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キズナ!  作者: やっこ
6/6

第6話:新キャラは巨乳? ずっと俺のターン!


タイトルの通り、新キャラが出ます。

 





 ぷりぷりぷり〜


「はー、至福の時だわー」


 あ、どうも、朝霧才悟です。今トイレに入ってます。『大』です。いきなり下品ですみません。ほんとすいません。謝りますから「ぶりぶり左衛門」とか「うんこマン」とかいう呼称はやめてくださいね。軽く引きこもれますから。


「ふー、すっきりした。では、仕上げに世界最高峰と謳われる日本便器の真骨頂を見せてもらおうか」


 ”おしり”ボタン、スイッチオン。


「こちらサイゴ、目標(ケツ)を狙い打つぜ! ……はふんっ」


 おうっ、おおうっ、おーうっ!


「……ほぼイキかけました……」


 俺、日本に生まれてよかった。ほんと。


「さて、おしりも洗ったし、あとは紙でふきふきと……よし、じゃあ部屋にもど――」


 ぶるぶるぶるっ


「……おや!? おしりのようすが……!」


 やばい、またしたくなった。仕方なくもう一度座る。


「……ふぅ。えーと”おしり”と……あはんっ」


 これでよし。じゃあ今度こそ部屋に――


 ぶるぶるぶるっ


「……」


 座る。する。噴射。拭く。立つ。


 ぶるぶるぶるっ


「…………………………………………」


 ――無限ループ?


「いやぁあああああああ! トイレに搾りとられちゃうぅううううううううううううっ!!」


 座るっ。するっ。噴射っ。拭くっ。立つっ。座る! する! 噴射! 拭く! 立つ! 座る? する? 噴射? 拭く? 立つ? 座る!? する!? 噴射!? 拭く――ふく――フク――


 ……からん


「紙がNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!! ヘルプッ! 真奈美さんへ―――――――ルプッ!!」


 ピーと笛く吹く俺。


 召喚される真奈美さん。


「お呼びですか才悟さん――――きゃーっ!! なんてもの出してるんですかーっ!?」


「テメェ俺の息子を愚弄する気か!? 銭湯で隠す必要もないぐらい立派なのが密かな自慢だったんだぞ!?」


「知りませんよそんなことーっ!! なんでトイレなんか呼び出すんですかバカッ! バカバカバカッ! 才悟さんのバカッ!」


 泣きながら逃走する真奈美さん。


「うおぉいっ!? 見捨てないでくれ真奈美さーんっ!」


 もちろん追っかける俺。


「いやぁ〜〜〜〜〜〜!! 来ないで来ないで来ないで〜〜〜〜〜っ!!」


「逃がすかー!」


 全力で真奈美さんを追いかけながら、何故か俺は今までにない爽やかさを感じていた。まるで俺自身が風になったのではないかという感覚。走れば走るほどすがすがしい気持ちになり、それと同時に、得も知れぬ高揚感が俺を包み込む。そしてこの股間の爽快感。何故だろうか。もうひとつ言うなら、周りからやけに叫び声がするのはどうしてなのだろうか。一体何故――――ッ!



 気がついたらぐるぐる巻きで吊るされてました。



「違うよ俺は変態じゃないよ。俺はただ、おしりを拭くための紙が欲しかっただけだよ。変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態という名の紳士だよ! ――ちょっ、待て麗菜! とりあえずそのハンマーをしまえ! この状態でそれを食らえばマジで命が危うい!」


「死ぃいいいにぃいいいさぁあああらぁああせぇええええええっ!!」


「ちょ、やめ、やめっ、やめ――――――ッ!!??」



 ―――見事なスイングだったよ、麗菜。でもひとつだけ見落としていることがある。

 しょせん俺も、温かい水の出る便器に踊らされた、愚かな犠牲者のひとりだったってことをさ―――

 





 その日、僕は死んだはずの両親と再会した。






◇◇◇






 季節は春。


 桜が舞い、出会いと別れが無数に繰り広げられ、恋が溢れ、憎きスギ花粉が空中散布され、浮かれた中二どもが妄想を爆発させ、”ぜんらのへんたいしんし”――裸で何が悪い!――が現れるような、愉快で奇妙な季節。


 そんな楽しい季節の最中――俺は世界一長い二十分を体験していた。



「……」


「……」


「…………」


「…………」


「………………」


「………………」


 いっそ殺してくれ。


 そんなことを思わずにはいられないシチュエーションである。


 原因は今俺が乗っている無駄に豪華な外車を運転している男。


 名前はヤマさん。



 どっからどう見ても893な人だった。



「才悟さん? どうしたんですか? いつになく静かですね。ま、まさかお体が優れないのでは……!」


「ダイジョウブ、ヘイキダヨ」


 いかん、恐怖のあまり片言になっている。


 てゆーか、助手席に座ってる真奈美さんはなんで平気なんだ。あれか、得意の天然パワーがこの893オーラを緩和しているのか。すごいぞ天然。年中脳内お花畑は格が違うな!←とっても失礼な物言いである。


 いやね、みなさん知っての通り、俺は一般の人と違ってやーさんとは切っても切れない(切らせてくれない)関係にあったんでね、強面のおっさんとかは比較的見慣れてるわけですよ。だがこのおっさんは違う。今まで俺が見てきた奴らとは比べ物にならない――そう、言うなればスーパー☆YAKUZAである。


 しかもこのおっちゃん、俺達が車に乗ってから一言も喋らないし、ちらちらとバックミラー越しに俺の方を見てくるから恐いの何の。冷や汗のかき過ぎで脱水症状を起こしかねない勢いである。なるほど、通りで麗菜がわざわざ別の車を用意させたわけだ。お兄ちゃんと一緒の車に乗るのが嫌だったんじゃないんだね! 


 ……だよね? だよね?


 なんて油断していると、


 


 ――ギロリ


 


 ―――――――――――――――。


 おっと、どうやら今の一睨みで軽く気絶しちまったようだぜ(ちなみに3回目)。


 まったくもって、どうして厳重朗さんはこんな人を雇ったんだろうか……。


「あ、才悟さん見てください! 見えてきましたよ!」


 いっそHARAKIRIでもしてやろうかと精神的にやばくなって来たとき、救いの声が俺の生気を呼び起こした。


「や、やっと着いた……!」


 3年は寿命が縮まった体に鞭打ち、窓の外に広がる景色を見る。


「―――――――――――――――」


 おっと、違う意味で意識が飛びかけたぜ。


「……あの、真奈美さん? ホントにあれ?」


「はい。あれこそ才悟さんがこの春から通うことになる、神楽坂学園です」


「……あっはっはー。こんなん学校ってレベルじゃねぇえええええええええええええええええええええええええええええっっ!!」


 ――神楽坂学園。


 将来の日本を担う、経済界の御曹司やお嬢様が多数在籍している超お金持ち学園。


 俺の新しい学園生活が、ここで始まる――予定。






◇◇◇





 

 話は数日前にさかのぼる。


「……は? 転校?」


 ある日の夕食。いつも通り頬が落ちそうなほど美味い飯を食べているとき、その話はやってきた。


「そう、転校だ。才悟くんには今年から麗菜も通うことになっている学園に転入してもらうことになる」


「ええっ!? 本当ですかお父様!?」


「……なんで俺より先にお前が驚くんだよ」


「冗談じゃないわっ! 屋敷での生活を共にするだけでも苦痛なのに、その上学園生活にまでこの豚がずかずかと入り込んでくるなんてっ! お父様、私にストレスで死ねと仰るんですか!?」


「……なんだろうね。最近は罵倒されるのに慣れたせいか、この程度じゃ怒る気もしたくなってきたよ。これも成長かな、真奈美さん」


「さ、さあ、どうなんでしょう?」


 しかし、いきなり転校と来たか。相変わらず厳重朗さんは前置きなく俺に衝撃的イベントを持ってくるな。


「で、厳重朗さん。なんで転校なんて話が出たんすか? 俺が今まで通ってきた学校じゃダメなんすか?」


「必ずしもダメ、というわけではないが、私としてはやはりよりよい環境を君に提供したいのだよ。……もしや、転校はいやかい? 何か今の学校に強い思い入れでもあるのかい?」


「いや、そういうのは特にないんすけど……」


 別に転校自体に問題があるわけじゃない。


「ただ、俺の知らないところで勝手に話が進められていたってのが、ちょっと気に入らないだけです」


「秋坂才悟! あんたまさか、お父様がわざわざ取り計らってくれた懇意を跳ね除ける気!? そんなことしたら私がただじゃおかな……ああでもそれを認めると春からこいつと同じ学園に通うことに……!」


 麗菜はうるさく怒鳴ってるだけなので放置することにした。


「確かに、何の相談もなしに話を進めてしまったことは申し訳ないと思っている。だが、これもすべて君のためを思ってのことなんだ。分かってほしい」


「まあ、いいんすけどね。俺も神楽坂には興味あるし」


 この辺の地域に住む者であの学園を知らない者はいない。ていうか、国民の大半がその存在を知っている。


 神楽坂学園ってのは一言で言えばお金持ち学校だ。ただし頭に『超』がつく。度々テレビにも登場するのだが、俺が初めてその学校のニュースを見たときの感想が「え? これどこ? 外国の観光地?」だった。そんなことを思わせるようなすごい光景がテレビの奥で広がっていた。


 まず敷地の広さからして格が違う。聞いた話では当時農地が多かった市を丸ごと買い取って校舎や施設を建てたらしい。これだけでも眼球飛び出しものだが、その敷地内に建てられているのは校舎や体育館などの一般的な学校設備だけでなく、バカみたいに多くの施設やグラウンド、果ては馬の牧場なんてのも設置されてる始末。もはや校舎がおまけになりそうな勢いである。しかも大半の施設が国内外問わず有名な建築デザイナー達による合作で、空から見た全体像は壮観の一言につきる国宝級ものである。ていうか去年国宝指定された。


 ちなみに、神楽坂学園に入学するには面倒な手続きなどもあるが、そこまで大した学力がなくても試験は通るらしい。ただ、問題は学費だ。聞いた話によると、入学金だけでも『ピー』円は軽く必要らしい。正確な値段を口にすると俺の脳みそがショートしてしまうので割愛するが、まあ、そんだけありゃ一生働かんでもいいだろとだけ言っておこう。要は金さえありゃ誰でも入れるのだ。


 つまるところ、神楽坂学園とは我らが日本国の土地というより、異世界と言った方がしっくりくるような所なのだ。そんな庶民の憧れみたいなあの神楽坂に行けるいうのだから、俺としては拒む理由はない。



 まあそんなわけで。



 厳重朗さんの話を概ね了承した俺は簡単に転入試験を受け(ペーパーだけなので屋敷で受けた)、無事入学手続きも済ませたので、入学前に一回ぐらい下見に行こうと思い立ち現在に至るわけである。


「しかしまあ、想像以上にすげぇとこだな」


 校門周辺の警備の厳重さにも驚いたが、何よりも驚いたのは学園内をバスが走っていたことだ。なんでも敷地が広すぎるため専用バスが園内を巡回しているとのこと。もうなんでもありの世界である。


「へー、なかなかいい所じゃない。気に入ったわ。さすがは私が目をつけた学園なだけはあるわね」


 一緒に下見に来た麗菜はさすがに最初は少し驚いていたようだが、今ではすっかり馴染んでいる。さすが腐っても朝霧家の人間、こういう常識外れの場所での適応能力が高い。


 ―――ぶんっ


「うおっ!? テメェいきなりハンマー振り回すなよ!?」


「あんた今、私に対して失礼なこと考えたでしょ?」


「バカ言え、貧乳でチビでロリで世間知らずのクソ生意気な麗菜もさすがは腐っても朝霧家の人間なんだと褒めちぎっていただハンマークラッシュッ!?」


「死ね! 今すぐ死ね! 恐るべき勢いで死にさらせっ!」


「死ぬ! 当たったら今すぐ死ぬ! 恐るべき勢いで死にさらすっ!」


 なんてギャーギャー騒ぎ立てる俺達。うーむ、この前の一件で少しは仲良くなれたと思ったんだがなぁ。それにしても、やけに勘のいい奴である。


「うぅー! ふたりともやめてください! せっかくみなさんでお出かけしたんですから、もっと仲良くしてくださいよぅ!」


「はは、いいじゃないですか雨宮さん。会話がないよりはよっぽど楽しいですよ。特に私が」


「もー! 伊達さんも伊達さんです! どうしてそんなに楽観できるんですか!?」


「雨宮さん。人生を楽しく生きるコツは、投げやりになることですよ」


「投げやりにならないでください〜〜〜〜!」


 俺達のお供であるメイド・執事コンビは揃っていつも通りの反応。相変わらず真奈美さんは気苦労が多そうだ。まったく誰だよ俺のまなみんを困らせてる奴は。


「ふんっ! 言っとくけどね! 私はあんたがここに入ることになんて納得してないんだから! 秋坂才悟ごときがこの学園で過ごすなんて1兆年は早いのよ!」


「んなこと言われてもなぁ。俺もうここの生徒手帳もらったしどうにもできないと思うけどな。つーか、あれほど厳重朗さんに言われてまだ納得してなかったのかお前」


「ふきーっ! 大体お父様は優しすぎるのよ! こんなどこの馬の骨ともしらない男を養子にするだけならまだしも、負債を帳消しにした上に学業の面倒まで見るなんて! あんた、ちょっとは遠慮しようとか思わなかったの!?」


「あ、見て真奈美さん。通り一面に桜が咲いてるよ」


「わぁ、綺麗。もうすっかり春ですねえ」


「ホント綺麗だ。もちろん、真奈美さんの方が綺麗だけどね」


「も、もう、才悟さんったら……!」


「聞けっ!!」


 こいつも相変わらず無駄に元気だなぁ。いっつもこんなテンションで疲れないのかねぇ。


「しっかし、おもしろいぐらい人がいねえな。ここまで回って出会ったのがガードマンだけってどうよ?」


「仕様がありませんよ才悟様。もともとここの敷地は広い上に、今はちょうど長期休暇ですから、生徒の大半はご両親と共に海外へバカンスに行ってるでしょうし」


 さて、今さらっと聞きなれない春休みの過ごし方が聞こえたぞ。


「実際に生徒の方をご覧になりたいなら、校舎の中に入ってはどうですか? 校舎内ならば、何人かは登校している生徒もいると思いますが」


「そうだな。それじゃ他の施設は後回しにして……ってあれ? 麗菜は?」


「お嬢様ならあちらに」


 修司さんが指差した方を見てみる。



 麗菜はたくさんのペンギン達と戯れていた。



「待てやおい! なんだよこのツッコミどころしかない光景は!?」


「わぁ、かわいい。麗菜様、わたくしも混ざっていいですかー?」


「ギャグか!? その反応はギャグなのか!? ていうかギャグだと言ってよまなみん!」


「おや、才悟様はボケてくれる方が欲しいのですか? では僭越ながら私が……」


「違ぇ! てかあんたの場合は絶対わざとだろコラ!」


 ふぅ……久しぶりに熱くツッコんじまったぜ。しかしさすがは神楽坂、学内にペンギンまでも徘徊しているとは。いっそテーマパークとして一般公開した方がいいのではないだろうか。


 それはさておき……


「ペンペン♪ ペンペン♪ お姉ちゃんとあっそびっましょっ♪」


 天使☆麗菜降臨。


 どうやらぬいぐるみでなくともかわいいものを前にするとモードチェンジするらしい。ずっとそのままでいろと切に訴えたい。


「にしても、麗菜も案外お子様だな。ペンギン程度で腰砕きになるとは」


「いいじゃないですか。とてもかわいらしいです、麗菜様」 

 

「はっ、いくらかわいくとも貧乳なら意味がないのさ。そもそも団体行動において勝手な行動をするなんてまず人として間違って……」


 と、その時何気なく俺は視線を宙に向けた。


 そこには空飛ぶ―――

 


 $$$



「ふぉおおおおおおおおおおおおおおお!! 諭吉ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!」


「ああ! 才悟さんが風に飛ばされている一万円札を追いかけて行きましたよ!?」


「ははは、またしてもパーティが一人減ってしまいましたねぇ」


「の、のんきなこと言ってる場合じゃないですよぅ! 才悟さんっ、才悟さーんっ!」






◇◇◇






「読者の期待を裏切らない男、俺!」


 はい、というわけでまたまた迷子になった才悟っちです。なんだろうね、見知らぬとこにきたら必ず迷子になるってのが俺のクオリティなんでしょうかね。


「しかし、こりゃまずいぞ。あんまりのんきなこと言ってる場合じゃねえ……」


 予備知識から既に分かっていたことだが、この神楽坂学園は想像以上に広い。市全体を買い取ったなんてただの誇張表現だと思ってたがそうでもないらしい。こりゃ元いた場所に戻るだけでも相当骨が折れそうだ。


 幸い学内は専用バスが走っているのでそれにさえ乗れれば大通りまで戻れると思うが、まずそのバス停が見つからない。道路も見当たらない。ていうか建物すら見えない。


 あ、言い忘れてたけど。



 俺、今森の中だから。



「……もうツッコむ気力も起きねえよ」


 見渡す限り木・木・木。日はあまり届かないし道らしいものもない。このままじゃ遭難確定の状況である。その上残念なことに、俺がこんなところに迷い込む原因になった諭吉さんはどこかの木の枝に引っかかったらしく見失ってしまった。くそぅ、一万円あればエロ本たくさん買えたのに! 巨乳のお姉ちゃんのパフパフが見たかったのにっ!


 え? べつにそんな必死にならなくたってお前金持ちじゃないかって?


 バカヤロウ! 苦労して手に入れたエロ本だからこそ意味があるんじゃねえかっ! 親にもらった小遣いで買う? ネットで注文? 邪道邪道っ! 貴様らは分かってない! 分かっていない! 本当の漢ならば、自分で稼いだ金でエロ本を購入するのだ! なに? 店員に本を見られるのが恥ずかしい? 女性店員ならなおさら? このボケナスどもがぁ! そんなもん堂々と趣味丸出しのエロ本差し出してついでにホテルにでも誘えばいいだけの話だろうが! 自分の欲望も肯定できずに何がエロスか! なに? それはさすがに相手も引くだと? これだけ言っても分からんのか貴様らはぁ! 歯を食いしばれ、今日は徹底的にしごくっ! 貴様らがエロの何たるかを理解するまでは寝られないと思えーっ! はぃいいいい指導指導指導ぉおおおおっ!!


 ぜぇ……ぜぇ……ん? そもそも空飛ぶ諭吉は自分で稼いだ金ではないだと?



 ……………………………………。



「さて、まずはこの森を抜けることを優先するか。時間が惜しい。急ごう」  


 マイ脳内論争は無事平和的に帰着したので、俺はすったかと森を歩き出した。うん、まああれだ。漢なら新のエロ道を極めろって話ですよ。そういうことにしておこう、それがいい。




 そんなこんなで歩き始めて、およそ30分。




「うーん」


 まあ、最初から予想してたことだけどさ。


「……なんか変だな、この森」


 変というか、まず存在からしておかしい。


 確かにこの神楽坂学園の敷地は恐ろしいほど広い。30分歩きつめても出られないぐらいの森が存在することはできるだろう。だが、あくまでここは『学園』だ。いくらなんでもこれはないだろってものがわんさかある神楽坂だが、生徒が遭難する可能性のあるこんな森を敷地内になんの整備もなく置いておくとは考えにくい。しかもここの生徒は大半がひ弱な御曹司かお嬢様である。なおさらおかしい。一体何なんだよ、この森。


「くそ、せめて携帯が使えれば真奈美さん達に連絡を入れることができるんだがな……」


 試しに携帯を開いてみるが、やはり圏外だ。自力で森から脱出するしかないらしい。


「と言っても、正直これはお手上げ侍なんだけどな……」


 体力はまだ残ってるし、精神的にも落ち着いている。だが、日がほとんど遮られた道とも言えない道を一人で歩き続けるってもかなりしんどい。長居をするのは得策じゃない……。


 と、若干鬱が入り始めた頃になって、ようやく目の前が開けてきた。


「……なんだ、これ?」


 やっと森を抜けたと思ったら、目の前には古びた建物がぽつんと立っていた。


 よく見れば、それはどうやら古くなって打ち捨てられた廃校舎らしかった。サイズはいたって普通。おかしい。いや、おかしくないけどおかしい。この神楽坂にこんな普通サイズの校舎があるはずがない。たぶん、市を買い取った際にもともと建てられていたものだと思うけど、なんでわざわざ残してあるんだ?


「ま、そんなことはどうでもいい。それよりも……これはフラグじゃないか?」

 

 こういういかにも怪しげな場所には何かしらのイベントが用意されているのが世界の常識である。例えばお化けが出たり地下への階段を発見したり巨乳ちゃんと出くわしたりボインがぱふぱふでパルプンテだったりぐへへへへ。


 いやしかし、せっかく森を抜けたのだから、まずは携帯で連絡を取るべき……でもあの真奈美さんのことだからすぐ駆けつけちゃって探索してる暇とかなさそうだし……どうする俺?




 1.行く


 2.行く!


 3.行くっ!!




 欲望に素直な俺に万歳。






◇◇◇






「う〜〜〜、イベントイベント〜〜〜」


 今、イベントを求めて全力疾走している俺は、お金持ち学校に通う予定のごく一般的な男の子。強いて違うところをあげるとすれば、ボインに興味があるってとこかナ――。名前は朝霧才悟。


 そんなわけで迷子の果てに見つけた怪しげな建物に来たのだ。


「!」


 ふと見ると、廃れた教室の片隅に、チャイナ服を来た一人の美女が立っていた。


 ウホッ! いい巨乳……。


 ハッ。


 そう思っていると、突然その美女は俺の前で魅惑の谷間を寄せてあげはじめたのだ……!



「肉まんお二ついかが?」


「テイクアァアアアアアアアアアアアアアウトッ!」



 俺は己のリビドーが抑えられず無我夢中で二つの膨らみへと飛びついた……!



「肉まん最高―――――――――――――ッッッ!!!」








 ―――という夢を見たのさ。




「全俺が泣いた! どうせこんなオチだと思ってたよちくしょうっ!!」


 跳ね起きるとともにツッコむ俺。……跳ね起きる?


「ここは……いつっ」


 状況を確認しようとしていきなり鋭い痛みが頭を襲った。同時に意識が鮮明になっていく。そうだ、確か俺は好奇心に突き動かされて、興奮のあまりスキップで校舎を探索していたら、古くなった床を踏み抜いて……。


 見上げると、結構高いところに穴が開いていた。さすが俺、あんなところから落ちたというのに特に深刻な怪我が一つもない。ダテに借金取りと死闘をくりひろげたわけじゃないぜ!(リンチくらってただけってのは俺と君だけの秘密だ)


 痛みを堪えながら立ち上がる。さっきまで探索していたのは二階だったからここは一階……のはずだが、さっき一階を回ったときにはこんな部屋なかったと思うんだけど……。



 ―――そこで、俺は初めてこの部屋に俺以外の人物がいることに気づいた。



「……」


 ぜんぜん気づかなかった。これでも人の気配を察知するのは得意なのに。修司さんの時も気づけなかったが、これはそんなレベルじゃない。―――”本当に、この部屋に最初からいたのだろうか?”―――



 なんてのは正直どーでもいいことなんだが。



 そんなことより!

 

 薄暗い廃校舎の部屋の片隅、外から入るわずかな光に照らされた人物。その姿は間違いなく……


 

 美少女キタ―――――――――――――――ッッ!!



 神よ……あなたは俺を見捨てなかったのですね。


 いやー、何事もチャレンジしてみるもんだよな。まさかほんとにモノホンの美少女と出くわせるとは。まあね? 予感はあったわけですよ。なんかこう、朝起きた瞬間から、「あ、今日巨乳ちゃんと知り合いになれる」という絶対的な予感が! というか確信が!


 さっきの夢は正夢だったんだ!


 そうだ俺の確信が外れるわけがない!


 だってタイトルが『あれ』だもの!


「やっぱり肉まん最高―――――――――――ッッッ!!!」

 















 美少女の胸には、果てしない平原が広がっていた。




「………………………………………………………………………………………………………………あるぇー」


 しばし、目を閉じる。


 開ける。


 つるーん。


 効果音が聞こえそうなほど、やっぱりそこに男の夢は詰まってなかった。


「…………あの、君、新キャラ?」


「……?」


 少女は首をかしげる。しばし逡巡した後、なんとなく意味を悟ったのか、少女はコクンと頷いた。


「ハイーッ!!」


 バキッ


「……あれ? なんでだろう? 思い切り顔を殴ったのに夢から覚めないよママン」


 その時、ふと天からお告げが聞こえたような気がした。



『カレンダー、見てみな』



 言われた通りに携帯のカレンダーに目を通した。


 4月1日。



 ―――世間はそれを、エイプリルフールと呼ぶ。



「釣りか!? 読者をも巻き込んだ盛大な嘘っぱちかコラ!? 釣られてサーセン!」


 この世に神は存在しない。


 そんなことを深く痛感させられた俺だった。


「………………(ジー)」


「あ」


 いかん、絶望のあまり新キャラちゃんをほったらかしにしてしまった。ていうか、まだいたのか君。普通あれだけの奇行を見れば逃げ出すと思うんだけど。自覚ぐらい俺にだってあるよバカヤロウ!


 しかし、この新キャラちゃん、ずっとこっちを見ている。仲間にしてほしいのだろうか? さっきからずっと喋らないし、内気な子なのかも。


 いやしかし、冷静に考えると、これなんてギャルゲー状態だよな。それならここいらで選択肢とかが出てきそうだ。あ、ちょうど俺の頭にぽわぽわと選択肢が出てきた。


 どれどれ。




 1.犯す


 2.ヤる


 3.ナニをする




 とんだ下種野郎だぜヒャッホウ!


「………………」


 あれ。なんか距離を開けられちゃったぞ。変だな、おかしな挙動はしてないつもりだが。


「……そういう下品なこと考える人、嫌い」


 ……Oh。もしかして心読まれてますか俺?


 ていうかやっと喋ったなこの子。


「ねえ、もしかして俺の考えてることが分かるの?」


 俺は努めて優しい声音を選びながら少女に尋ねる。目が合う。速攻でそらされた。素っ気ない。しょぼーん。


 ふむ、答えないというのなら、ひとつ試してみるか。



 〜〜〜下ネタを回想中〜〜〜

 


 ズザザザザザザザザザザッ←ものすごい速さで後ずさる音


「…………(じとー)」


 やめて……そんな目でぼくを見ないで……。


「ぐすっ。心が読めるとか卑怯だ、プライバシーの侵害だぁー。訴えてやるぞうぇえええん」


 ショックのあまり幼児退行に突入した俺。まあブラフだけど。


「……ぜんぶがぜんぶ見えるわけじゃない。普段は相手がどんな心理状態にあるかを知るのがせいぜい。でも、何故か邪な思いだけははっきり見えてしまう」


 な、なんという思春期殺しの能力! だがしかぁしっ。本場イギリスに勝るとも劣らない絶対紳士であるこの俺がそう簡単に邪な思いにとらわれるとでも―――!



 〜〜〜うはうはハーレム妄想中〜〜〜



「……さようなら」


「すんません! マジ冗談ですからそんな汚物を見るような目でぼくを見ないでっ!」



 サイゴはえっちなもうそうをふういんされた!



「ぐすっ。ひどい、ひどいよ神様。なんてキャラを投入しちまったんだよえぐっ。俺からエロスを取ったら、紳士から変態を取ったら、一体何が残るって言うんだよびぇええええええん!」←マジ泣き


「……変な人」


 新キャラちゃんは無情な一言で俺に止めを刺した。


 もう……どうとでもしてくれ……。



 俺は投げやり気味に壁際に座り込んだ。深い息をする。すると、思った以上に体が疲れていることに気づいた。はて、なんでこんなに疲れてるんだっけ? 素でそんなことを数秒間考えて、やっと俺が迷子であることを思い出した。廃校舎への興味が強すぎてすっかり忘れていた。


 一瞬、真奈美さんに連絡を取ろうと思ったが、結局やめた。別に深い意味はない。もうこの建物の目ぼしい場所はあらかた回ってしまったし、イベントらしきものにも遭遇できたので満足といえば満足なのだが、なんとなく俺はもう少しこの不思議な少女と語らっていたかったのだ。


「なあ、君ってさぁ、名前なんてーの?」


「……?」


「名前だよ名前。人なんだから名前ぐらいあるでしょ」


「…………」


「あの、無視ですか? シカトですか?」


「…………」


「……おーけい。それは俺に対する挑戦と受け取っていいんだな?」


「?」


 俺はちょうど近くに転がっていた白のチョークを手に取り、壁に文字を書き始めた。


「第一回! 新キャラちゃんに素敵な名前をつけよう選手権! はい拍手ー!」


「……それ、『第』一回じゃなくて、『策』一回になってる」


「…………ハッハッハ。モチロンジョウダンデスヨ?」


 さて、では気を取り直して。


「万年寝太郎」


「…………え?」


「え? じゃねえよ。万年寝太郎だよ。苗字が万年で寝太郎が名前。どうよこれ?」


「……わたし、そんなにいつも寝てないし、男の子でもない」


「なんだ気に入らなかったか。じゃあそうだな……麻生太郎なんてどうよ?」


「……わたし、政治なんてよく分からないし、アニメも漫画も知らないし、何より男の子じゃない」


「これもダメか。それじゃあ……あっ、浦島太郎とかぴったりじゃね?」


「……いい加減太郎から離れて」


「たく、注文の多いやっちゃなあ。分かった分かった、そこまで言うなら、君には俺が子供を授かったときに与えようと思っていた名前、小便太郎を贈呈しようじゃないか。もってけドロボー!」


「………………」


「え、嘘? これもダメなの? おかしいな、俺の予想では小便の時点で喜びのあまり側方倒立回転でも始めるはずだったんだが……。うーむ、ここまで手ごわいとなると、やはり禁断の花子シリーズを持ち出すしか……」


「ゆう」


「ん?」


「……わたしの名前、ゆう」


「ほー。ゆう、か。いい名前だな。まあ小便太郎には遥かに劣るが。俺は朝霧才悟。漢字分かるか? 朝の霧に、才を悟るって書くんだ」


「……バカにしてる? それぐらい分かる」


「そうか? お前、パッと見、中学あがりたてに見えるけど」


「……失敬な。わたし、あなたより年上」


「うそっ!? 今何歳!?」


「268歳」


「はいはいあるあ―――ねーよ! リアル世界にロリババアが存在できる道理はチリ一つとして存在しません!」


「……そんなこと言われても。これ、変えようのない事実。不変の真理」


「……分かった。そこまで言うなら268歳ってことにしてやろう。じゃあこれから君の呼び名はババアな」


「え」


「これからよろしくね、ババア」


「……」


「うん? どうしたんだいババア?」


「…………」


「あれ? 聞こえなかった? ああそうか、ババアだもんね。声も聞き取りずらいよね。ごめんよババア。で、どうしたんだい? バ バ ア ?」


「………………14歳で、いい」


「え? よく聞こえないよババア」


「14歳!」


「うおっ!」


 初めて聞いた少女の怒声に俺は飛び上がった。見ると、今まで感情に乏しかった表情に赤みが差している。どうやら思った以上にババアという呼び名が不名誉だったらしい。


「あーびっくらこいたぁ。なんだ、ちゃんとでかい声も出せるんじゃないか。やっぱり子供は元気な声を出してる方がいいね、うんうん」


「…………」


 沈黙してしまった。さすがにからかいすぎたかな。


 こうなったら、密かに編み上げていた俺の処世術、”土下座から始まる信頼関係”を実行に移すしかないか――


「……どうして?」


 突然、少女は口を開いた。まん丸とした目をまっすぐ俺へと向けて。


「……どうして、あなたはここを去らないの?」


「どうしてって、ゆうに興味があったから。もっと話してみたかったから。……ひょっとして、迷惑だったか?」


 ふるふる、と彼女は首を振った。


「……恐くないの?」


「恐いって、何が?」


「……わたし、人の心が読めるんだよ?」


「うん、それが?」


「……気持ち悪く、ないの?」


「べつに?」


「……わたしがうそついてるって、思わないの?」


「そりゃ、突拍子もなく『わたしぃ、実は人の心が読めちゃうんですぅ〜、てへっ☆』とか言い出したら張り倒してるところだけど、実際にゆうは俺の心を読んだんだろ? 俺は人から得た情報には常に疑心を抱いてるけど、自分の目で見た情報は信じることにしてるんだ」


「……変な人」


「失敬な。ここまで完璧なナイスガイなんて今時珍しいべ?」


「……訂正。サイゴはおもしろい人。くすっ」


 ゆうは初めて俺に笑顔を向けた。それは笑顔というにはあまりに淡いものだったけど、俺の心はほんわかと温かくなった。


「……あ」


「どうした?」


「もう、帰らないと……」


「そうなのか」


 携帯の時計を見ると、時刻はちょうど17時を指していた。意外に長い時間ここに居たらしい。


「……ねえ、サイゴ」


「ん?」


「……また、一緒に遊んでいい?」


「まあ、今みたいな感じでいいなら、いくらでも相手してやるけどさ、俺なんかと遊ぶより友達と遊んだ方がいいんじゃないのか?」


「……いい。サイゴがいい」


 それに、とゆうは付け足した。


「……わたし達、もう友達」


「なるほど、こりゃ一本取られた。ははは」


「ふふ」


 そうして、一つの微笑をもらした俺の新しい友達は、どこかへと去っていった。


「……ふぅ。これまた、変わった奴と知り合いになっちまったなぁ」


 でも、悪い子ではなさそうだ。不思議ちゃんではあるけど、おとなしいし、かわいいし。ぜひウチの麗菜とポジションチェンジしてもらいたい。


「さて、それじゃあ俺もみんなのところへ戻るかな」


 もう一度俺は携帯を取り出してアドレス帳を引き出した。そんで真奈美さんの番号を見つけ出してコール。何回かコール音が鳴ってから、それが止まる。


「もしもし、真奈美さん? 俺だよ俺俺。あ、オレオレ詐欺じゃないぞ? にしてもよく一発で電話に出れたなぁ真奈美さん。いっつも2、3回ははミスらないとダメなのに。あれ? 真奈美さん? もしもし、聞こえてる?」


 おかしい。ぜんぜん返事を返してくれない。訝しく思って俺は画面を見てみた。



 ――バッテリー切れです。充電してください――



「……………………………………………………………………………あるぇー」


 さて、質問するぞこの野郎。


 この尋常でないほどの広さを持つ学園を、救助なしに徒歩で脱出できる可能性はいくら?


「……ハッハッハ、おーけいおーけいなんにも問題ないあるヨー。とにかく誰かに会えればいいんだからちょーらくしょーあるヨー」


 イッツポジティブシンキング。大丈夫! だって僕はやればできる子だもの!







 ―――もちろん、俺が救助されたのはそれから7時間後のことでした。


 もしも許されるならば、わたしは神を殴りたい。






はいはい釣り乙。


いやー、一回やってみたかったんですよね、タイトル騙し。ホントはエイプリルフールネタとして4月1日に出す予定だったんですけど、見事に間に合いませんでした。もし作者がプロになったとしたら、速攻で首を切られるでしょうね。締め切り? なにそれおいしいの?


さて、今回はまたずいぶんと間が空いてしまいましたが、今回のは理由があるんです。一応作者は職業的には『高校生』という立場にいるわけで、今年はその高校生活でもっとも厳しいイベント――つまり受験があるわけです。そんなわけで最近は予備校と家を行き来してばっかりで小説を書いてる時間がないんです。気力もわかないですし。

ということで、まことに勝手ながらしばらく小説の更新はストップということになりそうです。暇があったら書いたりするかもしれませんが、せいぜい1,2話分ぐらいだと思います。本当に申し訳ありません。


それでは、また受験が終わったシーズンにでもお会いしましょう。

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