


「いや、あまりの衝撃に一人の頭では抱えきれなくてさ」


 やれやれと言った漢字でため息を付く奈々瀬。


 そんな奈々瀬に急に朝呼び出して悪いと思っている。


 でも本当に嬉しすぎて、気が狂いそうになって不安になったんだよね。


 琴美もやって来て、私達、カラフルのこの世のメンバー三人全員がそろった。


 二人と会って分かった事だが、私はただあまりにも嬉しくてこの気持ちを分かち合いたかっただけだった事に気づかされ、奈々瀬に『人騒がせな人ね』と叱られてしまった。


「奈々瀬は嬉しくないの?」


「まあ、嬉しいけど、あんた程、子供みたいにはしゃぎはしないよ」


 いつも奈々瀬は私に対して踏んだり蹴ったりな事を言う。


 琴美は言うまでもなく、スマホで動画を再生して、『カノンがかわいく写っている』と嬉しそうにしている。


 奈々瀬は至って冷静で琴美も私ほど動揺もしていなく、私の気持ちが落ち着いて頃、時計は午前八時を示していた。


「私そろそろ帰るね」


 奈々瀬は立ち上がり、帰ろうとするところを、「もう帰るの?」と呼び止めるように言う。


「昨日はみんなであんなにはしゃいで今日は一人でゆっくりしたいのよ」


 ちょっとつれない感じがしたが、思えば、バイトが始まって私たちは一日たりとも集まらない日はなかったっけ。


「琴美はどうする?」


「奈々瀬ちゃんが帰るならうちも帰るよ」


「そう」


 寂しいが仕方がないよね。


 今日は一人になってしまった。


 家に帰っても、家族がいるから、部屋にいたら気まずいし、何か嫌だから、私は一人で町をブラブラしていた。


 今日は本当に良い天気だ。


 梅雨なのに雲一つない快晴だ。

 

 宛もなく町を歩いて、私は考えてしまう。


 迷魂の事、これからの事。


 オーナーが言い掛けた大事な・・・何なのか、まだ分からないが、とにかく、こうして太陽の光を感じて歩んでいけば問題は無いような気がする。


 町の大きなスクランブル交差点に入り、私は雑踏に紛れながら歩く。


 町の液晶パネルに忌々しくも姉さんが所属するアイドルユニットの映像が流れ、私は逃げるようにその場を後にして立ち去った。


 人混みをかき分けながら、私は歩いて、途方もなく町を歩く。


 疲れたので近くの公園に立ち寄り、ジュースを買ってベンチに座って飲んでくつろいでいた。


 こうして外で一人でぼんやりとしていると、何か不思議な良い気持ちになったりする。


 ちなみに部屋の中でだらだらと一人でいると、ふつふつとネガティブな事を考えて壊れそうになる時があるからな。


 だからこうして外で一人でぼんやりとやり過ごすのもたまには良いのかもしれない。

 

 無限に広がる空を見上げて、明鏡止水の心境だ。


 とても気持ちが良い。


 何か音楽でも聴きたい気分になり、スマホの音楽を起動させイヤホンをつけて聴いた。


 本当に最高の気分だった。


 歩きたい気分になり、私はベンチから立ち上がり、公園の街路樹に囲まれた道を歩いた。


 何か良い詩が浮かんでくる。


 


 私だけの場所


 作詞 盟 作曲 盟 編曲 盟


 スキップをしたい程の高揚感になっているが、私も小さな子供じゃないし、周りから変な目で見られてしまうので、そこは自重する。


 鼻歌を口ずさみ、この上ない幸福感に満たされる。


 いつも一人で歩いて不快に思っていた町の騒音も、なぜか私を祝福しているような感じに思えてくる。


 思い出すとムカつくけど、奈々瀬の言うとおりかもしれない。


 私の頭はいかれている。


 でもそれは私にとって良いところだと、きっと奈々瀬は言いたいのかもしれない。


 こんな事をまた奈々瀬に言ったら、また『相変わらずおめでたい頭をしているのね』何て言われてムカつくんだろうな。


 でも私は奈々瀬が友達として好き。


 もちろん琴美も。


 迷魂のカノンちゃんも、サタ子おばあちゃんも、鈴も。


 目の前の道が明日に繋がる架け橋に見えてくるのは気のせいではない。


 そう。私は進むんだ。何も描かれていない真っ白な明日を懸命に生きて虹色に染めてみせると。


 こんな事を奈々瀬に言ったら、またバカにされてしまうだろうから、奈々瀬には、いや誰にも言わず私の心の奥底にこの思いをしまっておこうと思う。


 これは奈々瀬の知らない、いや誰も知らない私だけの秘密の場所なんだから。


 それはドラ×もんの道具にある『ど×でもドア』のように外に飛び出せばいつでも開ける、私だけの秘密の場所。


 その扉を開くには心はいつも正直じゃなきゃいけないと私は思う。


 ******   ******   ******   *****

 ****    *****   ******   *****  



 時が立てば必然的に日は暮れて、高揚していた心も変わる。


 私は帰らなくてはいけない。


 先ほど町で見た液晶パネルに姉さんが映って見て、不快に思った事が日が暮れると同時にふつふつと思い浮かび、私の心を嫉妬の嵐で染めてくれた。


 帰ったら嫌でもそんな姉さんの顔を見て、『ただいま』の挨拶をしないといけない事に、今から家出したい気持ちになるが、私にはどこにも行くところもそんな度胸もない。


 そして家の前に付き、ため息が一つこぼれ、とりあえず観念して、中に入り、


「ただいま」


 と両親、そして忌々しい姉さんの顔を見てそう言った。


 すると予想を大きく覆る事が起こった。


「おかえり」


 と、姉さんが素っ気ないが私に挨拶をまともに返してくれた。


 部屋に戻った時、先ほどの姉さんの挨拶を反芻する。


 いったい何が起こったんだ?


 もしかしたら私達のバンドのPVのアクセス回数が半端がない事をどこかで聞きつけて、『あんたも私に近づいてきたんだね』何て傲慢にも私のことをクズのように扱ってきたが『見直したわ』といいたいのだろうか?


 でも理由はどうであれ、私はただ単純に嬉しかったんだよね。


 思えば、家族に蔑ろにされるなんて、悲しいことだよ。


 両親が今まで姉さんの事にかまって、私とサタ子おばあちゃんを蔑ろにしていたことは許せないけど、先ほどの姉さんの『おかえり』と言う対応に、自分でも嫌になるくらいのお人好しになってしまい、許してしまう私がここにいる。


 許しちゃダメだって自分に言い聞かせるが、もう一人の私が『許しても良いんじゃない』と言っている。


 どっちが正しいのか分からない。


 もしかしたら、姉さん気まぐれで、何となく言ったのかもしれない。


 私はまた悩んでしまう。


 PVの次は姉さんの意味深な一秒にも満たない『おかえり』と言う挨拶だ。


 そんな事で悩んでしまう私が嫌になる。


 今日も眠れない時間を過ごすかもしれない。

 

 明日ちゃんといつも通り、起きられるだろうか?


 不安だ。


 奈々瀬か琴美に今の気持ちを打ち明けて気持ちをすっきりさせたいが、時計を見ると、午後十時半を回っているし、こんな事で電話すると奈々瀬にまた怒られるかもしれない。


 とにかく早く寝て早く起きたいので、パソコンを立ち上げて、快眠の方法を検索した。


 お腹に手を当てて鼻からお腹を膨らませるように息を吸って、お腹が膨らんだら、一秒止めて、口から吸った息を吐き出して、お腹を元に戻す。

 その繰り返しをやる事。



 *****   *****   *****   *****   

 ********   *****   *****   *****



 快眠だった。


 目覚ましは四時を示して、まず眠気を覚ます為に、窓を開けて外の空気を吸って、台所に向かって、電子ケトルに水を入れ、お湯が沸くまで待つ。


 昨日悩んでいた事が嘘みたいに思えてくる。


 多分昨日色々と一人で町を歩き回って疲れていたのかもしれない。


 疲れている時って、何気ない事が皮肉に聞こえてしまう時があるからね。


 だから昨日、姉さんが私にさりげなく言った『おかえり』の挨拶は素直に喜べた。


 でもどうして急にここ五年は口も聞いたこともないのに、『おかえり』何て挨拶したんだろう?


 色々と考えたって仕方がない。朝食を取ったら早速ギターの練習して、悩まないように気を紛らわそう。


 お湯が沸いたちょうどその時、姉さんが私の前に現れ、私の目をじっと見つめて来たので「何?」と聞いてみる。


「朝ご飯まだでしょ。たまには私が作ってあげようか?」


 断る理由はないが、なぜか後込みして、どう判断すれば良いか分からなくなって私は姉さんの目もまともに見れずに視線が泳いでしまっていた。


「そんなに警戒しなくても良いよ。あなたにちょっと話があってね。話を聞く気があるなら、そこの席に座って待っていて、朝ご飯作るから」


 私は何も言わずに席に座った。


 別に断る理由はないし、話を聞くぐらいなら別に良いと思ったので、姉さんの手料理をご馳走になる事にした。


 台所で作業をしている姉さんの背中を見ながら、私に話って何なのか、想像してしまう。


 PVの事だろうか?それとも自分のアイドル活動でも自慢でもしようとしているのか?


 それとも私に今までしてきたことに対する謝罪でもするつもりか?


 もし謝罪だと考えたら沸々と心の奥底から怒りがこみ上げてくる。


 私やサタ子おばあちゃんに今までして来た事を考えると、殺意を抱くほどの憤りが芽生え始めてきた。


 姉さんの後ろから包丁で突き刺したい気持ちになる。


 正直こんな気持ちなんて嫌だ。


 昨日はさりげない『おかえり』の挨拶に浮かれていたが、私の気持ちには姉さんをひどく憎む私が存在しているんだ。


「お待たせ」


 姉さんはお盆にベーコンエッグとパンにサラダと言う栄養バランスの良さそうなメニューを持ってきてくれた。


「どうしたの?そんなに怖い顔しちゃって」


「・・・」

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