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口の悪い双子

「あら、お姉さま。ドレスのお尻に排泄物が付いていますわよ」

「シャルも腰にあれの血が」

私はシャルロッテ、マージアナ皇国の貴族の娘だ。

とは言っても、没落しかけの貧乏貴族なのだが。

隣に居るこのクソブスはエスカリーナ、私のできの悪い双子の姉だ。

今日は王家の舞踏会と言うのに、このクソブスがついてきたせいで

台無しである。お陰で街の質屋からドレスを二着も買い戻す羽目になった。

「お姉さま。クソブスなのを自覚して、早く引きこもってくれると助かるわ」

「あーらシャルちゃん、顔がそっくりな私がクソブスなら、劣化品のあなたはゲロブスね」

「そんな言葉はありませんー。作らないでくれる?」

「バイトしにいった食料品店で酔っ払いの愚民が

 言っていたから、あるはずよ」

「ふん。男に取り入ることができないから、バイトなんか

 する羽目になるのですよ」

「下の口のほうが早い貴方に言われたくないわ。このゲロブス」

「何よクソブス」

二人でにらみ合っていると、スーツに身を包んだ物凄いフツメンから声をかけられる。

この悪くもよくも無い超平均的容姿&性格のフツメンは

アルスハーン、街の衣料品店の一人息子だ。

「まぁまぁ、お二人とも、押さえて」

「フツメンは黙ってて!!」「フツメンは黙ってて!!」

と私たちは声を合わせてアルスハーンに文句をいい再び

言い争いを始める。

人の良いアルスハーンは泣きそうになっているが

そんなのお構いなしだ。私たちが狙うのは

玉の輿のみ、今日の舞踏会で言うと、

このクジャラント皇国の第三子のバファル様。

百九十センチの長身と、超絶イケメンの顔をワイルドなロングの黒髪が逞しい。

勲章のジャラジャラとついた皇族用の豪華なスーツも似合っている。

だけども、バファル様には手が出せないのだ。

猪と蛇を合わせたようなタフな女たちにいつも囲まれている。

近づこうもんなら、それこそ本当に排泄物を塗りたくられかねない。

「シャル。もう帰らない?あれじゃ手が出せないよ」

「何よ姉さん、怖気づいたの?」

とはいえ、策は何も無い。私はしばらくエスパーのように

バファル様に向けて「振りむいてっ」

と念じ続けてみたが、まったく意味は無かった。

仕方ない帰るか。

「送るよ。女の夜道はあぶないだろ?」

心配したアルスハーンが、舞踏会の行われている屋敷の

前まで車を回してくれた。

クリーム色の車体に赤いラインが引かれている

悪くないデザインのコンパクトな石炭車だ。

二人で意気消沈しながらそれに乗り込む。

一人テンション高くなったフツメンの今一面白くない話を聞きながら

「はぁ、買い戻したドレス代どうしよ。マーゴに何発かさせてやればいいんだけどさぁ」

めんどくさい。下手糞だししつこいしで。

「あんな豚男と付き合うのいい加減、止めなさいよ。バイトしなさいバイト」

余裕綽々の姉にムカついていると

「僕もエスさんに賛成だなあ。女の子が身体を易々と売るのは良くないよ」

とフツメンがいかにもフツメンぽい、フツメン理論を振りかざしてくる。

「つまらない男は黙ってて」「つまらない男は黙ってて」

同時に二人でいかにもつまらないことを言ったフツメンに文句を言う。

私たちは残念なことに、感覚はよく似ているのだ。

生き方がまったく違うだけで。

涙目になっているアルスハーンは黙って運転し始めた。

しかし、こいつも良く私たちに付き合うものだ。

一発やりたいなら、そう言えば良いのに。

いくらかお金くれたらやらしてあげるけど、

絶対にこいつはそれだけは求めてこない。つまんない男。


アルスハーンの石炭車は、草が伸び放題の我が家の屋敷の塀の前で止まった。

「何事も無くてよかったよ。じゃあね二人とも。明日学校で」

フツメンはフツメンっぽいフツメンスマイルで

フツメンっぽく運転席から手を振って、モブっぽく走り去った。

「何が楽しいのかしらね」

「さぁ?フツメンの気持ちなんか私たちには分からないわ」

「そうね。それだけは同意するわ」

ドレスを引きずりながら、私たちは草が伸び放題の我が家の広い庭を歩く。

庭師のズーマに給料を払えなくなって、どれくらい経っただろう。

お父様の病も、治らないが、無理をして

お仕事を続けている。私たちが何とかしたのだが、

どうしようもない。庭の石像も皆無くなった。

売り払ったのだ。子供のころから見て育ったので少しだけ寂しい。

「あーらシャルちゃんは、男を利用するクソビッチなのに

 センチメンタルにもなれるのね。器用ね」

エスカリーナが、私の気持ちを察して煽ってくる。

「うー。そうは言われても、悲しいものは悲しいじゃない」

「ねぇ、シャル。どうしようもないこともあるのよ。

 お母様みたいにね」

「バカ女!!さらに落ち込ませてどうすんのよ!!」

「早く、落ち込みすぎて、病気になってしまいなさい~♪

 そしたら同じ顔は世界で私、一人だけだわ~♪」

ドレスを裾を振ってスキップを踏みながら、草だらけの庭を逃げていく姉を

怒りながら追っていると、少し気分が晴れた。

私たちは、蔦だらけの三階建ての屋敷へと入っていく。我が家だ。

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